乳がんは「全身疾患」と考えて、全身治療をすることが大切 これだけは知っておきたい乳がんの基礎知識
術後に効く可能性の高い治療は、いち早く術前にもやってしまう
では、具体的に、治療はどう行われるのでしょうか。ごく一般的にいうと、以下のようになります。
しこりの位置がごく局部に限定され、全身治療が必要ない(=転移危険性なし)と考えられる場合は、局部を手術で取り、治療はおしまいとなります。
しかし、そうしたごく早期のがんをのぞくと、ほとんどは手術でしこりを取り、術後の患部に放射線をかけて局部再発を防ぎ、さらに全身治療を行うことになります。
このとき、HER2が陽性の人に対しては、まず抗がん剤+ハーセプチンの治療を行い、そののちホルモン療法を行います。HER2が陰性で、再発リスクが低い場合はホルモン療法を単独で行い、再発リスクが中間~高リスクの場合は、化学療法ののちホルモン療法を行います。
全身治療についてのニュースとしては、ハーセプチンが術後に使えるようになりました。今までは再発進行がんにしか使えませんでしたが、今年4月、初発がんで手術したあとにも、保険が適用されるようになりました。
また、術後に抗がん剤を投与するような患者さんに対して、術後投与の代わりに手術の前に抗がん剤を投与するようになってきたのは、大きな変化だと思います(術前化学療法)。私自身、術後に化学療法を行うような患者さんに対しては、術前に同じ治療を受けることを原則的にすすめています。
実際、術前化学療法によってしこりが小さくなり、不可能だった乳房温存が可能になった患者さんも少なくありません。これから治療にかかる患者さんにはぜひ術前化学療法について知っていただき、その可能性を医師と相談していただきたいと思います。
なお、術前のホルモン療法については、今のところまだデータが十分ではないため、一般には行われていません。また、術前のハーセプチンは抗がん剤との組み合わせで効果が認められているため、単独では使いませんが、これも一定のデータが得られれ���、将来的に単独使用が検討されるでしょう。
ホルモン療法について最近の傾向をもう1つお話すると、投与期間がどんどん長くなっていることです。乳がんは術後5年以上たってから再発することもあるため、ホルモン療法で再発を抑えられるなら、長く使えばいいじゃない、ということになってきたのです。
実際に、「長期使用が効果あり」とのデータも出揃い、途中で薬を変えたりしながら、5年10年と続けることが普通になりつつあります。
乳がんの全身治療について大事なのは、最初の段階でできる限り強い治療を行うことです。
ひと昔前は、「再発したときに打つ手がなくならないように」と、治療法を出し惜しむ傾向がありましたが、まったく意味がないことがわかりました。とにかく「最初に一気に叩く」。これが肝要と心得てください。
センチネルリンパ節生検でリンパ節を残せるケースも増えた

さて、全身治療についてはおわかりいただけたのではないかと思いますが、「小さく切る」ことについても少々ふれてみます。あくまでも、「小さく切る」ことが最良なのではなく、「必要十分なだけ切る」のが最良、ということです。そのために、たとえば聖マリアンナ医科大学では、世界に先駆けて乳房の画像診断としてMRIを使って病巣を調べるMRマンモグラフィを提唱しましたが、これによりがん組織の広がりをより正確にとらえることができるようになりました。また、「小さく切る」ことに関する最近の傾向としては、センチネルリンパ節生検が少しずつ普及してきたことがあげられます。
センチネルとは「見張り」の意味で、がんが転移していく道筋の最初に当たるリンパ節のことです。ここを調べ、転移が見られなければ、がんが転移していない可能性が高いため、手術においてリンパ節は切らず、温存します。これがセンチネルリンパ節生検です。転移が確認された場合には、リンパ節も取りますが、不必要に切除される可能性が減り、まさに必要な部分だけを切ることが可能になりました。今のところ、施行率は全国平均で56パーセント程度ですが、医療機関によって施行率や施行方法が違います。
聖マリアンナ医科大学でも73パーセントの患者さんに対して、センチネルリンパ節生検を行っています。また、外来でセンチネルリンパ節生検を行い、術前化学療法でがんを小さくし、リンパ節転移がない患者さんには、化学療法後、くりぬき手術だけですませる施設もあります。
医療機関による差はまだまだ大きいので、センチネルリンパ節生検が可能かどうか、何パーセントの患者さんに行っているか、などは確認していただきたいと思います。
手術と同時に乳房再建もできる。切ると言われても絶望しないで

なお、そこまで行っても乳房を残せないケースは、残念ながらあります。けれど、そうした場合でも皮膚と乳頭と乳輪を残し、同時再建が可能なケースは少なくありません。
がん治療の最前線はまさに日進月歩ですので、局所治療に関しても、さらに手術範囲を小さくする方法が研究されています。ラジオ波による治療や、超音波を使ってがんを焼く「収束超音波治療(通称FUS)」、がん組織を凍らせて取る方法なども、その例です。
聖マリアンナ医科大学では、特殊な動注療法も試みています。
一般には行っていませんが、腫瘍が大きくて手術も放射線も不可能な患者さんに対して行い、帰りは普通のサイズになって帰宅されたこともありました。
今でも乳がんは打つ手の多いがんですが、今後さらにいろいろな方法が出てくるものと思われます。再発しても絶望せず、医師と相談して治療を続けてほしいと思います。
最後に1つ、申し上げたいことがあります。残念ながら、がんが再発転移してしまい、積極的に治療する方法がなくなっても、今は痛みのケアをふくめ、よい時間を少しでも長くするための方法がそろっています。いわゆる緩和ケアです。終末期のケアと思われがちな緩和ケアですが、痛みや不快な症状の緩和や精神的なサポートは、何も終末期に限りません。病気になったそのときから、遠慮せずにしてもらえばいいのです。
そうすれば、病気にともなう諸症状も恐れる必要はありませんし、1人ぼっちでなく、1つの医療チームをバックにもって病気と闘えます。終末期にいきなり命の問題に直面するのではなく、ゆっくり自分の状態を受け入れることもできるのではと思います。
大事なのは、治せるものはきっちり治し、完治がむずかしい場合は、充実して過ごせるよい時間が少しでも長くもてることではないでしょうか。そうした思いを軸に治療法を選び、緩和ケアなども積極的に利用しながら、乳がんと向き合っていただければと思います
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