1. ホーム  > 
  2. 各種がん  > 
  3. 乳がん  > 
  4. 乳がん
 

乳がん術後補助療法にアロマターゼ阻害剤を飲むこれだけの根拠 ホルモン受容体陽性の乳がんなら、術後にホルモン療法を

文:河野範男 東京医科大学病院乳腺科教授
構成/半沢裕子
発行:2008年3月
更新:2014年1月

タモキシフェン5年後もアロマターゼ阻害剤を服用することも

先に挙げたアリミデックスとタモキシフェンの比較試験ですが、その後も再発率の追跡調査を行ったところ、5年の時点で2.8パーセントだった差が、9年(100カ月)時点で4.8パーセントまで開きました。このように、投薬を中止してからも続く薬の効果を「キャリーオーバー・イフェクト」といいます。この効果がタモキシフェンだけでなくアロマターゼ阻害剤でも確認されました。

一方では、タモキシフェン5年服用後、治療をやめた患者さんとアロマターゼ阻害剤を服用する患者さんを比較した試験結果も発表されています。それによると、5年間タモキシフェンを服用するよりも、アロマターゼ阻害剤の服用を行ったほうが再発のリスクが56パーセント低下することがわかっています。これらの結果より、一部の再発の可能性が高い患者さんにはタモキシフェン5年服用以降もアロマターゼ阻害剤を服用されるよう積極的にお話しております。

以上のように様々なアロマターゼ阻害剤とタモキシフェンを比較した臨床試験の結果、閉経後の乳がん患者さんにおいては、アロマターゼ阻害剤を使用することが一般的となってきました。

こうした試験の結果を総合すると、

「アロマターゼ阻害剤が再発を予防する効果は、タモキシフェンを超えるものである。しかし、タモキシフェンの効果も5年を超えて続くことが証明されてきており、また、アロマターゼ阻害剤もこれに準じるものと思われる」

というようになると思われます。つまり、それぞれの患者さんにあう薬を選び、時に種類を替えて長く上手に飲み続ければ、補助療法としてのホルモン療法は、かなり長い効果をもつのではないか、と思われます。

ホルモン剤は何年飲まなければならないのか

[術後補助療法の効果
(タモキシフェン投与5年後アロマターゼ継続服用)]

図:術後補助療法の効果
[再発率の年次パターン]
図:再発率の年次パターン

根拠となった臨床試験の結果を紹介しましょう。

タモキシフェンはこの20数年間、乳がん術後のホルモン療法のスタンダードでした。タモキシフェンの投与期間2年と5年の比較試験が行われ、5年投与が再発率、生存率ともに有意に良好であったため、タモキシフェンの投与期間は5年とな���ています。多くの試験結果から術後5年間の服用によって、乳がんの再発リスクが47パーセント、死亡リスクが26パーセント低下するとの報告があるだけでなく、ほぼすべての試験で、乳がんの再発を抑えていることが証明されています。

乳がんの患者さんはもう一方の乳房にもがんの発生する確率が高いのですが、その発生も抑制し、また、進行・再発乳がんにおいても優れた治療効果をもちます。

タモキシフェン服用でさらに長期に効果が得られるかどうかに関しては、5年投与と10年投与を比較した試験で、むしろ10年投与が悪いという試験と、よいのではという試験が混在し、結論はまだ出ていません。現在のところ最もよい投与期間(至適投与期間)は5年とされています。アロマターゼ阻害剤の投与期間を比べた試験はありませんが、そのほとんどを「5年」としているのも、このタモキシフェンに準じているためです。

実際のところ、タモキシフェンを5年間飲んだ患者さんに、アロマターゼ阻害剤をお勧めすると、「5年無事に生きられたから、もう大丈夫」と、お断りになることが少なくありません。ジェネリック医薬品も多数出ているタモキシフェンとは違い、アロマターゼ阻害剤はまだ安価ではないことも、理由の1つでしょう。

しかし、乳がんの再発の10数パーセントは、5年を過ぎてから起こります。しかも、ホルモン受容体陽性の患者さんは、再発が遅い傾向にあります。アロマターゼ阻害剤を飲み続けることで、再発が防げる可能性が高いことは、心にとめておいていただきたいと思います。

骨粗鬆症、関節痛、うつ副作用はあるが比較的軽症

最後に、副作用についてふれておきましょう。タモキシフェンには、子宮体がんを発生させる、静脈血栓症などの血管障害が起こる、といった深刻な副作用が、わずかですが見られました。より安全な再発予防薬が求められた背景には、これらの副作用もありました。

アロマターゼ阻害剤にはその心配はありませんが、骨密度の減少、関節の痛みなどが見られます。骨密度はビスフォスフォネート(骨吸収阻害剤)などの投薬や、運動によって改善できますし、関節の痛みも、ひどい患者さんには鎮痛剤を処方しますが、ほとんどの方は慣れてしまうようです。

うつ症状はタモキシフェンでもアロマターゼ阻害剤でも起こりますが、注意が必要なのはタモキシフェンで、代表的な抗うつ剤であるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を服用すると、タモキシフェンの代謝酵素を阻害してしまい、薬が最大に効かなくなってしまいます。したがって、タモキシフェンの治療を行っているときは、違う抗うつ剤を処方してもらう必要があります。

なお、私自身は3種のアロマターゼ阻害剤にほとんど差はないと考えていますが、アロマシンの骨への影響が他の2剤に比べて低いことは、臨床試験でも立証されています。骨密度の低下は、ひいては骨粗鬆症、あるいは骨折につながる危険性があります。アロマターゼ阻害剤によるホルモン療法は長期にわたるため、そうした影響は少しでも少ないほうがいいでしょう。それとともに、日常生活では運動に心がけ、食生活に気をつけることも大切です。

3剤のどれを服用するにしろ、副作用についてもよく知り、早い段階で手当てをしながら、長く上手にホルモン療法を受けてほしいと思います。

[アロマターゼ阻害剤の主な副作用]

  エキセメスタン群(n=2,320) タモキシフェン群(n=2,338) P(x2-test)
人 数 人 数
高血圧 907 39.1 840 35.9 0.03
静脈血栓塞栓性イベント 45 1.9 72 3.1 0.01
骨折 162 7 115 4.9 0.003
関節炎 405 17.5 341 14.6 0.008
関節痛 483 20.8 354 15.1 <0.0001
骨粗鬆症 213 9.2 168 7.2 0.01
筋骨格痛 596 25.7 474 20.3 <0.0001
痙攣 58 2.5 103 4.4 0.0004
性器出血 104 5.2 153 7.6 0.002
子宮ポリープ、類線維腫 32 1.6 93 4.6 <0.0001
更年期症状 1,109 47.8 1,054 45.1 0.06
うつ病 263 11.3 230 9.8 0.1
疲労 569 24.5 564 24.1 0.75
不眠症 482 20.8 426 18.2 0.03
発汗 443 19.1 431 18.4 0.56
疼痛 308 13.3 335 14.3 0.3

1 2

同じカテゴリーの最新記事