渡辺亨チームが医療サポートする:乳がん編
乳房温存手術+リンパ節郭清で、病理的完全奏効を得た
渡辺亨さんのお話
*1 ハルステッド手術
乳がんの手術療法はかつては、19世紀から行われてきた「ハルステッド手術(定型的乳房切除術)」といって、がん病巣とともに胸筋や周囲のリンパ節など乳房を広範囲に切除する方法が定型的と呼ばれてきました。この手術法は乳房全部を失ってしまうため、患者さんの精神的なダメージが大きく、また胸筋やリンパ節を切除するために腕が上がらなくなったり、腕がむくむなど、機能上の問題も多く出ます。最近ではハルステッド手術は全くといってよいほど行なわれず、できるだけ小さい範囲をとる手術が行われています。乳房だけをとる「胸筋温存乳房切除術」や、乳房の一部分だけをとる「乳房温存手術」が一般的です。

乳房扇状部分切除術
乳頭を中心とする扇形に腫瘍部分を切除する
乳房円状部分切除術
腫瘍の周囲から2~3cmまでの安全域をとって、くり抜く
腫瘤摘出術
腫瘍部分だけを切除する
*2 術前化学療法による臨床的完全奏効
乳がん手術前の抗がん剤治療により、原発病巣(しこり)は約8割の患者さんでは大きさが半分以下に縮小し、2~3割前の患者さんでは完全に消失します。
このように、触診や画像検査でがんが完全に消えることを臨床的完全奏効(cCR)、半分以下になることを、臨床的部分奏効(cPR)といいます。術前抗がん剤治療が完全奏効した患者さんや、部分奏効した患者さんの一部では、乳房温存術を実施することができます。
*3 腋窩郭清
わきの下の脂肪やリンパ節、神経の一部を含めて、一塊で取り除くことを、腋窩郭清といいます。腋窩郭清は、昔は、治療と考えられていましたが、最近では、検査であり治療ではない、と考える専門家もいます。なんのための検査かというと、微小転移と呼ばれる遠隔転移の芽が、他の臓器にまで及んでいるかどうか、判断するための検査という考え方です。術前化学療法をしないで、まず、手術をする場合、腋窩郭清をしてリンパ節に転移があるかどうかを調べ、転移があれば、抗がん剤治療が必要ということになります。術前化学療法を行った場合には、腋窩郭清がどのような意味があるか、については専門家の間でも一定した考え方がありません。
*4 術中迅速病理診断
手術中に、切除した部分を液体窒素で凍らせ、端っこのほうにがんが残っていないかどうかを調べる方法を術中迅速病理診断といいます。もしここからがんが見つかるようなら、もっと大きく切除し直す場合があります。
*5 病理的完全奏効
臨床的完全奏効となった患者さんのなかで、手術でがんがあった部分を摘出し、細胞を顕微鏡で調べて、転移を起こしそうながん細胞が全く見つからなくなった状態を病理的完全奏効といいます。この状態になった患者さんは、そうでない患者さんに比べて予後がはるかにすぐれています。病理学的完全奏効は、現在、約3割の患者さんで認められます。この3割という数字にはふたつの意味があります。ひとつは、もっと効果の高い抗がん剤治療が開発されるとこの数字はさらにあがる可能性があるということ。もうひとつは、この3割の患者さんも手術をしてみて、がんが消えていたということがわかったのであり、がん細胞がなかったわけですから、結果的には手術をしなくてもよかった、ということになります。将来的には、抗がん剤治療、放射線治療などにより、乳がんを切らずに治すことも夢ではないと思います。
*6 術後放射線治療
乳がんの手術後は、残っている可能性のあるがんをたたくために、放射線照射を行うのが常識的です。乳房温存手術後の放射線照射は、一般に外来通院で月曜日から金曜日までの連続5日間を5週間繰り返します。線量は50グレイで、照射時間は5分間くらいです。心配な放射線障害ですが、皮膚が赤く日焼けしたようになって色素沈着することがあります。
ただし、半年後にはあまり目立たなくなります。この治療により、局所の再発や全身への転移を防ぎます。
*7 術後リハビリテーション
乳がんの手術を受けると、手術をした側の腕に痛みやしびれ、つっぱり感が出てきて腕がうまく動かせず、日常生活に支障をきたすことになりがちです。
これは手術中に腕の神経を刺激すること、皮膚を切除し縫合するので縮んでしまうこと、リンパ節を切除するとリンパ管が切られて縮んで緊張すること、傷をかばいすぎて肩から腕を動かさずにいることなどが関係します。
腕がスムーズに上がり症状を和らげ、手術前と変わらぬ生活が過ごせられるようにするために、手術直後からリハビリテーションを行う必要があります。とくに、術後抗がん剤治療を受ける患者さんでは、抗がん剤治療に気をとられ、ついついリハビリテーションがおろそかになりがちですから、注意しましょう。
*8 健康食品

新聞で報道された健康食品の害
健康食品という言葉にだまされてしまいますが、なかには、不健康食品もあるので十分に注意しましょう。がんに効くといっている健康食品のなかで、本当にがんに効くものはひとつもありません。「免疫力増強」、「再発予防」などのうたい文句をあげて、ワラにもすがる思いの患者さんの気持ちにつけ込む悪質な業者も少なくありませんので、十分注意してください。
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