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乳がんのホルモン療法最新報告 手術後にアロマターゼ阻害剤を服用する理由

監修:岩瀬弘敬 熊本大学医学部付属病院乳腺・内分泌外科教授
取材・文:松沢実
発行:2007年2月
更新:2013年4月

全生存率で有意な差がついた意義

現在、閉経後のホルモンレセプター陽性の乳がんの術後補助療法において、アロマターゼ阻害剤が標準薬のひとつとして認められています。抗がん剤に比べて副作用が少ないことに加え、従来第1選択となっていたタモキシフェンよりも高い治療効果が数々の臨床試験で立証されているからです。

その臨床試験で注目を集めたひとつに、アロマシンとタモキシフェンの再発予防効果を比較・検討したIES031と呼ばれる臨床試験があります。

閉経後のホルモンレセプター陽性の早期乳がん患者を対象に、タモキシフェンを2~3年間服用した後にアロマシンに切り替えて継続するグループと、タモキシフェンを5年間服用し続けるグループとで再発予防効果を調べたのです。その結果、アロマシンに切り替えたほうが再発率が25パーセント低下し、生存率が17パーセント改善しました。

[タモキシフェンからアロマシンへ切り替えた効果]
図:タモキシフェンからアロマシンへ切り替えた効果

タモキシフェンを2~3年投与してからアロマシンへ切り替えたのと、タモキシフェン5年投与した群との比較。
アロマシンへ切り替えた場合、危険率が無病生存率において25%、全生存率において17%有意に低下した

「アロマシンへの切り替えで全生存率で有意な差が出たという点が画期的です。他のアロマターゼ阻害剤とタモキシフェンの再発予防効果を調べた臨床試験では、いずれも無病生存率では有意な差が出たものの、全生存率では有意な差が認めらなかったからです。全生存率で有意な差が出たということは、よほど再発を抑える効果が強いとみていいと思います」(岩瀬さん)

無病生存率とは、再発や他臓器の2次がんを起こさずに生存している患者の割合で、薬の治療効果がダイレクトに比べられます。しかし、全生存率は、再発を含め生存しているすべての患者の割合で、抗がん剤など他の治療を受けていたり、副作用の影響などが現れたりしている患者も加わっています。それでもなお、アロマシンを追加投与した患者の生存率が高かったわけですから、それだけアロマシンの治療効果が高いということを意味しているのです。

ちなみに、アロマシンは手術の前に服用し、術前ホルモン療法においても優れた治療効果が認められます。

「3センチの腫瘍が1センチほどになることも珍しくありません」(岩瀬さん)

腫瘍が縮小すればそれだけ手術で切除する範囲も狭まり、患者の負担は小さくなります。

アロマターゼ阻害剤それぞれの特長と副作用

[アロマシンの内服による術前ホルモン療法の効果]
写真:アロマシンの内服による術前ホルモン療法の効果

左は投与前、右は投与後、著しい腫瘍影の縮小が認められる

前述したように、アロマターゼ阻害剤にはアリミデックス、アロマシン、フェマーラの3種類がありますが、乳がんのホルモン療法として使う場合、それぞれの特長と副作用を考慮しながら用いる必要があります。

「アロマシンはアリミデックスやフェマーラと異なり、タモキシフェンとの比較試験で生存率においても有意な差が認められましたが、アリミデックスとフェマーラを比べた場合、前者はリンパ節転移がない患者や抗がん剤などの化学療法を受けなかった患者によく効き、後者はリンパ節転移のある患者や化学療法を受けた患者によく効く傾向が認められます」(岩瀬さん)

ただし、少し進行した乳がんに対してフェマーラは切れ味がよいのですが、その分、心臓に与える影響・副作用はアリミデックスよりも大きい可能性があります。3剤ともエストロゲンの働きを抑制するために、骨密度の低下から骨粗鬆症や関節痛を招く副作用が認められます。

「骨粗鬆症は高齢者が寝たきりとなる第3位の原因ですが、アロマシンはアリミデックスやフェマーラと比べると少し骨に優しい薬といえます」(岩瀬さん)

また、アロマターゼ阻害剤はコレステロールの代謝を低下させる副作用もあります。狭心症や心筋梗塞など心疾患を患っている場合、心臓・循環器内科と相談して服用することが不可欠だといえます。ちなみにアロマシンは他の2剤と比べると心疾患などへの影響もやや少ないと報告されています。

「このように、アロマターゼ阻害剤を選択する際は、薬の効果だけでなく、その副作用もきちんと考慮して選び、上手に使っていく必要があります」(岩瀬さん)

ホルモン療法は副作用の少ない患者に優しい治療法です。とはいえ、先に見たように、副作用がないことはない。そこで今後は、ホルモン療法の恩恵が確実に受けられる患者を選び出すこと、そしてその効果を確実に予測できるようにすることが課題です。

ホルモン治療薬の効果や副作用の出方には、民族差や人種差もあります。アロマターゼ阻害剤の臨床試験は、欧米の女性が対象で、日本人がほとんど含まれていません。市販後の調査で日本人のデータをきちんと出し、より適切な治療法を確立させることも求められています。

[アロマターゼ阻害剤の臨床試験報告]

試験名
(患者数)
アロマターゼ阻害薬
(観察期間中央値)
分類 無病生存率
危険率(P-value)
全生存率
危険率(P-value)
文献
ATAC
(n=6241)
アナストロゾール
(68ヵ月)
initial 0.83(0.005) 0.97(0.7) Lancet, 2005
BIG1-98
(n=8028)
レトロゾール
(26ヵ月)
initial 0.81(0.003) 0.86 n.s. New Eng J Med, 2005
IES031
(n=4724)
エキセメスタン
(55.7ヵ月)
switch 0.75(0.0001) 0.83(0.05) 2006 ASCO
Annual meeting Abstruct
ITA
(n=448)
アナストロゾール
(36ヵ月)
switch 0.35(0.001) n.s. J Clin Oncol, 2005
ARNO95/
ABCSG-8
(n=3224)
アナストロゾール
(28ヵ月)
switch 0.60(0.0009) n.s. Lancet, 2005
MA-17
(n=5187)
レトロゾール
(30ヵ月)
extended 0.57(0.00008) 0.82(0.3) New Eng J Med, 2003
J Natl Cancer Inst, 2005
NSABP
B-33P
エキセメスタン
(30ヵ月)
extended 無再発生存率
0.44(0.004)
n.s 2006, SABC
Abstract
1 2

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