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乳房温存療法の新しい武器「小線源治療」

取材・文:黒田達明
撮影:向井渉
発行:2009年3月
更新:2023年1月

放射線科医と外科医の連携が可能にした治療法

それでは、東京西徳洲会病院が行っているAPBIの概要を説明しよう。

APBIにはいくつかやり方があるが、同病院では小線源療法を採用している。これは、腫瘍床付近を貫通するように管(アプリケーター、あるいはカテーテルとも呼ばれる)を乳房に刺し、アプリケーターの中に線源を挿入する方法。同病院の乳腺腫瘍センター長、佐藤一彦さんは導入経緯をこう語る。

「アメリカではマンモサイトという手法のAPBIが普及していて、初めはそれを導入しようと検討したのですが、欧米人に比べて乳房の小さい日本人には向かないようです。そこで、患者さん1人ひとりの乳房の大きさや症例に合わせてアプリケーターの位置を調節する、いわばオーダーメイドの治療ができる小線源治療を採用しました」

メリットは何か。まず、なんと言っても治療期間がわずか5日と短いこと。同病院のやり方は、小線源治療の一般的なやり方と比べてもさらに短いという。

「一般的には、最初に外科医が腫瘍摘出手術をし、1週間ほど経って抜糸をしてから、今度は放射線科医が中心になって、アプリケーターを挿入し、放射線治療を始めます。私たちの場合は、手術場に放射線科医も立ち会い、手術の一環としてアプリケーターを留置し、手術当日の夕方から1回目の照射を開始します。こうすることでさらに治療期間を短縮できますし、アプリケーターを腫瘍摘出後の空洞に挿入する様子を直視下で確認しながら行えるので、より正確に制御できます」(大川さん)。

「互いに信頼し合う放射線科医と外科医のチームプレーがあって初めて可能なやり方」と大川さんと佐藤さんの2人は誇る。

他のメリットとしては、全乳房照射に比べて、皮膚や肺などの線量が抑制できること。また、全乳房照射による治療を経験した乳房に新たながんが見つかった場合は乳房温存療法を適応できないのに対し、APBIなら、もう1度適応できること、などが挙げられる。

デメリットは今のところ発見されていない

写真:佐藤さん

「患者さん1人ひとりの乳房に合わせて放射線照射を調節する小線源治療は、オーダーメイド治療と言えます」と佐藤さん

では、デメリットはなんだろうか。副作用は全体照射に比べてどうなのか。

「私たちは2008年10月に最初の治療を行い、現時点(2009年1月6日)で、11例目ですが、今のところ、大きな副作用は確認されていません。もちろん、まだ結論を出せる段階ではありませんが。乳房は体から突出しているので、適切に照射すれば、全体照射でも副作用はほとんどありませんが、それはAPBIでも同じはずです」(大川さん)

ただ、1つ懸念されたのはアプリケーターの挿入跡が残ることだったという。「アプリケーターの径は約2ミリで、それを1~1.6センチ間隔で何本も刺します。きっと傷跡が残ると思っていました。ですが、実際には1カ月も経つと跡はほとんど消えていました。点滴の跡もやがて消えるでしょう。あれと同じだったんです」(佐藤さん)。患者の傷は、乳腺腫瘍センターの医師、繁永礼奈さんが女性の視点でチェックしても、問題を感じないほどに回復したという。

この治療法に対して、徳洲会病院倫理委員会が承認した主な適応条件は、次の3点である。(1)年齢40歳以上、(2)腫瘍径3センチ以下、(3)術中のセンチネルリンパ節生検が陰性(転移が確認されない)。

無痛で心理的負担も少なく治療費用も経済的

実際の治療事例に基づいて治療プロセスを紹介しよう。

取材日には午前中、腫瘍径5ミリの患者の乳房温存手術が行われた。腫瘍は周囲に1センチのマージンをとり、2.5センチ径の筒状に摘出。切除した跡の断端に4個のクリップで印をつけ、迅速病理診断を行う。クリップは照射の標的領域(体積)を定める際の指標となる。ごく微小な金属片で、体内にそのまま留まるが問題はないという。

続いて、センチネルリンパ節生検と切除した空洞の形成。最後にアプリケーター3本を、1.6センチ間隔で設置した。アプリケーターの設置位置や本数は、通常事前にCT検査に基づいて決める。手術は2時間程度で終了。その後すぐにCTの撮影を行い、患者はそれからしばらく病室に戻って休憩となる。

一方、治療チームは、術後のCTデータを基にして、直ちに放射線治療計画の立案に取りかかる。データを放射線治療計画最適化装置(PLATO)に取り込み、摘出後にできた空洞(凹みを防止するため、生理食塩水で満たされている)、クリップ、設置されたアプリケーターの位置を3次元的に把握し、最適な照射方法を求める。

標的とする領域(体積)に4グレイの照射を行い、他の領域の線量は極力抑える。とくに皮膚や胸壁の線量は必ず3グレイ以下にする。これらの条件を満たすように、アプリケーター内で線源を滞留させる位置とそれぞれの位置での滞留時間を最適化する。

手術当日の夕方、1回目の小線源治療が行われた。患者が治療台に横たわると、線源の格納庫とそれぞれのアプリケーターをチューブでつなぐ。次に、小線源治療用位置決め装置(IBU)でレントゲン写真を撮り、設置したアプリケーターにズレのないことを確認。

そして、いよいよ照射となるが、その様子は冒頭でお伝えした。治療に痛みは伴わないという。照射は合計8回。翌日から1日に朝夕の2回行い、土曜日の午前中に完了。その間、アプリケーターが入ったまま生活することになるが、痛くはないという。以前に治療を受けた患者は体験をこう語る。「不安もなく小線源治療を受けられました。自宅から通院に1時間半かかるので、放射線治療は大変だと思っていましたが、仕事にもすぐに復帰できて、うれしいです」

治療には保険が適用され、費用はすべて込みで20万円程度。従来の放射線治療を選択した場合は60万円くらいになるというから、経済的でもある。

写真(1)

(1)腫瘍を取った後の空洞部分に、直径2ミリのアプリケーターが留置された

写真(3)

(3)放射線治療計画最適化装置(PLATO)により、3次元的に放射線の照射が計画された

写真(2)

(2)アプリケーターの設置後、CTを取り、放射線技師と線量を計算する佐藤さん

写真(4)

(4)アプリケーターと線源をつなぎ、放射線の部分照射を行う

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