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世界の乳がん治療の最新動向を追う 乳がんの治療は、1人ひとりの患者に合った個別化医療の時代に入った

監修:中村清吾 聖路加国際病院乳腺外科部長
取材・文:常蔭純一
発行:2008年3月
更新:2013年12月

人生プランを基に治療計画を考える

こうしてみると、患者にとってはいいことずくめの検査システムのように思えるが、日本の乳がん患者は、このシステムを利用することはできないのだろうか。実は少数ながらすでに、このシステムが治療に取り入れられているケースもあると中村さんはいう。

「私が担当している患者さんにも、アメリカ人の治療データがベースになっていることを理解してもらったうえで、この検査システムを利用している人が5、6人います。そのなかには30代前半の若い女性で、これから子どもを産みたいと考えているようなケースもあります。そうしたケースでは、このシステムはきわめて有効です。これまでは30代というと、それだけで高リスク群に組み入れられ、抗がん剤治療が第1選択肢とされてきた。それが必ずしもそうでないケースもあるわけですからね。一般的にいっても、その後に抗がん剤を受ける肉体面、金銭面での負担を考えると、このシステムを利用すべき患者さんは少なくないでしょうね」

中村さんの話でもわかるように、この検査システムを利用すれば、個々の患者は自らの人生に重ね合わせながら、治療を考えることもできるのではないだろうか。それは個別化治療の最大の利点でもあるだろう。

ちなみにこの診断を受ける費用はアメリカでは約3000ドル。日本では検体の搬送費が加わるため実費で47万5000円が必要だ。

中村さんはこうしたアメリカでの新たな研究成果について、日本の状況を振り返ってこう語る。

「アメリカでは一般臨床への応用ということを念頭に入れたうえで、スピーディかつスマートに研究開発が進められている。その点については日本の臨床家、研究者も大いに見習わなくては。アメリカの研究成果を目にするたびに、私たちももっと精進しなくては、と思いを新たにさせられます」

真に効果のある薬だけを最小限使う

このように世界の乳がん治療の研究最前線では、新たな検査システムの登場で、治療のあり方そのものに変革が訪れようとしている。もちろんそれと同時に個別の薬剤や治療法の効果の評価も行われ続けている。たとえば従来、用いられていた抗がん剤の再評価なども行われている。

「最近では薬剤の効果評価がどんどんシビアになってきています。たとえばご存知のように、乳がんの腫瘍増殖たんぱくであるHER2レセプターが陽性の患者さんに対しては、分子標的薬のハーセプチンが治療に用いられます。もっとも、効果があるのは20パ��セント程度の人たちに限られている。そこでどんな人に効くのか、薬剤を用いる対象がどんどん狭められてきています。またタキサン系の抗がん剤の効果も見直されています」

こうした個別の治療法についての再評価も合わせて、これからの乳がん治療ではさまざまな薬剤が個々の患者にどの程度の効果があるか正確に調べられ、本当に効果のある薬だけを最小限使用する方向に向かっていくと中村さんはいう。

そんななかで、患者に大きな負担がかかる従来の抗がん剤の比重は、ますます低下することになると中村さんは予測する。

たとえば、これまではホルモン剤に対する感受性が陽性の患者に対しては、まずホルモン療法を行い、それが効果を及ぼさなくなった後で抗がん剤治療に切り替えられていた。それが現在では、従来の抗がん剤に代えて分子標的薬のハーセプチンや同じ抗がん剤でも、患者により負担が小さい経口タイプのものを利用するアイデアが考えられているという。さらに、これまでは抗がん剤しか治療法がないとされていた、トリプル・ネガティブ(エストロゲン、プロゲステロン、HER2レセプターがいずれも陰性)の患者に対しても、抗がん剤以外の選択肢が浮上してくる可能性も高いとも中村さんはいう。

[トリプル・ネガティブの乳がんに対する術後補助療法]
図:トリプル・ネガティブの乳がんに対する術後補助療法


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