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乳房再建、そのすべてを教えます 手術の方法から医師選びまでの ABC

アドバイスと監修:南雲吉則 ナグモクリニック総院長
取材・文:池内加寿子
発行:2005年6月
更新:2014年2月

インプラント法は胸筋温存全摘術に向く
ハルステッド手術、放射線照射を受けた場合は筋皮弁法で

乳がんの手術法によって、再建法の選択肢が変わってきます。

「乳房全摘でも胸筋が残っている胸筋温存全摘術のあとなら、おなかや背中に傷がつかず体の負担も少ないインプラント法が第一選択だと思います。皮膚と乳輪、乳頭を残して、乳腺組織だけを全摘する皮下乳腺全摘術の場合なら同時再建も可能です。ハルステッド手術の場合、放射線照射を受けている場合、感染がある場合はインプラント法は向きません」

インプラント法では、おわんの上にクッションをかぶせるように、インプラントを大胸筋で覆って自然な感触をもたせるので、胸筋が残されていることが必須条件。胸筋まで切除されるハルステッド手術では組織欠損が大きく、インプラントでは補いきれないため、皮下脂肪の多い腹直筋皮弁法が用いられます。また、乳房温存療法で放射線照射を受けた場合は皮膚が伸びにくく、異物反応も起きやすいので、インプラントが入れられない可能性があります。なかでも温存手術による部分的な変形はインプラントでは修正しにくいのです。

インプラント法が向かない場合でも、筋皮弁法なら対応できることがあります。「再建できないケースはほとんどない」と豪語する形成外科医もいますから、再建を希望する方はあきらめずに医師に相談してみてください。

[どの再建法が向く?]
図:どの再建法が向く?

もっと知りたい、インプラント法のあれこれ
手術の方法は? 入院は必要? 術後の注意点は?

インプラント法の手術はどのような手順で行われるのでしょうか。まずは、下の写真をごらんください。

「組織拡張器を入れるときは脇の下を切開して、胸筋の下に挿入します。乳がん手術時の胸の傷を開くと、組織を拡張したとき傷が広がるおそれがあるからです。その3~4カ月後、皮膚が十分に伸びてから、今度は胸の傷を切開してインプラントに入れ替えます。胸の傷跡が目立つ場合は、組織拡張中に縫い直すこともあります」

組織拡張器を入れるときは傷跡を広げる痛みがあるため1泊入院が必要ですが、一度皮膚が伸ばされたあとのインプラントへの入れ替えは痛みがないので通院でOKです。

組織拡張器を入れた後は、被膜拘縮の予防にマッサージをするとよいそうです。看護師さんの指導を受け、1回3分、1日5回、入れ替えまで続けます。

「インプラント法では美しいおわん型のシルエットがつくれる半面、対側のバストがしぼんで垂れていたり小さいとき、扁平なときは、左右対称にならないこともあります。その場合は、対側のバストを豊胸したり吊り上げたりして左右のバランスをとる必要があります。また、ごくまれに細菌感染を起こしてインプラントを抜去しなければならないこともあるので、発熱、発赤、疼痛が生じたら、医師の診察を受けましょう。なお、インプラントはほぼ半永久的なものですが、再発チェックを兼ねた定期的な検診が必要です」


[乳房再建(インプラント法)の手順]

[1 乳がん手術後]
写真:乳がん手術後

胸筋温存乳腺全摘術によって、皮膚と乳腺が不足している

[2 組織拡張器を挿入]
写真:組織拡張器を挿入

大きめの生理食塩水バッグを脇の下から大胸筋の下に挿入し、皮膚を伸ばす。1泊入院と1週間の静養が必要

[3 インプラントの入れ替え]
写真:インプラントの入れ替え

2カ月後、乳がん手術後の傷をきれいに縫い直す。さらに2カ月後、シリコン製のインプラントに入れ替え、左右のバランスを整える。通院手術で、当日の静養が必要


[4 乳頭再建]
写真:乳頭再建

反対側の乳頭の先を取って移植。局所麻酔の通院手術で、静養の必要はない

[5 乳輪をつくる]
写真:乳輪をつくる

入れ墨で乳輪を再建。通常、2回に分けて行う。最初は薄い色で小さめに、2回目はやや濃く色を重ねる。これで完了


インプラント(人工乳腺)のいろいろ
写真:インプラント(人工乳腺)

現在、日本で使われているのは、ソフトシリコン、コヒーシブシリコン、生理食塩水、ハイドロジェルの4種類。南雲さんのおすすめは、流動的で肉質に近いやわらかさのソフトシリコン。コヒーシブシリコンは、お菓子の“グミ”のような感触で流動性に欠け、寝てもバストの形が変らないのが特徴。シリコンバッグは600キロの重さに耐え、うつぶせ寝もOK。生理食塩水は、まれに体内で漏れて吸収され、しぼんでしまうことも。また、バッグの周囲にしわができ、角に触れると不自然な感触に。ハイドロジェルは安全性が疑問視され、欧米では使用不可。


乳輪、乳頭はどうする?
乳房再建後、間をあけて皮膚移植や入れ墨でつくる

乳頭や乳輪は、再建した乳房が落ち着いてきたころにつくるのが普通です。

「インプラント法の場合は、組織拡張器から通常のシリコンバッグに入れ替えた後、1カ月以上たてばいつでも可能です」

乳頭の再建は、反対側の乳頭の先端を切り取って移植するのがもっとも簡単ですが、乳頭が非常に小さいとか授乳を希望している場合、この方法は適さないので、再建した乳房の皮膚を切って持ち上げ、高まりをつくる局所皮弁という方法を用います。

乳輪は入れ墨で彩色するのが簡単ですが、太ももの内側の皮膚を移植する方法も。入れ墨の場合は、いったん濃く大きく描くと消すことができないため、やや薄めの色で小さめに描き、希望によって再度調節するそうです。

「乳頭と乳輪の順番は、乳頭の再建方法によって決まります。乳頭を移植する場合は、乳頭をつくった後、入れ墨で乳輪の入れ墨をします。局所皮弁法なら、先に入れ墨で乳輪と乳頭部分を描いてから、乳頭をつくります」

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