1. ホーム  > 
  2. 各種がん  > 
  3. 乳がん  > 
  4. 乳がん
 

米国乳腺外科医インタビュー:半分の患者さんが同時再建術を受け、遺伝子検査で不要な化学療法は避ける 患者さんの合理的な治療選択が米国の乳がん治療を動かす

ゲスト●バーバラ・スミス マサチューセッツ総合病院乳腺センター長/ハーバード大学医学部外科准教授
聞き手●佐藤一彦 東京西徳洲会病院乳腺腫瘍センター長・化学療法センター長
構成●伊波達也
発行:2013年3月
更新:2019年11月

両側乳房の同時再建もインプラントが主流

佐藤 では、両側乳房切除が普及しているもう1つの背景であるという、再建技術について聞かせてください。

スミス 乳房再建術では、乳房にシリコンなどの人工乳房を埋め込むインプラント法と、お腹などの組織を移植する自家移植法とがありますが、両側乳房切除後の再建術では、当院の場合、8~9割がインプラント法で行っています。そのうち約4分の3の患者さんが、両側乳房切除術とインプラント挿入とを同じ日に行う同時再建術を受けています。

その際、アロダーム(人間の真皮のシート)やマイクロメッシュ(人工膜)を使ってインプラントをカバーするようにしています。これにより、インプラントという異物に体の組織が反応して乳房が硬くなる硬縮という現象を防ぐことができ、インプラント法による再建手術の精度を上げています。

ティッシュエクスパンダー(組織拡張器)を使う方法は、必要がある場合以外、あまり行っていません。ティッシュエクスパンダーを挿入した場合は、一定期間を置いてから、インプラントに入れ替える手術を行うことになります。

同時再建ですと、がんの切除術と乳房再建術が全部一度に終わるの点で、患者さんにメリットがあります。

組織拡張器=切除した部分の胸の皮下組織に挿入してから、生理的食塩水を注入して袋を膨らませて、皮下組織を拡張させる。その後にインプラントと入れ替えたり、自家組織移植によって乳房の再建を行う。

両側再建なら年齢による下垂もバランスよく

■図2 変遷する乳がん手術の課題

・腋窩手術(リンパ節郭清術)が減少している
・乳房切除患者さんには、より整容効果の高い治療が求められる
・がん遺伝子型が局所再発率に及ぼす影響の検討
・乳房温存術における切除断端迅速診断の導入
・Ⅳ期の患者さんに対する手術の役割が向上

スミス 両側乳房同時再建が好まれるのには、もう1つ理由があります。両側を同時に再建すれば、片胸を温存するよりも、左右のバランスのよいきれいな乳房を再建できるとして、患者さんには好まれているのです。再建した乳房は小さくなることも多いですし、経年による乳房の下垂で、左右の乳房バランスに差が出るのを避けたい考えも強いようです。最初に話したように、これがまさに、がん治療後の整容面に深く配慮をするオンコプラスティックな手術なのです(図2)。

佐藤 米国の患者さんは、合理的な考え方をされる傾向があるのですね。正直、驚きました。

乳がん手術の50%は同時再建

佐藤 ところで、両側・片側に限らず、同時再建手術をする人の割合はどの程度ですか。

スミス 米国全体でいうと、すべての乳がん患者さんのうち50%が乳がん手術と同じ日に再建術を受ける同時再建術を受けています。そのうち、全部で80~90%はインプラントによる再建を受け、残りの10~20%が自家組織による再建を受けています。

自家組織で同時再建する場合は、腹直筋皮弁を使うことが多く、場合によっては深下腹壁穿通枝動脈皮弁を使うこともあります。

佐藤 同時再建により、術後の放射線治療が行いにくくならないかと気になさる患者さんも多いようですが、米国での治療はどのようになっていますか。

スミス 同時再建をしたほとんどの患者さんに、術後放射線治療を実施しています。ただ、ティッシュエクスパンダーを挿入している場合、放射線治療の影響で摘出せざるを得なくなるケースが増えるという研究報告もあります。

けれども、インプラント挿入後に放射線治療をしても、放射線による潰瘍の傷跡がそれほど強く出るわけではありませんし、放射線治療後に再建手術をしようとしても、組織の癒着などによってかえって難しくなります。むしろ再建後に放射線治療をするほうが問題は少ないと考えていいでしょう。

新しい放射線治療、加速乳房部分照射とは

佐藤 米国の乳がん治療の現場では、いま、放射線治療の加速乳房部分照射(APBI)が行われていると聞きます。日本ではあまり行われていませんが、米国では標準化に向かいつつあるのでしょうか。

スミス 米国の放射線治療を大きく変革させているのが、この治療法です。放射線治療を行わなかった場合には、局所再発は切除したところから2cm以内のところにほとんどが生じているというデータがあります。そのため、2cm以内の部分に集中的に照射できる加速乳房部分照射には大きな期待がよせられ、当院でも力を入れています。

乳房温存の350例に対し通常の外照射と比較する試験を行った結果、加速乳房部分照射のほうが局所再発率も低く、患者さんにとっても治療が簡便でした。治療が5日間ですみ(通常の外照射は5~6週間)、仕事をもつ女性などにも大いにメリットがあります。この再発予防効果は、医療経済面からみても有益だと思います。

とくにがんが左側にある場合は、心臓を放射線の影響から保護できる点も大きなメリットです。したがって全照射はいずれ、乳がんの大きさと形状によって必要な場合にのみ選択することになるとされています。

臨床では2年前に、米国放射線腫瘍学会(ASTRO)が加速乳房部分照射を標準的な治療のオプションとしてガイドラインに記載しています。小葉がん、非浸潤がんに対しては実施するかどうかの見解がわかれるところですが、がんが小さい人で45歳以上であれば問題ないと思います。

今後は、大規模試験の結果で有効性が認められる必要がありますが、おそらく3~5年後に解析結果が出れば、加速乳房部分照射は標準治療になるでしょう。

加速乳房部分照射=乳房温存術を行った後、その周辺部に集中的に放射線を照射する治療法。放射線を出す線源を腫瘍切除部分に挿入して、乳房の内部から放射線を照射する方法や外から集中して照射する方法などがある

同じカテゴリーの最新記事