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高濃度乳房の多い日本人女性には マンモグラフィとエコーの「公正」な乳がん検診を!

監修●植松孝悦 静岡県立静岡がんセンター乳腺画像診断科/生理検査科部長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2024年9月
更新:2024年9月


J-STARTとはどのような臨床試験ですか?

J-STARTとは、乳がん検診における超音波(エコー)検査の有効性を検証するため、日本人76,196人が参加した「マンモグラフィ」vs.「マンモグラフィ+超音波検査」のランダム化比較試験(RCT)です(図5)。

「マンモグラフィ単独が世界標準の乳がん検診の方向ですが、日本は視触診+マンモグラフで、これは世界では稀な方法です。ですからJ-STARTも正確には視触診+マンモグラフ vs. 視触診+マンモグラフィ+エコーの比較試験です。その結果は、視触診+マンモグラフィ+エコーで明らかに感度が改善されました」

第1報の初回検診における感度、特異度(非がんを非がんとして正しく判断できる率)、がん発見率が2016年1月に『Lancet』に発表されました。マンモグラフィ+エコーは浸潤がん(過剰診断の可能性が低い、生命予後にかかわる乳がん)を見つける感度が上がって、中間期がん(検診で異常なしとされ、次の検診までの短期間内に発見されたがん:所謂、見逃し乳がん)が減っています(図6)。

2021年8月に発表された第2報では、高濃度乳房のみならず非高濃度乳房でも感度が優位に高く、エコーの上乗せ効果が確認され、乳がん好発年齢で、他の年代の女性より乳がん発症リスクと高濃度乳房の比率が高い40歳代の日本人女性にはマンモグラフィ+エコーがマンモグラフィ単独より有力な検査法であることが示されました。

「J-STARTは日本人女性に対して行われたランダム化比較試験なので、エビデンスレベルは非常に高いのですが、死亡率減少効果を見ないと乳がん検診の有効性としては客観的な評価はできません。通常、欧米で死亡率減少効果を示している比較試験は、最低でも5〜6回行っています。ところが残念ながらJ-STARTは東北地震などがあり、実際には2回しか行えませんでした。その程度の比較試験では、検診群と非検診群を比較しても『死亡率減少効果』はおそらく出ない可能性が高いと思います」

しかし、J-STARTは乳がん死亡率減少効果を証明していませんが、感度向上のエビデンスがあり、日本人女性に行われた唯一の(視触診併用の)マンモグラフィ検診をコントロール群としたランダム化比較試験です。

「単に欧米のマンモグラフィ検診のランダム化比較試験の結果を外挿したエビデンス(しかも外的妥当性がない)より、J-STARTのエビデンスレベルは日本人女性おいて非常に重要かつ高いと考えるべきです。そして、中間期がん減少も示しているので、J-STARTのエビデンスを用いて、エコーを上乗せした検診を国が提供すべきだと思います。しかも、国民の税金を資金とした日本が世界に誇れるランダム化比較試験結果で、非常にエビデンスレベルも高いわけですから、日本人女性にその利益を一刻もはやく還元する義務があるわけです」

マンモグラフィとエコーの〝公正〟な乳がん検診を!

現行の乳がん検診は、40歳以上の女性全員に対して2年に1度のマンモグラフィを提供していますが、高濃度乳房を持つ女性にとっては、この検診だけでは十分な感度が得られず、乳がんの早期発見につながらない可能性があります。

「そのため、高濃度乳房の女性にはエコーなどの追加検査を行い、検診の感度を高めることが求められます。このようなアプローチにより、すべての女性が乳がん検診の利益(乳がん死を防ぐ)を平等に享受し、〝公正〟な乳がん検診が実現されることが重要です」(図7)

ただし、エコーを追加するとマンモグラフィで見つからない乳がんが見つかります(利益)が、偽陽性(不利益の1つで乳がんでない所見が要精査となること)も増加するため、個人の価値観や好みでエコーを受けるか判断することも重要です。

自分の乳房構成(高濃度か非高濃度)を知り、ブレスト・アウェアネスの実践を!

乳がん検診とともに日常生活で重要なことがあります。

「普段から日常の習慣として、ブレスト・アウェアネスを実践することが非常に重要です」

アウェアネス(awareness)とは、「意識」「気づき」という意味で、乳房に常日頃から意識する生活習慣を身につけ、何か変化を感じたらすぐ医療機関を受診することです(図8)。

「また、乳がん検診を受けたときに、ご自分の乳房が高濃度乳房か、そうでないか知ることがとても大切です」と植松さんは言います。

しかし、「一律に高濃度乳房の女性に乳房構成を通知することは解決困難な不安を生み、医療現場にも混乱をもたらす可能性がある」として、現時点では国は乳房構成の通知を義務づけていません。

ですが、乳房構成の結果は、検診受診者自身の個人情報であり、それを知る権利があります。そして、乳がん検診実施機関に問い合わせることが可能で当然の権利であり、その機関は答える義務があります。

エコーを受けたい場合、現在乳がん検診では保険適用ではないため、自費で受けることになります。では、どこでエコーを受けたらいいのでしょうか?

「乳腺を診療している一般病院や開業医でも受けられますし、いわゆる検診を行っているドック専門病院などに申し込むのもいいと思います。働いている女性は会社の健診を受けますよね。そのとき乳がん検診がオプションになっていることが多いので、そこでエコーを受けるのもいいと思います」

植松さんはもう1つ重要なことがあると言います。

「絶対に覚えておいて欲しいのは、血縁者に乳がんの人がいたら、エコーを受けたほうがいいかもしれません。乳がんには遺伝性乳がんがあるので、血縁者とくに一親等(親子)に乳がん患者さんがいる方は、ご自身が遺伝性乳がんの可能性がないかを専門医の先生にご相談することをお勧めします」

日本人女性は高濃度乳房の比率が欧米に比べると圧倒的に多いため、まずは自分が高濃度乳房かどうかを知り、そしてマンモグラフィとエコーの特性を理解し、日頃からブレスト・アウェアネスを実践することが大切です。

Rethinking screening mammography in Japan: next-generation breast cancer screening through breast awareness and supplemental ultrasonography. Uematsu T. Breast Cancer. 2024 Jan;31(1):24-30.

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