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乳がん術前化学療法の効果、術前ホルモン療法の可能性 病理学的完全奏効率を高めると予後が改善される

監修:澤木正孝 名古屋大学大学院医学系研究科化学療法学講座講師
取材・文:「がんサポート」編集部
発行:2008年9月
更新:2014年1月

病理学的完全奏効率をいかに高めるか

このように病理学的完全奏効率と予後とが相関しているということならば、予後を改善するには、高い病理学的完全奏効率を得ることが必要となる。では、どうしたら高い病理学的完全奏効率を得られるのだろうか。その後の臨床試験では、そこに的を絞って検証されていくことになった。

1つは、抗がん剤をより強力にするアイデアだ。先のAC療法に、さらにタキサン系抗がん剤のタキソテール(一般名ドセタキセル)を加えて強力な治療にすると予後がどうなるかという臨床試験(NSABP B-27)だ(図3)。手術可能な乳がん患者2411名をAC療法のみ行う群と、ACにタキソテールを加えた群に分けて比較検討したものだ。

結果は予想通り、ACのみの治療よりも、タキソテールを加えたほうが病理学的完全奏効に至った割合が倍も多くなり(13対26パーセント)、しかもそうした奏効を得られた患者さんたちは再発率、生存率ともに良好であった。

ただし、全体の比較では、8年半に及ぶ観察をしたところでは、再発率、生存率で差は出なかった。

もう1つは、患者さん個々に適した個別化治療をするというアイデアだ。具体的には、HER2陽性の乳がん患者に対して、タキソール→FEC療法をしたのと、さらにこれにハーセプチン(一般名トラスツズマブ)を上乗せした場合を比較したのであるが、結論から言うと、圧倒的な差がつき、わずか42例を実施したところで臨床試験にストップがかかってしまった。具体的に言うと、ハーセプチン治療をしない群では、病理学的完全奏効率は26パーセントだったが、ハーセプチンを加えるとこれがなんと65パーセントとなり、大差がついたのである。

ということから、病理学的完全奏効率を引き上げるには、治療効果を予測する因子(バイオマーカー)を多く見つけ出すこと、そしてそれに沿った個別化治療をしていくことがいかに大事かがわかるだろう。この面では、日本の臨床試験でも追求されている。術前にFEC→D療法を行う臨床試験において、エストロゲン受容体(ER)とHER2受容体に対する感受性の違いにより、得られる病理学的完全奏効率が異なり、なかでもHER2陽性/ER陰性の場合に病理学的完全奏効率が最も高く、67パーセントであったことが判明している(図4)。

[図4 ER、HER2と病理学的完全奏効率との関係]
図4 ER、HER2と病���学的完全奏効率との関係

(Breast Cancer Res Treat 23 August 2007)

ホルモン療法による抗腫瘍効果の高さ

[図5 術前ホルモン療法の現在の位置]

[25] 手術可能な早期乳癌に対して術前化学療法は有用か
推奨
グレードA
術前化学療法は術後化学療法と同等の生存率が得られる
推奨
グレードB
術前化学療法により乳房温存率は向上する
推奨
グレードB
病理学的完全奏効(pCR)を得た患者は予後良好である
[3] 閉経後ホルモン感受性原発性乳癌に対して術前ホルモン療法を行うことで、乳房温存率は改善するか。また、術後ホルモン療法と比べて予後は同等か
推奨
グレードB
術前ホルモン療法により乳房温存率は向上する
推奨
グレードC
術前ホルモン療法は術後ホルモン療法に比べ予後が同等であるという根拠はない
(『乳癌診療ガイドライン』2007年版より)

ところで、術前療法というと、通常、術前化学療法を思い浮かべがちであるが、実は化学療法以外にもある。一般にはまだあまり知られていないが、今乳がん医療界で注目を集めているのが術前ホルモン療法だ。

術前ホルモン療法について、『乳癌診療ガイドライン』では、閉経後のホルモン陽性乳がんに対して行うことにより「乳房温存率は向上する」と推奨されているが(推奨度B)、予後については、「術後ホルモン療法に比べ同等という根拠はない」と推奨されていない。これは、予後について検証する臨床試験がまだ始まったばかりで、臨床試験があまり進んでいないためと思われる(図5)。

では、ホルモン剤に大きな乳がんを叩いて縮小させる効果があるのだろうか。

「ホルモン療法による抗腫瘍効果はかなりありますね」

という澤木さんは、自ら経験した事例をこう紹介する。

「来院した際は8センチを超える腫瘍で、腫瘍は自壊し出血を伴う潰瘍性病変になっていた患者さんがいます。ER、PgR(プロゲステロン受容体)ともに強陽性、HER2陰性だったので、アロマターゼ阻害剤のフェマーラ(一般名レトロゾール)を投与したところ、約1カ月で出血が止まり、腫瘍が縮小し、腫瘍マーカーも減少。2カ月後に潰瘍は上皮化し局所の処置は不要になり、3カ月後には直径4センチにまで縮小したのです」

その効果は約1年間持続したそうだ。ホルモン療法にこれだけの効果があれば当然ながら術前療法にも使えなくない。

薬が効いていないのに治療をする無駄を省く

[図6 術前ホルモン療法の臨床的奏効率(触診)]
図6 術前ホルモン療法の臨床的奏効率(触診)
[図7 術前ホルモン療法をした際の乳房温存率)]
図7 術前ホルモン療法をした際の乳房温存率

「今は術前療法に化学療法を用いていますが、その中にはホルモン受容体陽性でホルモン療法で効果が出る患者さんがいるかもしれません。だとすれば、そういう患者さんにはホルモン療法で十分で、あえて副作用の強い抗がん剤を使う必要はないわけです。今、そのことを検証しようとさまざまな臨床試験が行われています」

たとえば術前化学療法と比べてホルモン療法とどちらが優れているかを調べるものでは、海外で化学療法のFEC療法とフェマーラを比較した臨床試験が行われている。また、ホルモン療法のうちどれがよいかを調べるものでは、閉経後の患者さんに対して3種類のアロマターゼ阻害剤を比較する臨床試験が行われている。

その中で、すでに結果が出ている臨床試験もある。術前ホルモン療法としてタモキシフェン(商品名ノルバデックスなど)とフェマーラのどちらが優れているかを比較したものだ。それによると、有害事象(副作用)の出方では両者で差がなかったのに、腫瘍に対する縮小効果(奏効率)と乳房温存率ではフェマーラのほうが優れていたという(図6、7)。

術前ホルモン療法のメリットについて澤木さんはこう力説する。

「現在、ホルモン受容体陽性の患者さんには手術後に5年間ホルモン療法を行っていますが、その中にはホルモン療法が効いていない患者さんもいます。しかし、術前にホルモン療法をすれば、効くかどうかがわかります。効いていれば、術前と術後合わせて5年間治療をすればいいし、効かなかった場合は、別の薬剤に切り替えて治療をすることができる。これによって、薬が効いていないのに治療をする無駄が省けるわけです」

すでに、このような術前のホルモン療法の効果で術後の化学療法を行うかどうかを決められることを検証する臨床試験も、日本で始まっているという。術前ホルモン療法に関する臨床試験の今後の行方が注目される。

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