渡辺亨チームが医療サポートする:乳がん編
3センチ超の乳がんでも乳房を温存することは可能か
渡辺亨さんのお話
*1 乳がんの初発症状
乳がんの初発症状の8割以上はしこりです。9割は患者さんが自分でしこりを見つけます。月に一度、たとえば生理が終わった頃や、毎月、日を決めて、自分で胸をさわってみる習慣をつけましょう。お風呂で手に石鹸をつけて、乳房全体をさするようにするとよくわかります。
*2 乳がんの体質
母親や姉妹に乳がんの人がいると、乳がんにかかるリスクは2倍高くなるといわれています。乳がんや卵巣がんは、かかりやすい家系があると考えられているのです。しかし、肺がんや胃がん、大腸がんになった方がいても、乳がんにかかるリスクが高くなるということはありません。


*3 乳がんの検査
乳がんの検査では、視診・触診とエコー(超音波検査)とマンモグラフィ(乳房X線撮影)が、最も基本的な検査です。
視診は、乳がんに特徴的な乳房のえくぼやひきつれなどの皮膚の状態を発見しようとするものです。しこりを作らないタイプの乳がんもあるので、この診察は欠かせません。
乳がんの多くはしこりができるので、もちろん触診も大切です。硬さ、弾力性、境界の状態、周辺組織との関係などで、乳がんらしいしこりかどうかを判断します。ベテラン医師なら、触診だけでしこりが悪性かどうか、ある程度、わかりますが、確定はできません。
マンモグラフィは、乳房専用のX線撮影です。しこりの形、周辺のけば立ち具合、芯があるような濃淡などが、がんの特徴的な所見です。触診ではわからないような小さなしこりでも、がんを疑わせる石灰化等で、がんを発見できる場合もあります。ただし、若い女性で、乳腺の豊富な人では画像にはっきりと写らないこともあります。
エコーは乳房に超音波をあて、反射波をコンピュータで画像化する検査です。機器の進歩で、かなり詳細な画像も得られます。触診ではわからない小さなしこりも見つけられます。

*4 確定診断
触診や画像診断だけでがんであるという疑いが強くても、それだけで手術の実施を決めるのは危険です。いかにも悪性に見えながら、切ってみたら良性だったという場合もあります。悪性かどうかの結論を出すには、細胞やそのまとまりである組織を顕微鏡で見る検査(細胞診・組織診)が必要です。
*5 乳がんのリスクファクター
下表のような人たちが乳がんになるリスクが高いと考えられています。また、欧米では乳がんの発生率は、日本の数倍も高いのですが、乳製品や肉類が多い欧米型の食生活が関係していると考えられています。
●年齢(40歳以上) |
●未婚(30歳以上) |
●高齢初産(30歳以上。未産を含む) |
●少子 |
●遅い閉経年齢(55歳以上) |
●早い初潮 |
●肥満(標準体重の+20%以上・特に50歳以上 |
●良性の乳腺の病気にかかったことがある |
●家族に乳がんになった人がいる(母、姉妹、祖母、おば) |
●乳がんになったことがある |
*6 乳房温存手術の選択
日本乳癌学会の調査によると、全国平均では、約35パーセントの患者さんが乳房温存手術をうけています。ちょっと前まで、乳がんといえば乳房切除手術が常識でしたから、乳房温存手術が普及していることがわかります。中には、乳房温存術を85パーセント行っている、と言っている病院もありますが、温存術ができるような小さな腫瘤の乳がん患者が多く集まってくる、そういう患者さんだけを選んで手術する病院では、乳房温存率は高くなります。これを、選択バイアスと呼びます。しかし、乳房温存術が急速に、普及しているのは事実です。
乳房温存療法においては温存乳房の乳房内再発のリスクはあるものの、乳房切除術と乳房温存療法との間に遠隔転移率の差はなく、生存率にも差がないことがわかっています。
一般に温存手術は、しこりが3センチ以下の乳がんに向いていると考えられていますが、発生位置(乳頭との位置関係)や、乳房の大きさとしこりの大きさとの比率などで、それより小さくても温存手術ができない乳がんもあれば、もっと大きくても温存手術で治すことができる乳がんもあります。
*7 乳がんの進行度
乳がんという診断がついた場合、がんがどの程度拡がっているか、遠隔臓器に転移しているかについての検査が行われます。その結果、がんの拡がりの程度に応じて治療方法が変わってきます。このがんの拡がりの程度を病期(ステージ)といい、すべての治療の前の段階での病期は、その後、変更されることはありません。病期は下表のように分類します。正式にはI、II、III、IVという、ローマ数字を用いますが、本サイトでは、なじみやすい算用数字を用います。
Tis 非浸潤 がん | T0 原発腫瘍 が不明 | T1 大きさ 2cm以下 | T2 大きさ 2~5cm | T3 大きさ 5cm以上 | T4 大きさによらず、胸壁、皮膚に浸潤 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
N0 リンパ節転移なし | M0 遠くの臓器に転移なし | 0期 | 1期 | 2A期 | 2B期 | 3B期 | |
N1 腫瘍と同じ側の脇の下にリンパ節転移(動く) | 2A期 | 2B期 | 3A期 | ||||
N2 腫瘍と同じ側の脇の下にリンパ節転移(固定) または腫瘍と同じ側の胸の内側にリンパ節転移 | 3A期 | ||||||
N3 腫瘍と同じ側鎖骨の上下に リンパ節転移 腫瘍と同じ側の胸の内側と脇の下にリンパ節転移 | 3C期 | ||||||
M1 遠くの臓器に転移 | 4期 |
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