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乳腺全摘でも皮膚を残し、乳房を再建することができる 早期なら内視鏡手術で乳房は原型に近い形で残せる

監修:中島一毅 川崎医科大学乳腺甲状腺外科講師
取材・文:増山育子
発行:2008年3月
更新:2013年4月

乳房を温存するにはがんが小さいほうが望ましい

内視鏡を用いた手術の適応は、がんの大きさよりも位置が重要と前述したが、乳房を温存するにはがんの大きさは無関係ではない。

皮膚を残しても中身を全部取ってしまったら乳房のふくらみが残らなくなる。乳房の形を保つには、切り取る範囲が3分の1以下。3分の1以上切らなければならない場合には乳房を温存することができないのだ。

3分の1以下の乳腺切除で、乳房が見栄えよく保てる場合、内視鏡による乳腺の部分切除術で乳房の温存が可能である。がんが広がっていてそれ以上の大きさで切除しなければならない例では、内視鏡による乳腺の全摘術(すべての乳腺を切除する)に乳房再建術をプラスする、という方法がある。

「丸いケーキを少し切り取って、それを寄せて元の丸い形に戻すことをイメージしてください。切り取った部分が小さいほうがきれいに戻せます。乳房を温存するならがんが小さいほうがいい、がんの大きさが小さければ小さいほど術後の美容性が高いということです」

また、乳がんには「しこりをつくらないタイプ」があり、このタイプは乳管を這うように広がる。とくに若い患者に多く見られ、さわってもわかりにくいので見つけるのが遅くなり、発見したときにはかなり広がっていて温存手術の適応にならないこともある。

中島さんによると、このような乳腺を広範囲に、あるいは全部とってしまわなくてはいけなくても、乳房温存を希望する人は多いという。

「しこりをつくらない這うタイプのがんは、皮膚から遠い奥のほうにあるので、たとえ広範囲に広がっていても内視鏡を用いて、中身だけをとる手術の対象にはなります。内視鏡で乳腺を全部取り除くことも可能なので、乳腺を全摘して乳房再建という方法もあります」

[鏡視下乳腺全摘例における生存率]
図:鏡視下乳腺全摘例における生存率

温存並みの美容性を保つ全摘プラス再建術

「内視鏡による手術なら全摘しても皮膚が残せますから、あとからシリコンなどを入れる方���で乳房を再建することができます」と中島さんは説明する。

ただし、このような乳腺全摘では、最初の手術で一時的に乳房を形作るものを入れておく。そのうえで形成外科で、永久に保つためのシリコンなどに入れ替える手術が必要になるが、術後、美しい乳房を残すことができる点で、これも乳房温存手術の一環であると、中島さんは考えている。

問題はシリコンインプラントなど人工物を入れる場合は実費となることだ。

「乳腺の全摘手術のときに一時的に入れる段階までは保険がききますが、次に入れ替える手術では中に入れるシリコンに保険が適用されないため、混合診療が禁止されている現状では、検査費用なども含めてすべてが実費になります。100万円程度かかるでしょう。つまり豊胸手術と同じです。高額な費用がかかることが今の問題点」と指摘する。

[鏡鏡視下皮下乳腺全摘術+一期的乳房再建術後]

写真:正面
写真:斜め横から

乳管内広域進展のため温存手術適応のない症例でも温存手術と同等以上の高い術後整容性で退院可能

患者にはメリット大だが普及が進まないのは……

手術にかかる時間も、いちばん大掛かりな乳腺全摘プラス再建術で5時間くらい。小規模なものだと2~3時間だという。普通の手術より早いということはないが、特別長時間というわけでもない、と中島さん。

「手術時間は長いけれど、創が小さくて早く治るので、入院期間は短くてすみます。見た目の創は小さいですが、体の中で切る部分は長いので、多少出血が多くなるなど手術中の負担は内視鏡のほうが大きいかもしれません。とはいっても何らかの処置が必要になるほどの出血量ではなく、合併症や術中術後の管理が大変ということもありません」

内視鏡による手術の最大のメリットは美容性だが、患者にとってはそれだけでなく、入院も短くてすむなど利点も多い。しかし、この手術を手がける医師が少なく、広く行われているわけではないことが難点だ。

「内視鏡による手術はデリケートな作業の連続で、手間隙がかかります。乳がんの手術を受ける患者さんが増えてきているので、医師としては手術時間を短くさせたい。手間隙のかかる手術は敬遠します。保険がきくといっても優遇されているわけではありませんから、効率が悪い。普及しないのはそういう理由があります」

私が内視鏡手術を導入した理由

「がんが2センチにもなれば、患者さんは、ほぼ自分でがんだとわかる。でも受診を先延ばしにする。手術を受けたら乳房が切られて元通りに治らないということが怖いからです。元通りとはいかないにしても、かなり原型に近い形が残っていればいいのではないか。そうすることができるとわかれば患者さんは早期受診をするのではないかと、私は内視鏡での手術を導入しました」と中島さんは語る。

「この手術は予後をよくすることがポイントではありません。美容、つまり自己満足ですが、自己満足度が高いことによって早期発見、早期受診、乳がん検診の受診を促す。そこが普及の狙いです。大腸や胃は内視鏡で臓器を切らずに検査と治療もできるということが知られるようになって、急速に検査を受ける人が増えました。乳がんも早く見つけたら元通りに近い状態に治せるということをアピールして、内視鏡手術が普及してほしいと思います」


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