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渡辺亨チームが医療サポートする:炎症性乳がん編

取材・文:林義人
発行:2006年3月
更新:2019年7月

「乳腺炎」と診断された左胸の腫れは、炎症性乳がんだった

渡辺亨さんのお話

*1 乳腺炎

乳腺の急性炎症のほとんどが、授乳期、とくに産褥期におこりますが、最近では、その頻度は減っています。乳腺炎は、乳汁の排泄障害に原因するもので、通常は、切開しうっ滞している乳汁や膿を出す、抗生物質を投与する、などの治療を行います。

*2 炎症

炎症とは、ギリシャ医学の時代から、(1)赤くなる(発赤)、(2)痛い(疼痛)、(3)熱を持つ(発熱)、(4)腫れる(腫脹)、という特徴をもつ体の反応を意味し、これを炎症4主徴と言います。炎症は、体に加わった様々な有害な刺激に対する防御反応です。体内に侵入した細菌などの病原体や毒素などの異物が、局所から広がらないようにリンパ球、好中球などの免疫細胞が働くために起こる現象で、本来は体を守るための反応です。しかし、慢性関節リウマチなどの自己免疫疾患は、自らの成分に対して、炎症反応がおきてしまうため、関節や腎臓などが障害される病気です。

*3 炎症性乳がん

炎症性乳がんは乳がんの1つですが、普通の乳がんのようにしこりははっきりせず、乳房の皮膚が赤く、熱を持って腫れ、むくみをともなって、ちょうど、見かけが乳腺炎のようにみえるため、このように呼ばれます。

炎症性乳がんを顕微鏡でみると、乳房皮膚のリンパ管に、がん細胞が広く入り込んで行くように増殖するため、リンパ管が詰まり、リンパ液の流れがとめられうっ滞を起こしてでき、「炎症の4大特徴」を伴うものです。

ただし、通常の乳がんとして腫瘤を作るように発症したものが、症状の進行に伴ってがんのリンパ管内への浸襲が進み、炎症性乳がんと似たような病態を示すこともあります。広い意味ではこうしたタイプも炎症性乳がんと呼びます。

乳がんのなかで発生頻度は1~4パーセントとされています。炎症性乳がんは、原発腫瘍の大きさや場所からの分類では最も進行したT4dで表され、ステージ分類でいうと3B期、3C期(鎖骨上リンパ節転移を伴う)、4期(遠隔臓器に転移を伴う)の可能性があります。

炎症性乳がんは、がん自体の悪性度が高く、また、リンパ管に浸潤しやすい性質を持つため、遠隔転移を伴う可能性が非常に高いと考えられています。従来の治療方法では、予後が極めて悪く、5年生存率は約30パーセントという報告があります。

[乳がんの大きさと場所による分類]

TX 原発腫瘍が評価不能
T0 乳房にがんの徴候がない
Tis 非浸潤がん。がんは乳腺組織の自然境界内に限局していて、乳腺外の組織に広がっていな��
T1 最大径が2 cm以下の乳房内腫瘍
  T1 mic 少数のがん細胞が周辺組織に広がっているが、大きさが0.1 cm未満の微小浸潤または微小転移
  T1a 0.1 cmより大きく、0.5 cmより小さい腫瘍
  T1b 0.5 cmより大きく、1 cmより小さい腫瘍
  T1c 1 cmより大きく、2 cmより小さい腫瘍
T2 2 cmより大きく、5 cmより小さい腫瘍
T3 5 cmより大きい腫瘍
T4 胸壁または皮膚に広がっている腫瘍、あるいは炎症性乳がんと診断された腫瘍
  T4a 胸壁に広がっている腫瘍
  T4b 乳房の皮膚の浮腫(腫れ)、肥厚(橙皮状皮膚など)、あるいは潰瘍形成(乳房の皮膚/組織が崩壊し、ただれて痛む部分)、または同じ乳房の周辺の皮膚結節
  T4c T4aとT4bの症状の共存
 T4d 炎症性乳がん

*4 炎症性乳がんの治療

炎症性乳がんは、すでにがんが全身に飛び散っている可能性が高く、また、乳房も切除範囲を正しく決定することが困難なため、手術を最初に行うことはありません。薬物療法を行い、引き続き放射線照射を行う場合が一般的です。

薬物療法は、抗がん剤治療を中心に行いますが、HER2タンパクが陽性の場合には、ハーセプチン(一般名トラスツズマブ)という分子標的薬を使用します。ただし、局所の症状を和らげるために、手術や放射線治療を行う場合もあります。

*5 炎症性乳がんの鑑別診断

炎症性乳がんの外見は乳腺炎にそっくりです。また、乳管に壊死物質が溜まり、それが原因で炎症を起こす乳輪下膿瘍という病気も、見た目には炎症性乳がんに似ています。炎症性乳がんはマンモグラフィを撮ると特徴的な画像が現れることが知られています。そして正確な鑑別診断は、患部の組織を採取して顕微鏡で調べる生検によって行います。

生検は、皮膚、皮下組織をとり、真皮のリンパ管にがん細胞が浸潤していることを証明することで、狭義の炎症性乳がんの診断がつきます。リンパ管に浸潤しているがん細胞は、悪性度が高い傾向があり、HER2が陽性で、ホルモン受容体が陰性のB型と呼ばれる乳がんのパターンを呈することが多く見られます。

[アンケートでわかった炎症性乳がんの特徴]

・ 炎症性乳がんの頻度は全乳がんの1%弱
・ ホルモンレセプター(HR)陰性乳がんが多い
・ HER2陽性の頻度は通常型と変わらない
・ HR陽性、HER2陽性症例のほうが生存期間が長い
・ 抗がん剤治療後もリンパ節転移が多く残存する症例は予後不良
・ 手術不能症例はさらに予後不良
(岩田広治・愛知県がんセンター乳腺外科部長)


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