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進行別 がん標準治療 知っておきたい術前化学療法、センチネルリンパ節

監修:中村清吾 聖路加国際病院乳腺外科部長
取材・文:祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2003年11月
更新:2013年6月

ハイリスクの人を対象とした術後補助療法

[ザンクトガレン乳がん国際会議で合意された術後補助療法]
ザンクトガレン乳がん国際会議で合意された術後補助療法

ザンクトガレン乳がん国際会議で合意された術後補助療法

乳がんの場合、乳房温存療法であれ、胸筋温存乳房切除術であれ、手術後再発の危険が高いとみられる人、つまりハイリスクの人に対しては、術後補助療法が行われます。

簡単にいえば、目に見えないがんの芽をつぶし、再発の危険を低くする治療です。

乳がんは再発すれば、完全に治すことはかなり難しくなります。したがって、術後補助療法によって再発の芽を潰すことが非常に重要になるのです。現実には、脇の下のリンパ節に転移がない場合でも、再発する人が10パーセント前後いることがわかっています。

そこで、リンパ節転移のない人でも、
○摘出したがん組織が2センチ以上ある
○がん細胞の顔つきがふつうもしくは悪い(核異型度2~3)
○35歳以下での発症
○女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)に対する感受性がマイナス

という条件にひとつでもあてはまれば、術後補助療法が行われます。リンパ節転移があれば、もちろんハイリスクとして術後補助療法が行われます。

術後補助療法=がんの手術の後に行う治療。放射線や抗がん剤などの治療がある
核異型度=細胞の核の大きさ、変形具合で分類し、がんの診断のものさしにする

[乳がんのリスクファクター]
乳がんのリスクファクター

ホルモン感受性のある人は女性ホルモン抑制薬が効く

術後補助療法として、どういう治療をするかは女性ホルモンに対する感受性の有無やリンパ節転移の有無、さらに閉経前か閉経後かといった条件で変わってきます。乳がんはホルモン依存性のがんといわれ、6~7割は女性ホルモンの刺激で増加します。

こうした女性ホルモンに感受性のあるタイプの乳がんには女性ホルモンの働きを抑える薬がよく効きます。ホルモン剤は、抗がん剤に比べて副作用が少ないのも利点です。

まず、リンパ節転移がなく、ホルモン感受性がある場合は、閉経前でも閉経後でもタモキシフェンという女性ホルモンの働きを抑える薬が使われます。

閉経前は女性ホルモンの分泌が盛んなので、これに加えて従来は抗がん剤が使われてきました。しかし、最近は卵巣を摘出しなくても、薬によって卵巣の働きを抑えることができるようになりました。これが、LH-RHアナログというホルモン剤です。

現在は、このLH-RHアナログとタモキシフェンの組み合わせも、抗がん剤+タモキシフェンの治療にほぼ匹敵する治療として認められています。LH-RHアナログもホルモン剤ですから、抗がん剤と組み合わせるよりは副作用も少ないことが期待できます。

[ホルモン剤の作用メカニズム]
ホルモン剤の作用メカニズム
[術後タモキシフェン療法の効果]
術後タモキシフェン療法の効果

ホルモン感受性のない人は抗がん剤治療が中心

一方、ホルモン感受性がない場合は、抗がん剤による化学療法が中心です。これにも、CMF(シクロホスファミド、メトトレキサート、5-FU)、CAF(シクロフォスファミド、アドリアマイシン、5-FU)、AC(アドリアマイシン、シクロフォスファミド)、CEF(シクロフォスファミド、エピルビシン、5-FU)などの組み合わせがあります。

中村さんによると「最近は、アドリアマイシンやエピルビシンなどアントラサイクリン系抗がん剤を含む方が効果がやや高いので、これを含むものが多くなっている」そうです。

抗がん剤の副作用は、中村さんによると「きちんとした副作用対策を行えば、十分副作用を抑えて生存率を向上させることができる」といいます。

閉経後はタモキシフェンが主役ですが、場合によっては、抗がん剤を加えると予防効果が上乗せされることが認められています。実際にどちらを選ぶかは、リスクの高さや年齢などによって判断されます。女性ホルモンに感受性がなければ、抗がん剤治療になるのは閉経前と同じです。

リンパ節転移があった場合も基本的には同じですが、閉経前の場合はタモキシフェンに抗がん剤を加えて、より強力に術後補助療法を行います。

「世界の臨床試験の結果から、タモキシフェンを5年間服用すると、飲まない人に比べて、リンパ節転移の有無にかかわらず再発率がほぼ半減することが判明している」そうです。ホルモン感受性のある人にとって、タモキシフェンは強力な味方といえるのです。


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