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会員6万人を有する患者支援組織「米国乳がん連合」の最新活動レポート 「2020年乳がんの終焉」に向けて米国乳がん患者たちが動き出した

取材・文:遠藤豊子
発行:2011年7月
更新:2015年1月

米国乳がん連合の患者教育プログラム

彼ら患者活動家たちの「対話を続ける折れない心」を育むのは、米国乳がん連合の「プロジェクト リード」をはじめとする教育プログラムである。

「プロジェクト リード」では受講者の目的、レベル、国籍などの背景に合わせて5つのコースが用意されている。

なかでも「インターナショナル プロジェクト リード」と呼ばれるコースでは、国際的に活動する患者支援活動のリーダーを育成することを目的としたコースである。ここでは、がん生物学、遺伝学、疫学、研究デザイン、アドボカシー、国際共同治験について広く学ぶ。

欧州、アフリカ、アジアから参加者が集まり、平易な英語で授業を行う工夫が凝らされている。近年日本から「インターナショナル プロジェクト リード」に参加する患者支援活動家が徐々に増えてきている。帰国後、ここでの学びを日本における自らの活動に取り入れようとしている、2人の「プロジェクト リード」卒業生にお話を伺った。

●寺田真由美さんの場合
市民公開講座にて講演をする寺田真由美さん

市民公開講座にて講演をする寺田真由美さん

2011年にメキシコのカンクンで「インターナショナル プロジェクト リード」に参加した寺田真由美さんは、罹患して5年目を迎える乳がん経験者である。

翻訳者として活動する傍ら、有志のチームを立ち上げ、科学的根拠に基づくがん検診に対する理解を普及させるための情報発信に取り組んでいる。

「プロジェクト リード」での経験について寺田さんは、「米国乳がん連合で学んだことは、自分自身の治療選択について専門家の説明を聞き、咀嚼するために必要な基礎的知識や姿勢でした。基礎的な知識といっても、それはたとえば、医学的な統計情報を読み解く視点のようなものです。専門家でない私たちが、難解な医学知識を習得するのは大変なことですし、その必要もないと思います。ただ、検診や治療の効果やリスクの程度を示す指標にはいくつか種類があり、その違いや算出の背景を知ることで、情報を冷静に受け止めることができるようになります。医療者と対話して納得のいく治療選択を行う際にも役立つ知識であると思います」と語る。

●桜井なおみさんの場合
カンファレンス最終日、仲間との再会を誓う桜井なおみさん

カンファレンス最終日、仲間との再会を誓う桜井なおみさん

2009年の「プロジェクト リード」に参加し、アドボカシー・トレーニング・カンファレンスに過去3年連続で参加している桜井なおみさん(NPO法人HOPE★プロジェクト理事長)は、米国乳がん連合での経験をもとに患者の学会参加のあり方の課題について取り組みを始めている。

具体的には、第47回日本癌治療学会学術集会のがん患者・支援者奨学プログラム「ペイシェント・アドボカシー・プログラム」の運営に参加している。

学術集会は患者にとっても最新のがんの診断や治療に関する情報に触れる貴重な機会である。同学会は2009年から患者やその家族、支援者に対し、参加登録費や旅費・宿泊費の助成を行い、それぞれの学びをサポートしてきた。

しかし、学術集会の本来の意義は、医学研究者が1年間の研究成果を発表し、今後の研究活動のための重要なフィードバックを得ることにあるため、その内容は専門家でなければ理解できない科学的知識がほとんどである。

患者として学会に参加することの目的を適切に設定すること、必要最低限の知識を備えることで、専門家コミュニティの中で学ぶ時間を有意義なものにすることができる。

ツールキット

政策提言や研究支援の対話に役立つデータが集められたツールキット

そのような考えから、本年は桜井さんをはじめとする複数の患者代表が、奨学プログラム運営委員会を組織し、応募方法の検討を行うとともに、患者参加者向けにマナーや医学用語を分かりやすく解説したガイドブックを用意している。

桜井さんは、「どのようなアクションにも目的意識を忘れないこと、科学的根拠を学ぶことの大切さを知ること、患者経験を忘れないことを米国乳がん連合の研修から学んだ。医療者と患者が互いの立場を尊重する関係性を築くことがより良い医療へのステップであると信じ、今自分ができることに取り組んでいきたい」と語る。

米国から得た知恵日本での展開に注目

米国乳がん連合の取材を振り返り思い出すのは、参加者のバイタリティだ。彼らは議員への陳情を生業とするプロではなく、今も再発・転移、または症状進行の可能性を抱えながら生活をしている患者である。彼らの原動力は、共に活動する友との絆・ネットワーク、そして教育である。

日本で活動している患者支援活動のリーダーたちが米国乳がん連合からヒントを得て、医療者と共に日本の事情に即した教育体制を創り始めていることにも注目していきたい。

遠藤 豊子さん

遠藤 豊子
1976年奈良県生まれ。米国ニューヨーク市立大学ハンター校政治学部卒業後、早稲田大学大学院にて国際関係学修士号取得。科学技術振興機構勤務を経て07年より(株)ジェイ・ピーアールで医薬情報の広報に携わる。現在医療・科学技術分野のライターとしても活動中


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