良好な利便性を有し、2.7カ月という時を延長した 手術不能・再発乳がん患者さんに新たな希望!日本発の新薬登場
副作用は支持療法でコントロール
「抗がん剤の副作用を抑える支持療法が進歩し、副作用はかなり軽減できるようになりました。抗がん剤治療で何が苦痛かを患者さんに聞いたアンケート調査では、かつては嘔吐や悪心などの症状が上位を占めていましたが、新しい制吐剤(*)の登場により、今では嘔吐などがつらいという人は少なくなっています」
ただ、手指、足などのしびれなどに対しては、現在もよい支持療法がない。とくにしびれが起きやすい抗がん剤では、治療を受けた患者さんの約7割が苦しむ副作用となっている。ところがハラヴェンは末梢神経障害(*)が起こる患者さんは約2割と少ないという。
*制吐剤=吐き気止め薬
*末梢神経障害=手や足にしびれが現れる症状
投薬時間の短さがQOLに影響する

*2 制吐剤を投与する場合もあります
*3 ボーラス=短時間で血管内に注射して薬物を単回投与すること
抗がん剤治療に伴う身体的苦痛はかなり軽減されるようになったが、代わりに患者さんを苦しめているのが、仕事や家庭と、治療との兼ね合いだ。
前述したアンケート調査にも、そうした傾向が現れているという。
「患者さんにとって、病人ではなく、社会人としての生活を維持することが大切です。患者さんは主婦として家事、さらに会社で働いている人もいますので、治療に要する時間は大きな問題で、抗がん剤の点滴時間は大きな負担になってしまうのです」
たとえば抗がん剤を入れる前にアレルギーを防ぐための薬が必要な場合では、その時間も含めた投与時間は、週1回投与の場合で1時間30分、3週毎投与の場合で3時間30分かかるものもある。その点、ハラヴェンの点滴は、わずか2~5分で終了する。仕事や家事への影響が少なく(図4)、QOLを維持するのに好都合なのだという。
「進行・再発乳がんの治療の目的は、質の高いQOLを維持しながら、生存期間を延ばすことです。そうした点から考えても、副作用(図5)をコントロールしやすいことや、利便性の良さは、とても重要なことといえます」

エリブリンの副作用として、好中球減少、味覚異常、脱毛、嘔吐・悪心などはこのように現れる。とくに気をつけたいのは、ほかの乳がんの抗がん剤と同程度に現れる好中球減少の副作用。感染症などを引き起こしやすくなるので、うがい・手洗いなどを励行する
今後の臨床試験に期待がかかっている
ハラヴェンの適応症は「手術不能または再発乳がん」だが、さらに「アンスラサイクリン系およびタキサン系抗がん剤を含む化学療法を施行後、増悪もしくは再発した症例を対象とする」という条件がつけられている。
つまり、標準治療をまず行い、それでもだめだった場合に使う、ということなのだ。
乳がんが発見された時点で手術不能と診断された場合、1次治療と2次治療は、アンスラサイクリン系およびタキサン系抗がん剤を含む化学療法が行われる。それでも増悪する場合に、ハラヴェンが使われるのである。
難しいのは、術前や術後の治療で再発予防の目的(補助療法)でアンスラサイクリン系とタキサン系抗がん剤を使い、その治療中、あるいは終了後(おおむね1年以内)に再発した症例。このような患者さんにも再発乳がん治療として、またアンスラサイクリン系やタキサン系抗がん剤から始めるのだろうか。
「術前や術後にアンスラサイクリン系とタキサン系の抗がん剤をきちんと使っているのであれば、これらの薬剤に耐性(*)である可能性が非常に高く、再発後の治療はハラヴェンから始めてもいいのではと個人的には考えています。もちろん、まだしっかりしたエビデンスはありません。ただ、アンスラサイクリン系やタキサン系を使って1~2年で再発したようなケースでは、がん細胞を別の角度から攻める可能性が高い別の抗がん剤を使う意義は十分にあるはずです。こうした薬の使い方に関して、今後、新たなエビデンスを見つけ出すことが期待されています」
今後の臨床試験で、現在の標準治療と比較し、ハラヴェンが劣っていないことや、より優れていることが証明されれば、3次治療より前の早い段階での使用が可能になるだろう。さらに、再発予防としての術前や術後の治療(補助化学療法)でも、ハラヴェンの真の実力が証明されることに期待したい。
*耐性=がん細胞が抗がん剤に抵抗性を示すこと
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