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進行別 がん標準治療 知っておきたい術前化学療法、センチネルリンパ節

監修:中村清吾 聖路加国際病院乳腺外科部長
取材・文:祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2003年11月
更新:2013年6月

進行(3B期と4期)再発乳がんの治療

進行(3B期と4期)再発乳がんの治療

3期でも、皮膚や筋、骨にがんが食い込んでいたり(浸潤)、炎症で皮膚が真っ赤になっているような場合は、手術は難しいことが多くなります。こうした手術できない3期の乳がんも含めて乳房以外の臓器に転移した4期の乳がん、そして再発乳がんは、基本的に同じ考え方で治療が行われます。

すなわち、「QOL(生活の質)を低下させずに、できるだけ長く命を永らえることが治療の目的」(中村さん)となります。

したがって、女性ホルモンに感受性があれば、各種のホルモン剤が順番に使われます。ホルモン剤も長く使っているとそのホルモン剤が効かないがんが増えて、効果が落ちてくるからです。閉経前ならばタモキシフェンや卵巣の機能を抑えるLH-RHアナログなどを順番に使っていくことになります。

閉経後であれば、従来はタモキシフェンが第一選択薬とされてきましたが、最近注目されているのがアロマターゼ阻害薬です。

中村さんによると「アロマターゼ阻害薬はこれまで二番手の薬とされていたのですが、最近術後補助療法の大規模臨床試験(ATACトライアル)においてタモキシフェンより効果が高いというデータが出ており、第一選択薬としても期待されている」というのです。

閉経後は、卵巣からの女性ホルモンの分泌は停止しますが、脂肪組織で男性ホルモンが女性ホルモンに変換されます。この時に働くのが、アロマターゼという酵素です。アロマターゼ阻害薬は、この酵素の働きを抑えて女性ホルモンができるのを抑える薬です。これにも、今は3種類の薬があるので、選択肢が増えています。

[転移性乳がんの標準治療]
転移性乳がんの標準治療

今後のカギを握る外来抗がん剤治療

そして、全てのホルモン剤の効果がなくなった場合、あるいは途中で生命が危うくなることがあれば、抗がん剤治療をこれも順番に行っていきます。どういう順番で何を使うかはさまざまで、まだ標準治療と呼べるものは定まっていないのが現状です。また、肺や肝臓などに転移があり、呼吸困難やセキなどの症状が強ければ、即効性を期待して抗がん剤を使います。

乳がんが再発した場合も、基本的に治療法は同じです。ただ、この場合は以前手術をした時に術後補助療法でどういう���ルモン剤や抗がん剤を使ったか、その兼ね合いが問題になります。「別の抗がん剤を使うか同じ抗がん剤を使うかは、まだ定まっていない」といいます。

ただ、タキサン系の抗がん剤を週に1度投与する方法(ウイークリー・タキソール)が最近好んで使われる傾向はあるそうです。もともと3週に一度投与する薬なのですが、これを分割して週に1回ずつ投与すると、副作用が少なく同率以上の効果が期待できることがわかったからです。そして「患者さんにできるだけふだんどおりの生活をしてもらうという意味で、外来で通院しながら抗がん剤などの点滴を受けることが、標準的な治療となっていくはず」と中村さんは語っています。

再発・転移した場合でも、治療効果は高い

このように、基本的にはホルモン剤が効く人のほうが、治療手段が多いという意味で、進行・再発乳がんには有利といえます。しかし、今はハーセプチンという新しい分子標的治療薬が登場しています。これは、HER2という目印(抗原)を目標にがんを攻撃する薬です。したがって、がん細胞にHER2がたくさん出ている人(検査で2プラス、3プラスと判断された人)が対象ですが、こういう人はタモキシフェンが効かない人が多いのです。中村さんによると、「一番効果が高いのは、ハーセプチンとウイークリー・タキソールの組み合わせで条件に合う人ならば7割ぐらいに効果が期待できる」そうです。

こうした治療によって「ホルモン療法が効く人ならば5~10年、無効な人でもハーセプチンが効く人ならば3~5年の延命ができる人がいる」といいます。再発・転移した場合でも、乳がんはかなり治療効果が高いがんといえます。

乳がんの再発

中村さんによると、乳がん全体で再発する人は30~40パーセント。1期ならば再発率は10パーセント以下だが、2期になると20~30パーセント、3期以上になると半分の人が再発する。

乳 房 再 建

現在は、乳房と一緒に胸の筋肉まで切除する手術はほとんど行われていないので、肋骨が浮き出るようなことはない。しかし、乳房切除術は、やはり女性にとって辛い治療だ。そこで、腹筋を移植して手術と同時に乳房再建術が行われることも多くなっている。中村さんによると、「これは、組織欠損修復という名目で暗黙の了解の元に行われていますが、乳房再建術という形では認められていないのが現状」。ただ、腹筋の力が衰えるため、若い人にはあまり勧められない手術でもある。欧米では、シリコンバックを使った乳房再建が行われているが、「シリコンバックの素材自体が日本では認可されていないので、使えないのが現状。しかし、欧米で安全性が認められていれば、日本人だけに危険ということはないはず。そういう点も考慮して国に審査して欲しい」と中村さんは語っている。

ホルモン療法の適応

乳がんに女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)の受容体があるかどうかで、ホルモン剤に対する感受性の有無が決まる。実際には、乳がんといっても、モザイクのようにいろいろながん細胞が混じっており、全てのがん細胞にホルモン剤が効くわけでもないし、逆に効くがん細胞がまったくないということは、まれである。そこで、基本的には「受容体のあるがん細胞が10パーセント以下ならば、感受性はマイナス、などの基準を決めて(乳癌学会班研究で検討中)、ホルモン剤が適応になる」(中村さん)という。

前化学療法の意味

術前化学療法は、手術前にがんの病巣を縮小して、手術に持ち込むことが目的。同時に、手術前に化学療法を行い、縮小効果が認められれば、目に見えない微小ながんも抗がん剤の全身的な効果で消えているだろうと予測できる。したがって、手術後に術後補助療法を行う時に、あらかじめ効果のある抗がん剤を選択できるという意味でもメリットが大きい。逆に抗がん剤が無効であれば、術後に無駄な治療をしないで新たな治療戦略を計画できる。

PDQを調べよう

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http://cancerinfo.tri-kobe.org/database/pdq/index.html

PDQとは、米国国立がん研究所(NCI)が発信している大規模ながん情報のホームページ。Cancer Information Physician Data Queryの略称。アメリカが国の威信をかけて開発した高度ながん専門情報データーベースで、世界中から最新の臨床試験結果を集めて作成され、高い信頼性を得ている。その日本語版のホームページも、今年5月、京都大学探索医療センター探索医療検証部の福島雅典教授が中心となって作られ、治療、スクリーニング(検診)と診断、予防、遺伝子学、支持療法等の信頼される情報が無料で公開されている(「がん情報サイト」)。


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