1. ホーム  > 
  2. 各種がん  > 
  3. 乳がん  > 
  4. 乳がん
 

診療ガイドラインの解説:『乳癌診療ガイドライン』から薬物療法をわかりやすく解説 乳がんは個々のタイプを見極めることが肝心!

監修●渡辺 亨 浜松オンコロジーセンター院長
取材・文●祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2013年3月
更新:2019年11月

サブタイプを知ることが重要

■表3 乳がんの大まかなサブタイプ別分類

  ホルモン受容体 HER2受容体 薬物療法
ルミナルA 陽性 陰性 ホルモン療法
ルミナルB 陽性 陰性 ホルモン療法±化学療法
陽性 ホルモン療法+化学療法+分子標的治療薬(トラスツズマブ)
HER2型 陰性 陽性 化学療法+分子標的治療薬(トラスツズマブ)
トリプルネガティブ 陰性 陰性 化学療法

そこで重要となってくるのが、乳がんを生物学的特性によって分類したサブタイプを知ることだ。ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)受容体の有無、HER2受容体の出現量、がんの増殖能の高低などによって、乳がんはルミナルAとB、HER2陽性、トリプルネガティブというサブタイプに分けられる。

ではサブタイプによって、薬物療法の内容はどう変わってくるのだろうか(表3)。

基本的な考え方として、ホルモン受容体陽性でホルモン薬に感受性のあるルミナルAはホルモン療法を実施する。ルミナルBの場合、HER2陰性ならホルモン療法を中心に必要であれば化学療法を追加、HER2陽性ならばホルモン療法に化学療法と分子標的薬のハーセプチンを加える。一方、HER2陽性であるHER2型であれば化学療法+ハーセプチンを、ホルモン受容体もHER2受容体もないトリプルネガティブの場合は、化学療法が行われる。

サブタイプは、微小転移を起こしやすいかどうかを測る因子であると同時に、適切な全身療法を選択する基準でもある。「手術で早くがんをとってしまいたい」という人は多い。しかし、サブタイプをみて微小転移のリスクが高ければ全身療法を早く始めなければならない。拙速な手術はかえってマイナスになることもあるのだ。

ハーセプチン=一般名トラスツズマブ

化学療法はキードラッグの使い方がポイント

具体的に薬剤を見ていこう。

ホルモン薬は、閉経前、閉経後で使う薬剤は異なってくる。閉経前ならば、脳に働いてエストロゲンの分泌をおさえるLH-RHアゴニスト製剤、閉経後ならばエストロゲンに変換する酵素の働きを抑えるアロマターゼ阻害薬を使う。一方、がん細胞のエストロゲン受容体に結合することで、エストロゲンの作用を阻害する抗エストロゲン薬は、閉経前・後に関わらず使うことができる(表4)。

■表4 閉経前と閉経後の主なホルモン薬

分 類 一般名 薬の働き
閉経前 LH-RHアゴニスト製剤 酢酸リュープロレリン 卵巣でのエストロゲン合成を抑える
酢酸ゴセレリン
閉経前
閉経後
抗エストロゲン薬 タモキシフェン エストロゲン受容体をふさいでエストロゲンが乳がん細胞に作用するのを妨げる
トレミフェン
黄体ホルモン薬 酢酸メドロキシプロゲステロン 間接的に女性ホルモンの働きを抑制する
閉経後 アロマターゼ阻害薬 アナストロゾール アンドロゲンをエストロゲンに変換するアロマターゼを阻害する
エキセメスタン
レトロゾール
抗エストロゲン薬 フルベストラント エストロゲン受容体に結合してエストロゲンが乳がん細胞に作用するのを妨げることができる

出典:日本乳癌学会編:『患者さんのための乳がん診療ガイドライン 2012年版』(金原出版)

「以前は、ホルモン療法は術後5年間行うと言われてきましたが、今は10年、15年と長期にわたりホルモン薬を使うようになりました。効果があればその間にいつ手術を行ってもいいのです」と渡辺さん。例えば、切除ができずホルモン療法を行い、原発巣も転移巣も小さくなれば、それから手術をしてもいいのである。

抗がん薬治療は、まずキードラッグとしてアンスラサイクリン系薬剤とタキサン系薬剤をどのように使うか、を決める。アンスラサイクリン系には、アドリアシン(A)やファルモルビシン(E)といった抗がん薬があり、それにエンドキサン(C)を組み合わせたAC療法、EC療法、さらに5-FU(F)を併用したFEC療法などがある。また、AC療法などのアンスラサイクリン系薬剤を含むレジメン(治療計画)に、タキサン系の薬剤であるタキソールやタキソテールを続ける治療や、タキソテールとエンドキサンを併用するTC療法などもある(表5、6)。

■表5 乳がん治療に用いられる主な抗がん薬

分 類 略 称 一般名(商品名)
アンスラサイクリン系 ドキソルビシン(アドリアシン)
エピルビシン(ファルモルビシン)
タキサン系 パクリタキセル(タキソール)
ドセタキセル(タキソテール)
その他 フルオロウラシル(5-FU)
シクロホスファミド(エンドキサン)
メトトレキサート(メソトレキセート)

抗がん薬は、薬の商品名または一般名の頭文字からとった略称で呼ばれる

■表6 主な多剤併用例

治療法 一般名 投与法 サイクル
CMF シクロホスファミド 内服 4週ごと6サイクル
メトトレキサート 静注
フルオロウラシル 静注
CAF シクロホスファミド 静注 3週ごと6サイクル
ドキソルビシン 静注
フルオロウラシル 静注
AC ドキソルビシン 静注 3週ごと4サイクル
シクロホスファミド 静注
EC エピルビシン 静注 3週ごと4サイクル
シクロホスファミド 静注
TC ドセタキセル 静注 3週ごと4サイクル
シクロホスファミド 静注
FEC フルオロウラシル 静注 3週ごと6サイクル
エピルビシン 静注
シクロホスファミド 静注
TAC ドセタキセル 静注 3週ごと6サイクル
ドキソルビシン 静注
シクロホスファミド 静注
AC→
ドセタキセル
ドキソルビシン 静注 3週ごと4サイクル
シクロホスファミド 静注
静注
ドセタキセル 静注 3週ごと4サイクル
AC→
パクリタキセル
ドキソルビシン 静注 3週ごと4サイクル
シクロホスファミド 静注
静注
パクリタキセル 静注 1週ごと12サイクル

どのようなレジメンを使用するかは、再発リスクなどを考慮して決める。例えば、リンパ節転移陽性の乳がんに対しては、アンスラサイクリン系薬剤に、タキサン系薬剤を順次あるいは同時併用することがガイドラインでは勧められている。また、HER2陽性の乳がんでは、積極的にハーセプチンを使用していくことが重要になってくる。

アドリアシン=一般名ドキソルビシン ファルモルビシン=一般名エピルビシン エンドキサン=一般名シクロホスファミド
5-FU=一般名フルオロウラシル タキソール=一般名パクリタキセル タキソテール=一般名ドセタキセル

同じカテゴリーの最新記事