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心臓を避ける照射DIBH、体表を光でスキャンし正確に照射SGRT 乳がんの放射線治療の最新技術!

監修●吉村通央 京都大学大学院医学研究科放射線腫瘍学・画像応用治療学講師
取材・文●柄川昭彦
発行:2023年2月
更新:2023年2月


全乳房照射で心臓への線量を防ぐDIBH

乳房温存手術が行われた場合、その後に再発を予防するための全乳房照射が行われます。それが右側の乳房であれば問題ありませんが、左側の乳房だった場合には、心臓に放射線が当たってしまう危険性があります。

「3D-CRTで普通に左全乳房照射すると、心臓にかかってしまいます。心臓に照射される放射線量が増えるほど、心疾患のリスクが高まることがわかっているので、なんとかして心臓を避ける照射方法が必要でした。そうして考え出されたのが、DIBH(Deep Inspiration Breath Hold:深吸気息止め照射)という方法なのです」(吉村さん)

DIBHは、患者さんが深く息を吸ったところで息を止め、その状態で放射線を照射する治療法です。ふつうの呼吸をした状態だと放射線が心臓にかかってしまいますが、深く息を吸って肺が空気で膨らんだ状態だと、心臓と乳房との距離が広がります。それにより、心臓を避けて照射することができるのです(図4)。

「単純な原理による治療法ですが、DIBHには息止めの精度管理が重要で、きちんと呼吸の位相をモニターする技術が必要となります。そのためによく行われているのが、腹壁にマーカーを置き、その上下動で呼吸の位相をモニターする方法です。呼吸するときには、胸だけではなく腹部も動きます。それをモニターし、息を吸って呼吸が止まっていることを確認して、放射線を照射するのです」(吉村さん)

現在では、次に解説するSGRTの技術を使って呼吸をモニターし、DIBHを行っている医療機関もあります。京都大学病院もそうです。

体表面を監視し正確な位置に照射するSGRT

放射線治療が高精度になればなるほど、患者さんの体のどこに照射するかという位置決めが重要になってきます。それがずれていたら、どんなに高精度に計画を立てて照射しても、意味がないからです。

「従来はX線画像を撮って、患者さんの体の位置がずれていないかを確認して、放射線を照射するという方法をとっていました。これに対し、最新のSGRT(Surface Guided Radiation Therapy:体表面誘導放射線治療)は、プロジェクションマッピングのように患者さんの体表面に斑点パターンを投影し、その体表面の3次元情報によって、患者さんの体の位置合わせを行うという方法です」(吉村さん)

この光学��な方法だと、患者さんの体に当たるのは光なので、X線撮影のときのように被曝することがありません。また、光学式プロジェクションとカメラシステムを使い、体表面をリアルタイムでスキャンすることにより、セットアップ時や照射中の体のずれをチェックすることができます。水平方向、頭尾方向、左右方向に、ずれがどれだけあるかをチェックしながら治療できるのです(図5)。

「ずれていることがわかれば、それを直して照射することができます。X線撮影による位置決めだと、治療の前に1回だけ撮影して、ずれていないことを確認しますが、治療中にどうなっているかはわかりません。その点、SGRTはリアルタイムスキャンが可能なので、ずれていないことを確認しながら治療を行えるのが優れた点です」(吉村さん)

SGRTは体表面の情報を利用して放射線を照射するので、体表に近い部位にできるがんの治療にはとくに適しています。体の深部のがんの治療にも使えますが、乳がんのように体表近くのがんの治療には、とくに適しているといえそうです(図6)。

「SGRTの技術は、DIBHの呼吸の位相をモニターするのにも使われています。体表面の情報から、呼吸が正しい位置で止まっていることを確認し、放射線を照射するのです。おなかにマーカーを置く方法よりも正確に位置をモニターすることができます」(吉村さん)

現在では、SGRTの技術を使って呼吸をモニターし、DIBHを行っている医療機関もあります。京都大学病院もそうです。

今回は、乳がん治療に関わる「IMRTとVMAT」「DIBH」「SGRT」という3種類の最新技術について解説しましたが、放射線治療は急速に進歩しています。照射精度が高まることで治療成績が向上していますし、正常臓器への影響が抑えられ、ひどい副作用は起こりにくくなっているようです。

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