ホルモン陽性HER2陰性の進行・再発乳がんに、イブランスに続きベージニオも承認間近
効果は甲乙つけがたいCDK4/6阻害薬の2薬
いずれも甲乙つけがたい効果とのことだが、新たにFDAに承認されたベージニオについて、向井さんは次のように言う。
「Monarch-2もMonarch-3も素晴らしい結果です。*ハザード比を見ても、何と0.5前後。つまり、増悪までの状態を半分に減らしたわけで、非常に大きなことだと思います」
また、現状出そろいつつある2薬のCDK4/6阻害薬は、同系の薬剤だが違いもある。その違いの中に、さらなる可能性が隠れているようだ。
「CDK4/6阻害薬はホルモン伝達経路の下流でがん細胞の増殖をとめる薬なので、ホルモン受容体(HR)が陰性でも効くのではないかという推測が成り立ちますが、実際にはやはりHR陽性、HER2陰性の性格をもったがんにとくによく効きます。
また、ベージニオが単剤でもある程度の効果が認められることは、データ上わかっています。これはイブランスとの大きな違いです。イブランスでは単剤で有効であるとのデータがほとんどありません」
同系の薬なのに違いがあるのは、「作用や阻害の仕方、結合の強さに違いがあるため」と向井さんは言う。ちなみに、これまで世界で開発されたCDK4/6阻害薬はもう1薬ある。リボシクリブだ。これを承認している国もあるが、日本では開発が中止になっている。日本で使われるCDK4/6阻害薬は、将来的にもこの2薬に限定されるだろうとのことだ。
*ハザード比=臨床試験などで危険度を客観的に比較するための方法。例えば、2つの治療法を比べハザード比が1なら治療法に差はない。数値が小さくなるほど、一方が有効とみなされる。ハザード比0.85と言えば、片方がもう一方よりリスクを15%減少させたことを意味する
気になる副作用は好中球減少と下痢
効果が期待できるのはうれしいが、副作用はどうか。非常に重篤な副作用はほとんどないそうだが、注意すべきなのは好中球(こうちゅうきゅう:白血球の1種)減少、患者のストレスにつながるのは下痢とのことだ。
好中球減少はそこそこの頻度で起きるが、ほとんどの場合、発熱に至らない。治験でも熱が出た人はベージニオで1.2%、イブランスで1.8%とあまり差のない結果となっている。しかし、好中球減少のグレードが3と4、つまり比較的重度な患者さんは、ベー��ニオで20%、イブランスで66%と、好中球減少自体の頻度にはかなりの差がある。グレードが3以上になると休薬しなければならないことを考えても、この点ではベージニオに軍配が上がりそうだ。
一方、ベージニオに意外に多いのが下痢。論文上は81%の人に見られる。その半分44%は軽度で、下痢で臨床試験を中止した人は2.3%と決して多くないが、下痢という現象自体、患者さんにはかなりのストレスになる。
下痢が出た場合は止痢薬ロペミンで上手にコントロールしていくことが大事とのことだが、有効な使い方はまだ標準化されていないので、承認後、現場のトラアイルの中で適切な使い方を見出していくことになる。
「人種差もあるようなので、今後も注意深く見ていく必要があると思います。事前にしっかりとした対策が必要だと感じます」(向井さん)
副作用ではないが、イブランスで意外に悩ましいのは、投与スケジュールなのだそうだ。イブランスの基本スケジュールは「3週間服薬、1週間休薬」
もし、好中球減少で1週間休薬ということになったら、いつ、どのタイミングで再開したらいいか非常に悩ましい。この点ベージニオは、がんの増悪または許容できない毒性が見られるまで、1日2回の服薬が続くので、休薬も再開もシンプルと言えそうだ。
使い方の規定が少ないCDK4/6阻害薬。今後の使い方にも期待が
同系の薬剤とはいえ使える薬が増えるのは、それだけでも患者にとって大きな福音だ。さらに向井さんは言う。
「承認に伴い、今臨床の現場ではイブランスが非常に広く使われています。加えてベージニオが承認されたとき、どう使い分けていくかはこれからの課題と言えるでしょう。
例えば術前術後のホルモン療法と併用して使うという研究は、両薬について研究が進められています。また、日本では欧米に比べて、イブランスは使い方の自由度が高い形で承認されていますが、ベージニオも同様の形で承認されると、セカンドラインよりうしろのラインでも併用で使えるかもしれないなど、さまざまな可能性が考えられます。さまざまな臨床試験を行って、どのくらい効くといったデータをとっていくことが大事だと思います」
第2のCDK4/6阻害薬、ベージニオ。1日も早く承認され、大いに活用していただきたい。
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