乳房温存療法、再建術にみる乳房への想いの日米差 乳がん治療は、より体にやさしい方向へ、さらに進化
放射線治療期間を短縮する方法

――放射線治療もまた、縮小化しているのですか?
ゴルシャン まだ標準的な治療とはなっていなくても、将来期待が持てる方法として、いろいろな臨床試験が進められています。現在放射線治療を行うには5週間以上かかっていますが、それをもっと短くして1週間くらいで終えることができるのではないかと検討されています。この場合、一般には放射線照射は乳房全体に対して行うことになっていますが、がんを切除した部分の周りだけに対して行ってもよいのではないかと考えられているのです。
――1週間という短期間の照射でもよい可能性があるという根拠は何でしょうか?
ゴルシャン 小さな部分だけに照射すれば、線量も少なくできます。乳がんの再発の90パーセントは、手術した部分の近傍からの再発だからそういう考え方が出てきました。
――ほかにも体への負担が少ない治療法がいろいろ登場していますね。
ゴルシャン 乳房の中のがんをラジオ波やレーザーで焼いたり、集束超音波で叩くなど、侵襲の小さい治療法が出てきました。
――米国でラジオ波はどのような症例が適応とされ、どのくらい普及しているのですか?
ゴルシャン 米国では12ぐらいの施設で臨床試験として行っています。ステージT1のリンパ節転移のないもので、腫瘍が1.5センチ以下のものが適応です。しかし、乳房全摘が適応と考えられる例にラジオ波治療を行う医療施設もあって、問題になっています。がんの残存があるかどうかの病理検査ができないこともありますので適応はきっちり守って臨床試験の範囲でのみ行われるべきです。標準治療としては切除が基本であると考えています。
乳房全摘後にもさ���ざまな治療
――乳房を残す手術が増えた影響を受けて、手術後の乳房再建術も発達したのでしょうか?
ゴルシャン これまでのように大きく切除した場合は、そのあと選択の余地がありませんでしたが、手術のあともいろいろできることが出てきました。乳首を残す手術をしたり、欠損ができた乳房を形成することもできるようになりました。手術でできた乳房の欠損に対しては、もともと他の部分から取った筋肉を入れていたのですが、ヘルニア(本来あるべき部位から脱出した状態)などの障害が起こることがありました。そこで自分自身の脂肪を入れたり、インプラント(人工材料)を入れたりする技術ができたことが1つの要因です。美容的に大きく改善したばかりでなく、ヘルニアなども予防できるようになりました。
たとえば私は今回来日する4日前に、米国で広島出身の日本人に手術をしてきました。この人は非浸潤がんでしたが両乳房にがんができて大きく広がっていたために、これをきれいに取るため乳房を全摘するという手術をせざるを得なかったのです。そこで彼女の場合、乳房の中にティッシュエクスパンダーという袋を入れてそのあとその中へシリコンを入れて形成する手術をしました。
乳頭温存大網充てん法という技術
――再建術の分野も技術革新は大きいわけですね?
ゴルシャン 日本で開発された大網で欠損部を充てんする「乳頭温存大網充てん法」という技術はとてもエレガントな方法です。大きな傷口が残らずきれいに仕上がります。この治療法について2年前に『アメリカン・ジャーナルオブ・サージャリー』(米国外科学会誌)に日本人医師が15例の報告をしています。この技術は米国ではそれほど行われておらず、私たちもまだ2例しか経験がありません。
――日本では再建術を受ける人の割合はまだまだ多くはありません。例えば岡山大学の場合10パーセントからせいぜい20パーセントくらいです。米国ではどのくらい普及しているのでしょうか?
ゴルシャン 私たちの病院では50パーセントが再建手術を受けています。しかし、米国全体では再建手術は25パーセントしか行われていません。それはおそらく経済的な問題もあるのでしょう。米国で乳房切除手術の医療費は1000ドルなのに対してアロデルムというきれいなバストラインを出すインプラントを入れるだけで4000ドルもかかります。米国でも日本と同じように高騰する医療費は大きな問題になっているのです。
しかし、そもそも切除手術を行う医師の中には再建をあまり重視していない人も少なくありません。「面倒だ」というふうに主張して、最初から再建などを考えない医師もいます。
――米国でもやはりそうなのですか。
ゴルシャン 女性にとっては乳がんを診断されることもショックですが、実際に乳房を失うことはもっとつらいことでしょう。乳房再建はがんの治療という観点からは重要な問題ではありませんが、手術麻酔から覚めたとき片方の乳房がないということはどれほど大きな悲しみか、外科医も理解する必要がありますね。女性にとってはやはり乳房があるというのは非常に心理面で支えになることです。
――日本では乳房温存療法についての知識が非常に広がり普及していますが、再建についてはまだまだ認識も高くありません。これは患者さんばかりでなく医師もそうだと思います。日本の乳がんの患者さんに再建の知識は、どうすれば普及させられるでしょうか?
ゴルシャン 再建術は安全であることが大切なところであり、まず安全であることを知っていただきたいと思います。たとえばシリコンを入れても体に悪い影響が出ることはありません。私たちの手術ではもちろんがんを治すことが最大の目的ですが、その次には乳頭を温存して、形成外科医に送ることができるような処置をすることを考えています。もし「私は温存術など考えない」という患者さんがいれば、それでもいいと思います。しかし、私たちはおおむね患者さんから感謝されてきました。ダナファーバーの乳腺部には12人の医師がいますが、全員がとても再建術に積極的です。
個人のリスクに対応した治療法

――ダナファーバーがん研究所ではセンチネルリンパ節に転移があった場合に脇の下のリンパ節の郭清はどのように行われていますか?
ゴルシャン 現在は乳がんの患者さんが、もしセンチネルリンパ節にがんの転移が見つかった場合、さらにその先の脇の下のリンパ節に転移があるかどうかを正確に予測できるノモグラムというシステムができています。ニューヨークにあるメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターのファンディ博士は、センチネルリンパ節に転移があってもその先の脇の下のリンパ節への転移の確率の少ない患者さんのグループを高い精度で判定できることを報告しました。このグループではたとえセンチネルリンパ節に転移があっても脇の下のリンパ節郭清をしなくていいことになるわけです。
――その場合、化学療法は行うのですか?
ゴルシャン そうですね。手術の後どんな治療をするかということが問題になってきます。術後の化学療法としてとても有効な治療法が出てきたので、それらのうちその人にはどういうものがいいか、何をどう組み合わせて用いるか、ということを見つけていこうというのが、今後の私たちの課題です。ノモグラムはその治療がどういうふうに効くかという予後を知る非常にいい指標になっています。
――センチネルリンパ節に転移のある人で、そのまま観察するだけでいい人もいれば化学療法を行ったほうがいいという人もいるわけですね。
ゴルシャン 現在の標準治療はあくまでもリンパ節郭清です。その中でノモグラムが登場したので、これを使うことによってリンパ節郭清する率は90パーセントくらいから80パーセントくらいに少し下がっています。このデータは2年前にミシェル・ガッド博士がサンアントニオ乳がんシンポジウムで発表しました。
――ノモグラムは日本ではまだ採用されていないと思います。日本ではセンチネルリンパ節生検さえまだ保険が適用されておらず、標準治療としては公的には認可されていない状況です。これを変えるべく現在多施設での治験が行われています。
これからの乳がんの診断・治療技術の進歩としてはどのようなことが考えられますか?
ゴルシャン 10年後くらいには、小さい針でがん細胞を採取して遺伝子を調べて、どういう治療が効果があるかがわかる「標的療法」というものが実現すると思います。がん細胞に非常に特徴的なマーカーに対する抗体をつけてそれがたとえば光るとか放射性の目印を持つとかいうことで再発予防もしやすくなるでしょう。
また、早期発見のための技術としても、自己検診の方法や全乳房超音波、乳房MRI、胸部CTなどの発展も予想されます。
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