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5個以内の転移なら治癒の可能性も 乳がんのオリゴメタスタシスに対する体幹部定位放射線療法SBRT

監修●新部 譲 Oligometastases研究所代表/久留米大学医学部公衆衛生学講座客員教授
取材・文●柄川昭彦
発行:2020年10月
更新:2020年10月


局所治療と全身治療はWin-Winの関係

オリゴメタスタシスには局所治療を行うが、全身治療が必要ないというわけではない。両者が補い合うことで、より大きな効果が期待できると考えられている。そのことを示しているのが、局所治療と全身治療の関係を示すグラフである。横軸は全身治療の進歩、縦軸は局所治療の役割の重要さを表している(図4)。

「目に見えないような微小転移を全身治療で制御できない段階では、局所治療で転移巣だけたたいてもあまり意味はありません。微小転移がいずれ大きくなってくるからです。しかし、全身治療で微小転移を制御できるようになると、局所治療の重要性は急激に高まってきます。現在の医学は、ちょうどその範囲にあるのではないかと思います。

それを過ぎ、全身治療がもっと進歩して、微小転移も目に見える転移巣も制御できるようになると、局所治療の役割は急激に低下していきます。いずれそういう時代がくるかもしれませんが、現在は全身治療と局所治療が共に重要な役割を果たしている時代。全身治療の進歩により、局所治療の役割も高まっていると言っていいでしょう」

そして、前に紹介した研究の結果により、2020年度から、5個以内のオリゴ-リカランスに対する体幹部定位放射線療法が保険適用となった。原発巣の制御された5個以内の転移なら、体幹部定位放射線治療を保険で受けられるようになったのである。

転移・再発乳がんの治療でも期待

乳がんの患者にも、オリゴメタスタシスが見つかることがある。例えば、乳がんの手術を受けたが、その後、骨や肺などの遠隔臓器に5個以内の転移が見つかった場合なら、原発巣が制御されているのでオリゴ-リカランスとなる。一方、乳がんと診断された時点で、4個以内の遠隔転移がすでにある場合には、原発巣が制御されていないので、シンク-オリゴメタスタシスとなるわけだ。乳がんの場合、骨、肺、リンパ節、脳、肝臓などに転移することが多いという。

乳がんの診療ガイドラインで推奨されている閉経後転移・再発乳がんの標準治療は、次のようになっている。

①HER2陽性の場合は、抗HER2薬等による治療
②HER2陰性かつホルモン受容体陽性の場合は、ホルモン療法+CD4/6阻害薬による治療
③トリプルネガ���ィブの場合は、化学療法薬が中心の治療

現在の段階では、乳がんの診療ガイドラインには、オリゴメタスタシスに対する治療についての推奨の記載はとくにない。ただ、乳がんの治療を専門とする医師の間でも、オリゴメタスタシスに対する体幹部定位放射線療法の効果は、注目を集めるようになっているという。

「閉経後転移・再発乳がんの治療では、2020年版のガイドラインから、HER2陰性かつホルモン受容体陽性の場合に、ホルモン療法とCD4/6の併用療法が第1選択として推奨されています。CD4/6阻害薬を併用することで、全生存と無再発生存の両方を改善する効果があることを示すエビデンス(科学的根拠)が出てきたからです。放射線治療では、オリゴ-リカランスに対する体幹部定位放射線治療が保険適用となっていますから、これを加えることもできます」

例えば、乳がんの治療を受けた後に、肺などに少ない数の転移が出てきたような場合を考えてみよう。まず、体幹部定位放射線療法で肺のオリゴ-リカランスを叩き、その後、ホルモン療法とCD4/6阻害薬による治療を行う。こういった治療も可能である。

「体幹部定位放射線治療を加えることで、更なる長期生存が可能になることが期待できるし、一部の患者さんには治癒の可能性も出てきます。保険適用の範囲内で、オリゴ-リカランスに対して体幹部定位放射線療法を加えることは、十分に意味があることだと考えています」

乳がんを原発とするオリゴメタスタシスの患者さんはとても多い。5個以内のオリゴ-リカランスに対する体幹部定位放射線治療が保険適用となったのは、大きな前進だ。今後、オリゴメタスタシスの研究がさらに進み、治癒する患者が増えることが期待されている。

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