原発巣切除による生存期間延長効果の比較試験が進行中 試験結果が待たれるステージIV乳がんの原発巣手術の是非
同様の米国での試験結果が今年12月発表予定
同様のランダム化比較試験は、インド、トルコ、そして米国でも実施されている。インドとトルコの試験はすでに結果が出ている。
インドの試験では、全生存期間では両群間で有意な差がなかった。局所無増悪生存期間(PFS)では、手術群で有意な延長効果を認めたが、遠隔転移無増悪生存期間では、手術群のほうが予後の悪化というネガティブな結果だった。
一方、トルコの試験では、事後解析による生存期間中央値が手術群で9カ月の延長を認めるというポジティブな結果だった。これらの詳細については日本乳癌学会の『乳癌診療ガイドライン』の「転移・再発乳癌に対する外科手術」の項目で閲覧できる。
「ただし、インドとトルコの2つの試験では、日本や米国で行われているようなサブタイプ別の標準的な薬物療法がきちんと実施されていないという背景などがあり、正確な結果として評価するのは難しいということになっています」
一方、米国の「ECOG2108」という試験は、約300例という登録数だが、JCOGと同等なランダム化比較試験としてその結果が注目されていて、今年12月に米国のサンアントニオで開催される「サンアントニオ乳癌シンポジウム(SABCS2019)」においてその結果が報告される可能性が高いという。
「日本に先んじて報告されるこのアメリカの試験結果は、少なからず注目を集めると思います。どのような結果になるかが期待されます」
「ECOG2108」、そして「JCOG1017」の結果如何(いかん)では、ステージIV乳がんの治療戦略が大きく変わる可能性もあるということだ。
「試験結果に関わらず、患者さんに対しての治療戦略の説明が、現在よりもさらにクリアになることは確かです。今までは、医師によっては、 『あなたはステージIVだから手術はできません』、という言い方の説明で、誤解を招いていました。正確には、手術ができないのではなく、『手術をしても意味がないから、手術をしないのです』ということを、きちんと根拠に基づいて説明するべきなのです。患者さんは医師の言葉1つで不信感を抱くことになってしまうこともあります。今回前向きなランダム化比較試験での結果を機に、明確に説明ができるようにしていくべきです」
もう2つ注目すべき臨床試験が進んでいる
現在、JCOGの乳がんグループでは、さらに、注目すべき2つの臨床試験にも着手している。岩田さんはこの2つの試験の代表も務めている。
1つは、「JCOG1204」で、「再発高リスク乳がん術後���者の標準的フォローアップとインテンシブフォローアップの比較第3相試験」という、手術後の補助化学療法終了後のフォローアップについての比較試験で、標準的(Standard)なフォローアップと徹底的(Intensive)なフォローアップとの比較だ。
具体的には、標準的なフォローアップ群では、1年に1回のマンモグラフィと問診・視触診を行ない、画像検査は行わない。一方、徹底的なフォローアップ群では、半年に1度、CTやPET、骨シンチグラフィ、頭部MRIなどの画像検査を行う。
「現在、国際的なスタンダードでは、再発を早く見つけたとしても、生命予後は同じであるという根拠により、標準的なフォローアップが行われています。しかし、標準的なフォローアップが本当に妥当なのか、それを検証するのがこの試験の目的です。この試験も結果によっては、ガイドラインが大きく書き変わるかもしれません」
「JCOG1204」は、今年中に登録が終了する予定だ。登録数は約1,000例。登録終了後4年くらいで結果が出そうだと岩田さんは話す。
もう1つの試験は「JCOG1505」という試験だ。これは悪性度の低い非浸潤性乳管がんを対象にした試験だ。比較試験ではないが、対象症例に対して、手術をしないで、ホルモン療法のみで経過を見ることが妥当なのかどうかを検証するものだ。
非浸潤性乳管がんは全体の15%ほど、その中でも悪性度の低い非浸潤がんは、乳がん全体の2%程度であり、なおかつ手術をしたい患者が多いので、現在、登録に苦戦しているという。したがって、結果が出るのは10年後くらいになりそうということだ(画像3)。

「いずれの試験も、乳がん治療の将来にとって意義のあるものだと考えています。これらの臨床試験は、薬剤の臨床試験(治験)ではないので、どこの製薬メーカーからもサポートを得られないですから、国の費用で賄(まかな)われています。しかし、医師が臨床上で意義を認めた治療法についてはきちんと試験で検証していくことはとても大切なことです」と岩田さん。
乳がん治療は、化学療法において、今年9月には、免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-L1抗体である*テセントリク(一般名アテゾリズマブ)が、トリプルネガティブ乳がんの進行再発症例の初回治療において、*アブラキサン(一般名ナブ・パクリタキセル)との併用療法で保険承認される予定だ。
BRCA1、2陽性の乳がんでは、PARP阻害薬の*リムパーザ(一般名オラパリブ)がすでに保険適用になっている。
今後、さらにさまざまな薬剤の選択肢が増えていくことが予想される。そうすれば、ステージIV乳がんの治療においても大きな光明が見えてくることになる。
乳がん治療全般のさらなる進歩は、近い将来、間違いなく乳がんの予後をさらに延ばすこととなり、多くの患者にとって、必ずや福音となることが期待される。
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