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温存療法に次いで、「乳房全摘+乳房再建」が見直されている 「乳癌診療ガイドライン」をわかりやすく読み解く

監修:池田正 帝京大学医学部外科学教授
取材・文:祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2008年10月
更新:2013年4月

ハーセプチンが術後補助療法に

術前・術後の補助療法については、2007年に薬物療法の改訂版が発表、出版されています。

ここでの変化は、前回のガイドラインで進行・再発がんの治療にのみ適応となっていた分子標的治療薬ハーセプチン(一般名トラスツズマブ)が術後補助療法にも使われるようになったことです。池田さんによると、「米国臨床腫瘍学会で術後補助療法にハーセプチンを上乗せすると、再発率に大きな差が出るという報告が4本も発表されたことがきっかけ」だといいます。もともと、HER2陽性の乳がんはタチが悪く、あまり予後が良くなかったのですが、標準的な化学療法にハーセプチンを上乗せすると再発リスクが5割も減ると報告され、アメリカでは即座にハーセプチンを上乗せすることが標準治療になったそうです。

全乳がんの約25パーセントはHER2というタンパクを持ち、このタイプの乳がんは、増殖因子という栄養をとり入れて育ちます。がん細胞にHER2がどのくらいたくさん出ているかによって、プラス1、プラス2、プラス3とランク付けし、プラス2、プラス3を「強陽性」といいます。

日本でもHER2強陽性の人、さらにプラス2の人はフィッシュ法という検査で増幅が見られた場合、今年からハーセプチンを術後補助療法として使うことが、保険で認可されたそうです。池田さんによると、「来年にはハーセプチンのもっと強力なタイプの薬タイケルブ(一般名ラパチニブ)が登場する」そうです。これは、耐性ができてハーセプチンが効かなくなった人に使われると見られています。HER2陽性患者の予後は、ハーセプチンの登場で大きく変わってきたのです。

術後のホルモン療法はさらに長期化

一方、ホルモン感���性の閉経後乳がんでは術後補助療法としてのアロマターゼ阻害薬の位置づけが明確になってきました。

これまで、ホルモン感受性の閉経後乳がんでは、術後5年間ノルバデックス(一般名タモキシフェン)を投与するのが標準治療でした。ところが、これを途中でアロマターゼ阻害薬に変えたり、5年間のノルバデックス投与期間が終わったあとでさらにアロマターゼ阻害薬を使うと、再発率が低下することがわかったのです。しかし、「では、いくつかあるアロマターゼ阻害薬のうち、どれを最初から使ったらよいのか、またアロマターゼ阻害薬を使ってからノルバデックスを使ったらどうなのか、このあたりはまだ臨床試験中でわかっていないのです」(池田さん)など、アロマターゼ阻害薬を、どのくらいの期間使うべきなのかもまだわかっていないそうです。

また、再発リスクの少ない人もアロマターゼ阻害薬をのむべきかどうかという問題もあります。ガイドラインでは、ホルモン感受性のある閉経後の早期乳がんで術後ノルバデックスを5年間のんだ人は、アロマターゼ阻害薬をさらにのむことを考慮する、となっています。期間の提示はありません。池田さんは、「これまでの再発リスクで考えていく他ないでしょうが、私自身はリンパ節転移があった、などのリスクの高い人には、アロマターゼ阻害薬を引き続き服用することを勧めたい」そうです。

となると、術後5年間だったホルモン療法の期間が、さらに延びることになります。その背景には、「長期にフォローすると、5年たった後で再発する人も少なくないことがわかってきたのです。以前は、ホルモンに感受性のある乳がん(エストロゲンレセプターがある乳がん)は予後がいいと言われました。確かに最初は再発率も低いのですが、5年たつとそうでもなくなるのです。こうした人にホルモン剤を投与すると、再発率が低下することが臨床試験でわかり、アロマターゼ阻害薬の継続投与になってきたのです」と池田さんは経緯を説明します。

実は、この臨床試験で5年以降ホルモン療法を続けるとずっと再発率が低いことがわかったため、人道的な意味から試験は途中で中止されました。そのため、最適な服用期間などはわからずじまいになったそうです。

このあたりの問題は、「次回の改訂で入ってくるのではないか」と池田さんは見ています。

術後補助療法ではタキサン系のポジションが明らかに

この他、術後補助療法ではタキサン系抗がん剤のポジションが明らかになってきました。

術後補助療法としてタキサン系抗がん剤が普及してきましたが、これまでタキソール(一般名パクリタキセル)とタキソテール(一般名ドセタキセル)の使い方が、十分クリアになっていなかったといいます。それが、臨床試験によってタキソールは毎週、タキソテールは3週に1回投与するほうがよいことがはっきりしてきたのです。

2007年版のガイドラインでは、リンパ節転移があった早期乳がんに対して、術後補助療法としてアントラサイクリン系抗がん剤にタキサン系抗がん剤を追加すると有用であると明示されています。これは、タキサン系抗がん剤を追加することで、再発率が確実に低下することが明らかになったからだそうです。

抗がん剤の術前化学療法は組み合わせが課題

一方、抗がん剤による術前化学療法は、すでに標準治療になっています。2007年版のガイドラインでも、手術可能な早期乳がんに対する術前化学療法は、術後化学療法と同等の生存率があること、乳房温存率を向上させること、さらにpCR(病理学的完全奏効=顕微鏡で調べてもがん細胞が消えている状態)に入ると予後良好であることが明記されています。

ただし、池田さんによると「どういう抗がん剤の組み合わせがいいかは、ガイドラインで規定するほどのエビデンスがまだないのです。一般的にはアントラサイクリン系抗がん剤とタキサン系抗がん剤の併用が多く行われていますが、さらに効果の高い組み合わせを開発している段階」だといいます。すでに、ハーセプチンを併用するとpCRになる率が高くなるというデータがいくつか出ているそうですが、残念ながらハーセプチンの術前療法はまだ保険適応となっていないそうです。

では、術前化学療法でpCR、つまりがんが消えた場合、手術による摘出範囲はどうなるのでしょうか。

「組織をとってがん細胞の有無を調べる必要はあるのですが、その範囲が問題です。MRIを使って病巣を調べる『MRマンモグラフィ』などで調べてかなり効いた人は、小さく切除したりしています」と池田さん。顕微鏡的にではなく、臨床的にがんが消える人もいます。この場合には、2つのタイプがあるといいます。大きながんの固まりが縮小して触れなくなった場合には、小さく切除します。一方、同じように臨床的にがんが触れないといっても、がんの病巣が蜂の巣のようにスカスカになって、病巣が小さく分裂して触れなくなることもあります。この場合は、取り残しを防ぐために大きく切除する必要があります。これを慎重に検討しながら、切除範囲を決めていくそうです。

では、ホルモン感受性のある閉経後乳がんに対して、術前ホルモン療法は効果があるのでしょうか。化学療法より副作用が少ないのが魅力です。しかし、ガイドラインによると、乳房温存率は向上する(推奨グレードB)けれど、術後ホルモン療法と予後が同じというデータはないそうです。

「ホルモン療法は、化学療法と違って術前に使っても術後でも予後が同じというデータはないのです。また、若い人では抗がん剤が効くことが多いので、若い人にはあまり術前に使いたくないですね。ただ、抗がん剤より副作用が少ないので、高齢者や合併症があって抗がん剤が使えない、ホルモン療法が頼みという場合に、術前に使うことはあります」(池田さん)

基本的には術前のホルモン療法は標準治療ではなく、ほとんどの人は術後の補助療法として使うことになるそうです。

しかし、治療法が進歩してもやはり大事なのは早期発見。池田さんは「2年に1度は乳がん検診を受け、その間は自己検診を行って異常を感じたら検査を受ける。このことを忘れないでください」と語っています。

[主な乳がんの併用化学療法]

治療法 投与量(mg/m2) 投与方法 投与日 治療間隔 術後療法サイクル数
TAC(BCIRG001)(★CQ27)          
  ドセタキセル 75 静注 d1 3週毎 6
  ドキソルビシン 50 静注 d1    
  シクロホスファミド 500 静注 d1    
TC(US Oncology)(★CQ27)          
  ドセタキセル 75 静注 d1 3週毎 4
  シクロホスファミド 600 静注 d1    
3週毎ドセタキセル 60~100 静注 d1 3週毎 4
3週毎パクリタキセル 175 静注 d1 3週毎 4
毎週パクリタキセル 80(~100) 静注 d1 毎週 12
トラスツズマブ
(毎週投与法)
初回4mg/kg
2回目以降2mg/kg
静注 d1 毎週 52
トラスツズマブ
(3週毎投与法)
初回8mg/kg
2回目以降6mg/kg
静注 d1 毎週 18
出典:『乳癌診療ガイドライン2 外科療法 2005年版』(金原出版刊)より一部抜粋


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