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紆余曲折あったが、UFTも選択肢に 乳がんの術後薬物療法に初の「日本発エビデンス」

監修:渡辺亨 浜松オンコロジーセンター長
取材・文:「がんサポート」編集部
発行:2009年3月
更新:2013年6月

乳がん患者団体から反対の声

ところが、蓋を開けてみると、乳がん患者団体の1つから猛烈な反対の声が上がった。「患者をモルモットにするような試験は中止してほしい」「自分でも使わないような薬を患者に使うとは何事だ」といって、臨床試験の参加施設に「中止要望」の手紙を送るという行動に出た。

「自分でも使わない薬」とは、その患者団体が渡辺さんに面談に来たとき、「僕は現段階ではCMFのほうがいいと考え、患者さんにはこれを使っている。ただ、専門家の間では評価が分かれているので……」と渡辺さんが話した前段の部分だけをその患者団体が取り上げて槍玉に挙げたのである。

「その影響で症例登録が急減する事態になり、結局、733症例が登録されるに止まった。そのため、観察期間を倍にしなければならず、5年以上遅れることになりました」

試験開始から10年以上経ってようやく結果が出ることになった背景には、そうした事情があったのだ。

乳がん術後治療に日本発エビデンス

写真:ASCOの会場で発表している渡辺亨さん
ASCOの会場で発表している渡辺亨さん

N・SAS-BC 01試験結果の論文が掲載されることが決まったJCO誌
N・SAS-BC 01試験結果の論文が
掲載されることが決まったJCO誌

さて、紆余曲折あったが、その試験結果はどうだったかというと、UFTとCMFは効果のうえで同等という結論だった。無再発生存期間においても全生存期間においてもUFTはCMFに劣っていないことが証明された。

この結果が2007年に米国シカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表され、次いで世界的に権威のあるJCO(ジャーナル・オブ・クリニカル・オンコロジー)誌に論文が掲載されることも決まった。乳がんの術後治療における日本発のエビデンスとしては初めてで、画期的といえる。

ただ、この10年間に、乳がん術後治療の世界の潮流は、CMFからアンスラサイクリンを含むレジメンへと移り変わり、今、TACとか、AC→Tのドーズデンス療法(投与間隔の短縮療法)などといった第3世代と呼ばれるレジメンも出てきている。その中で、UFTはどう位置づけられ、どういうケースで使ったらいいのだろうか。

「かつて世界の標準治療だったCMFが今や過去の療法かというと、そうじゃありません。今もれっきとした治療の1つです。再発リスクのあまり高く��い患者さんには、AC、ECと同時に、CMFも選択肢の1つです。ですからそれと同等のUFTも十分使い道はあります。具体的には、リンパ節転移陰性の高リスクの場合が最も適していますが、他に、リンパ節転移陰性で中間リスクの場合やエストロゲン受容体(ER)陽性、プロゲストロン受容体(PgR)陰性でHER2陰性の場合も選択肢の1つとして考えていいでしょう。とくに高齢の方とか、脱毛が嫌な方はUFTの選択を考慮していいと思います」

治療を考える際の4要素

ただ、実際の治療を考える際、4つの要素を考え、総合的な観点から判断していく必要があると渡辺さんは指摘する。

「4つは、エフィカシー(効果)、セイフティ(安全性)、フィジビリティ(実現可能性、便利さ)、コスト(値段)です。この中で、1つ問題があるとすればコストです。UFTの場合、毎日2年間飲み続けることになるので、CMFに比べて費用はかなりかさみます。それを患者さんがどう判断するかでしょう」

ただ、安全性の点でも、全く問題ないわけではないことも明らかになった。以前はUFTは「経口剤だから楽だろう」「経口剤だから副作用がない」と考えられていたが、実際はそうではなく、数は少ないが、重い肝障害が起きることも判明した。

だから渡辺さんは「治療初期の8週間くらいはこれを十分に注意する必要がある」という。

しかし、他の副作用ではUFTのほうが軽く、優っている。

「UFTは悪心・嘔吐が少なく、脱毛や便秘も起こりにくく、QOL(生活の質)もあまり下げない点はメリットです。卵巣へのダメージも少ないのですが、これは不妊の原因になるのを避けられるメリットなのか、卵巣抑制を介したホルモン効果がないデメリットなのか、まだわかりません」

臨床試験が順調に進んでいれば、解析対象となる症例数も多く、このような検討もできる予定だったが、遅れたためにまだできないでいる。臨床試験が遅れた影響は少なくないが、それでも、このN・SAS-BC 01という臨床試験が、世界の乳がん術後治療の分野に大きな一里塚を築き、明日へのステップになったことは間違いないようだ。

[UFTとCMFの副作用の比較]
図:UFTとCMFの副作用の比較

Watanabe T et al. J Clin Oncol 2007; 25: 18S PT I(abstr No 551).

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