進行・再発乳がん治療 「タキソール+アバスチン併用療法」を効果的に使う方法 症状のない期間を長く 乳がんになる前と同じ生活を目指す
治療を継続するために必要な副作用対策
治療を長く継続するためには、副作用に対して適切な対策を講じていく必要がある。

◆アバスチンの副作用
特に問題となるのは、①高血圧、②鼻出血、③タンパク尿の3つである。
「血圧は家庭用血圧計で管理し、高血圧になったら内科を受診してもらいます。降圧薬にはいろいろなタイプがありますが、カルシウム(Ca)拮抗薬を使うと、タキソールの副作用が強まる危険があるので、当院では別のタイプの降圧薬を使っています」
鼻出血に対しては、慌てずに自分で対処することが最も大切。写真のように鼻を2~3分圧迫する(図9)。
「キーゼルバッハ部位という弱い血管網があり、ここから出血します。2~3分圧迫し、離してみてまだ止まっていなければ、さらに2~3分押さえます。何回か繰り返せば止まります。救急外来に行くのは、30分たっても止まらなかった場合です」
タンパク尿は、腎機能が障害されると現れる。
「各サイクルの初回投与日に検査をし、2+以上なら休薬し、1+以下に回復したら再開します」
◆タキソールの副作用
問題となるのは末梢神経障害。治療が繰り返されると、手足にしびれなどの症状が現れてくる。
「しびれなどが現れてきたら、薬を減量したり、休薬したりして、末梢神経障害で日常生活に支障をきたさないように注意します」
生活の質を重視するのが、進行再発乳がん治療の重要なポイントである。
どんな人によく効くかデータを蓄積中
アバスチンの効果予測について、研究が進んでいる。どのようながんによく効き、あまり効かないのはどのようながんなのかを、明らかにしようというものだ。
「アバスチンを投与した患者さん750人を追跡調査する臨床試験が、スタートしました(JBCRG-C05試験〔B-SHARE〕)。これほどの人数を追跡すれば、��のような人に効きやすいのかという傾向が見えてくるでしょう」
いずれそれが明らかになり、よく効く患者さんだけに使用するようになれば、現在より更に優れた治療成績が得られる可能性があるわけだ。
やりたいことをやって治療を長く続けよう
治療を続けていくとき、川口さんがよく口にするのは、「できるだけがんになる前と同じ生活ができるようにしましょう」ということだ。
「たとえば、東京の孫に会いに行きたいという患者さんがいたとします。それなら、そのときに副作用が出たりしないように、治療を1週間後にずらそう、ということはよくあります。山登りが好きな患者さんもいます。山に行くとなれば、そのときに悪い状態にならないように治療のスケジュールも組み直します」
人生にとって何が大切かは、患者さん1人ひとり異なるが、それを尊重することが進行再発乳がんの治療に大切なのだという。
「タキソール+アバスチン併用療法を2年半継続できたケースがあります。効果がよく現れた患者さんでしたが、もちろん副作用も出ました。ただ、薬の量を減らしたり、休薬期間を延ばしたりして、長く続けることができたのです」
効果がある場合には、スケジュール通りに治療することにこだわらず、臨機応変に対応する。野球の監督のように、選手(治療薬)の能力を最大限に引き出す医師のもとで、自分に合った進行再発乳がんの治療を受けていくことが肝要だ。
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