もっとガイドラインを上手に使いこなそう! 『患者さんのための乳がん診療ガイドライン』はより患者目線に
大切な「ブレスト・アウェアネス」
その中身についてざっと見てみよう。
「原因と予防について」の章では、乳がんのリスクや予防、そして遺伝について触れている。
「乳がん検診と診断の進め方」では、検診と診断についての知識が身につく。「ブレスト・アウェアネス」という概念についてもここで解説されている。
「近年、『ブレスト・アウェアネス』ということの大切さが盛んに言われるようになっています。これは、自分の乳房の状態を知るために、日頃から自分の乳房を見て、触って、感じる(乳房のセルフチェック)。そして、気をつけなければいけない乳房の変化を知る(しこりや血性の乳頭分泌など)。乳房の変化を自覚し、すぐに医療機関へ行く。40歳になったら定期的に乳がん検診を受診する、という、自分の乳房について常に関心を持ち、正しい行動を行うことで、乳がんの早期発見・診断・治療につながる生活習慣を身につけることが大切だということです」
「乳がんと診断されたら」の章では、乳がんと言われたとき、治療に入る前の乳がんに対する知識、そして、不安に対する対処法、就労についてや、経済面・生活面での支援制度がわかる。
例えば、「仕事は辞めなければならないのでしょうか」との質問には、1人で即断即決せずに、がん相談支援センターや職場の産業医や人事担当者などに相談することを勧めている。働き盛りの40代から罹患しやすい乳がんだけに重要な問題だ。
「初期治療を受けるにあたって」では、初期治療である手術や放射線治療について細かく説明されている。
「初期治療後の診断と検査」の章は、治療の経過観察についての説明だ。
「再発・転移の治療について」では、もし再発・転移を起こした場合の治療について説明されている。
「薬物治療について」の章では、化学療法、ホルモン療法、分子標的薬など、それぞれ薬の作用メカニズムについて、わかりやすく解説している。
「乳がんの診断や治療に遺伝子検査は役に立つのでしょうか」といった遺伝子検査についての情報、BRCA1/2遺伝子検査、がん遺伝子パネル検査について詳しく触れている。
「療養上の諸問題について」では、生活習慣と再発リスク関連について触れている。
「若年性のがん・男性乳がんについて」でAYA世代(思春期および若年成人)の乳がんについて、将来の妊娠・出産など同世代が気にかかる点、また、患者の数が少ないため情報が得られづらい男性乳がんの治療法についても説明している。
そして、「付1.初期治療として使用される主な治療」と「付2.転移・再発治療として使用される主な治療」では、それぞれで行われる具体的な治療が一覧表で示してある。
「乳がん発症時にまつわるさまざまな不安に対する対処の仕方、家族との問題、就労支援から、手術後の下着やパッドのことなど、患者さんご自身じゃないとなかなか気がつかない点を、数多く質問に反映させています」
最も信頼性の高い情報源
2021年に、医療者向けのガイドラインが改訂される予定だ。
したがって、次回、患者向けのガイドラインが改訂されるのは2022年になると思われる。
「今後は、2020年の秋から新たな委員会のメンバーが決まりますので、そのメンバーの皆さんが、次の改訂の課題については、いろいろと試行錯誤されることになると思います。例えば、2020年4月の保険制度の改定で、該当する人はがん遺伝子パネル検査を保険診療で受けられるようになりましたので、そのアップデートは必要となるでしょう」
遺伝性乳がん/卵巣がん症候群(一般の人より乳がん、卵巣がんに罹患する確率が高い)の可能性が高い人の場合は、検査、カウンセリング、そして一定の条件を満たせば予防的手術、MRI検査でのフォローアップについて保険診療で受けられるようになった。
「また、今後は、実際にガイドラインを読んで、どう活かして、役立てているか、追加して欲しい質問、不満な点、わかりにくい点といったことについて患者さんにアンケートを取り、今後のガイドライン改訂にさらに役立てていくということも考えていくべきなのかもしれません」
そして、最後に佐治さんはこうアドバイスをくれた。
「今はインターネットをはじめ、さまざまな情報源がありますが、どの程度の信頼性がある情報かどうかは、専門家でないとわかりません。間違った情報が提供されている場合も多く、選択を誤ってしまうことも多いのです。その点、このガイドラインは、日本乳癌学会で専門医の皆さんが総力をあげて作成した最も信頼性の高い情報源と言えると思います。
乳がんに対する知識を得るために、そして、もし乳がんを発症して治療に入るという方たち、治療後の生活を送る方たち、再発・転移後の治療を受ける方たちにとって大いに役立つ1冊だと思います。ぜひ、参考にしていただきたいと思います」
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