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世界の乳がん治療の最新動向を追う 乳がんの治療は、1人ひとりの患者に合った個別化医療の時代に入った

監修:中村清吾 聖路加国際病院乳腺外科部長
取材・文:常蔭純一
発行:2008年3月
更新:2013年12月

低下する化学療法の比重

この検査システムは乳がん治療にどんな影響を及ぼすと考えられているのだろうか。

遺伝子をベースにしているため、従来のリスク計算ソフトに比べると、飛躍的に精度が向上していることはいうまでもないだろう。この検査システムは、オランダのロッテルダム、アムステルダム、さらにアメリカの研究グループと3つの研究グループによって開発されており、システム内容もそれぞれによって異なっている。そのなかで、すでに実用化が進められているロッテルダムの研究グループが開発した「マンマプリント」、アメリカの研究グループの手になる「オンコタイプDX」について、中村さんに解説してもらおう。

「マンマプリントは、リンパ節転移陰性の患者さんに対して、患者さんの予後の良い群と悪い群に分ける70個の遺伝子を特定し、その解析を基にしています。一方、オンコタイプDXは、ER(エストロゲン・レセプター)陽性、リンパ節転移陰性の患者さんに対して、再発に関連する21個の遺伝子から治療法ごとに再発リスクが計算されます」

と、いうと、より多くの遺伝子を対象にしている「マンマプリント」のほうが、精度が高いようにも思われる。しかし、使いやすさという点では、オンコタイプDXが、はるかに勝っているという。

「マンマプリントを利用する場合は、検査対象となる組織をマイナス80度で冷凍保存しなければなりません。一方、オンコタイプDXの場合は、パラフィン保存しただけの過去の組織でも検査が可能です。現実の治療を考えるとこの違いは大きい。マンマプリントの場合には、検査に大変な手間がかかるし、高額の費用も必要です。その点、アメリカのシステムなら、ずっと以前に摘出した組織でも使えるのだから便利なことこのうえない。そのことを考えると、オンコタイプDXのほうがいち早く標準治療に組み込まれつつあるといえるでしょうね」

と、中村さんは指摘する。

実際、すでにアメリカでは、この診断システムが現実の臨床に用いられている。

「オンコタイプDXはNSABPという大規模な臨床試験グループが保存していた組織を用いて開発されており、それに対する妥当性試験も行われ、ほぼ臨床に耐えうるという結果も出ています。そのこともあるのでしょう。この2年間で全米で、このシステムを治療に導入する医師が急激に増加しているのです」

[オンコタイプDXを用いて抗がん剤の効果予測]
図:オンコタイプDXを用いて抗がん剤の効果予測

患者のリスク分類も大きく変わった

では、この検査システムを用いることで、実際に乳がん治療には、どんな変化が訪れているのだろうか。

「全体的な傾向をいえば、化学療法の位置づけが明確化されています。高リスクの患者さんの場合は、化学療法を行えば、行っただけリスクが減少することがわかっています。しかし、リンパ節転移がない低リスクの患者さんで、ホルモンレセプターが陽性の場合には、化学療法にまったく意味がないことも明らかになっているのです。もちろん、この場合はホルモン療法が治療の中核になっていく。ちなみに中間リスクの患者さんについては現在、テーラーXと呼ばれている臨床試験が行われているところです」

さらに、この検査システムの導入によって、アメリカでは個々の患者のリスク分類も大きく変わっているという。

従来の指針では乳がん患者で低リスクに分類される人は10パーセント前後だったのが、このシステムを応用すると、実は低リスクの患者は約50パーセントにも上っていることが判明したという。遺伝子検査を導入することで、それまでは不明確だったリスク判定が明確化された結果である。もちろん、そうした成果は、治療法にも反映している。

「これまでは高リスク群に組み入れられCMF(エンドキサン、メソトレキセート、5-FU)、CAF(エンドキサン、エピルビシン、5-FU)などの化学療法の対象とされていたリンパ節転移が進んだ人たちがホルモン療法だけで治療を行うケースも出てきています。全体的に化学療法薬剤は乳がん治療の第一線から、後退しつつあるといっていいでしょうね」 と、中村さんは語る。

[オンコタイプDXを用いた再発リスク評価]
図:オンコタイプDXを用いた再発リスク評価

オンコタイプDXは、乳がんにおける21個の遺伝子の発現レベルを測定して再発スコアを算出し、低リスク、中間リスク、高リスクの3つに分類する。このグラフは、腫瘍の大きさ3cm未満、リンパ節転移陰性、ER陽性の患者のケースで、オンコタイプDXを用いて算出した再発スコアと10年遠隔再発率の相関を示している


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