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患者の特性に合った乳がんの個別化治療 過剰な治療をなくし、治療の精度を高める方向へ加速

監修:井本滋 国立がんセンター東病院乳腺科医長
取材・文:町口充
発行:2007年2月
更新:2014年1月

術前の薬物療法でがんが消える可能性も

薬物療法のやり方も変わりつつある。井本さんは語る。

「以前は、手術したあとに薬物療法を行う術後補助療法が一般的でしたが、最近は手術前に薬物療法を行って、腫瘍を小さくしてから手術することも試みられています。
当院の基準としては、腫瘍が3センチ以上、あるいはリンパ節の転移があるような場合、つまり進行がんではない2期の乳がんでも3センチ以上だと、抗がん剤による薬物療法を行い、そのあと手術するのが一般的です」

もちろん、一律に抗がん剤により術前の治療を行えばいいかというと、そんなことはない。

「術後の補助療法でも、果たして60歳を超えた方とか高齢の方に、抗がん剤の治療がどのぐらい意義があるか問題になっています。抗がん剤治療は脱毛とか白血球の減少、吐き気や食欲不振など副作用を伴いますから、高齢者にとって、副作用と引き換えにどれだけ利益が得られるかが問題で、効果は小さいが副作用の少ないホルモン剤による治療を選択する方法もとられるようになっています。
そこから派生して、術前の薬物療法でも、閉経後で少し年齢を召した方であれば、ホルモン剤を先にして、腫瘍を小さくしてから手術ということも可能ではないかと思います。ただし、術前の抗がん剤の治療は標準的な治療ですが、術前のホルモン剤の治療についてはまだ臨床試験の段階で、一般化されていません」

術前では使えないハーセプチンの効果

進行再発がんでHER2陽性の患者に用いられるハーセプチンについても、現状では術前補助療法での使用は認められていないが、アメリカではHER2陽性の患者に術前に抗がん剤とハーセプチンを併用投与した場合に、6割の人で、がんが消失したとの臨床試験の結果が出ている。日本でも保険適応となる日が待たれているが、HER2強陽性(+3)の人でも術前にハーセプチンを用いれば、がんが消える可能性がある、と井本さん。

また、女性ホルモン感受性が陰性なら、抗がん剤でがんが消失する可能性がある。

「患者さんによっては、術前の抗がん剤治療を行うことで、近い将来、手術をしなくてもいいというようなことになっているかもしれません。今はまだ夢のような話ですが、あるいは5年後ぐらいにはそうなっているかもしれません」と井本さんは語る。

センチネルリンパ節生検の有効性

[センチネルリンパ節生検の効果]
図:センチネルリンパ節生検の効果

センチネルリンパ節生検をした後、リンパ節郭清をしてもしなくても無再発生存では変わらなかった

センチネルリン���節生検が標準治療として認められるようになってきたことも、個別化治療の大きな成果のひとつだろう。

従来、乳がんの手術では、脇の下のリンパ節を広範囲に切除することが一般的だった。その結果、脇の下の痛みや腕のむくみ、感覚マヒ、上肢の運動障害などの後遺症に苦しむ人も多い。手術中にリンパ節の一部だけをとるセンチネルリンパ節生検が行われるようになってからは、転移のないことがわかれば、それ以上リンパ節をとることもなく手術は終わり、後遺症の心配もなくなった。

センチネルは「見張り」を意味し、がん細胞がリンパ管を通じて最初に到達するリンパ節であり、がんのリンパ節転移はまずここに起こることになる。ということは、ここに転移がなければその先のリンパ節にも転移がないと判断されるわけで、不要な切除を避けることができる。

国立がん研究センター東病院では、98年からこの検査の研究を始め、99年からは臨床に導入。同年7月から03年12月までの施行症例612例でみると、センチネルリンパ節生検のみで腋窩(脇の下)リンパ節郭清を省略したのは74.5パーセント。その結果、05年12月までの再発例は4.7パーセントにすぎず、死亡例は1.1パーセント。また、5年健存率は91パーセントで、5年生存率も98パーセントに及んでいる。

ITCがあっても、予後には影響しない

生命予後についてみたデータでは、センチネルリンパ節生検だけの人と、腋窩リンパ節郭清をしてリンパ節転移のなかった人について調べたら、両者に違いはなかったという。

しかし、センチネルリンパ節生検をして、リンパ節転移がないと判断したあとで、微小転移がリンパ節の中で見つかることがある。どんな微小転移かというと、0.2ミリ以下のITC(Isolated Tumor Cell)と呼ばれるもので、邦訳では「遊離がん細胞」などとも呼称される。

ところが、センチネルリンパ節生検でITCが見逃された人と、ITCを見つけた人について比較したところ、予後は変わりなかったというデータがある。つまり、0.2ミリまでの非常に小さな転移であれば、生命の予後にはあまり関係がないということがいえるだろう。

「ただし、0.2ミリより大きい場合はまだわかっていません。微小転移(ミクロ転移)とは0.2~2ミリまでを指し、2ミリを超えるとマクロ転移といって普通の転移と見なされますが、0.2ミリを超えた場合は郭清して調べたほうがいいかもしれません。これについてはまだ研究段階です」


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