ホルモン剤、抗がん剤、分子標的薬の正しい使い方。新薬も登場 治癒も見えてきた!?再発乳がんの最新薬物療法
HER2陽性はハーセプチンをベースに
ラパチニブの併用効果](無増悪生存期間)

HER2陽性の場合は、ハーセプチンがキードラッグとなる。
「再発治療ではハーセプチンをベースにして抗がん剤などの薬剤を併用するのが普通です。効果がみられなくなったら、併用する抗がん剤(パートナードラック)を変えていきます」
ハーセプチンのパートナーとなる抗がん剤には、タキソール(*)などタキサン系の抗がん剤や、ナベルビン(*)、ジェムザール(*)などがある。
「すでに使用した抗がん剤は避けることが多いです。HER2陽性乳がんにはアンスラサイクリン系やタキサン系の抗がん剤がよく効くため、初発時に使っていることが多く、その場合は再度使うこともありますが、ナベルビン、ジェムザールを選択することが多いです」
ハーセプチンベースの治療が効かなくなった場合には?
「ハーセプチンを使っているにもかかわらず病状が進行したとき、次の戦略をどうするか。これは"ビヨンド・ハーセプチン"といって、専門医たちが頭を悩ますところです。新しい分子標的薬のタイケルブ(*)とゼローダの併用療法などで一時的に凌ぎ、再びハーセプチンに戻るという考え方もあります。まだ保険で認められていないハーセプチンとタイケルブの併用療法や、ペルツズマブ(*)やT-DM1(*)(後述)といった臨床試験中の薬剤が早く使えることが望まれます」(図3)
*タキソール=一般名パクリタキセル
*ナベルビン=一般名ビノレルビン
*ジェムザール=一般名ゲムシタビン
*タイケルブ=一般名ラパチニブ
*ペルツズマブ=一般名
*T-DM1=一般名
化学療法にも新薬登場!

[図5 進行・再発乳がんに対するベバシズマブの効果](無増悪生存期間)
ホルモン受容体もHER2も陰性の場合や、肺や肝臓などの臓器に転移がある場合などでは、化学療法を行う。
「個々の病状によって異なりますが、ホルモン療法が効きづらくなってきた場合、おおよその流れとしては、まず5-FU系の経口抗がん剤を順次使い、点滴の抗がん剤に移るまでの橋渡しにすることが多いですね。経口の抗がん剤は、1回処方すれば1カ月間は通院する負担が減り、日常生活を保つことができますから」
候補となるのは、ゼローダ(*)単独、TS-1(*)、ゼローダと経口のエンドキサン(*)の併用などがある。
一方、ホルモン受容体が陰性の場合、点滴の抗がん剤が第1選択薬となる。
「タキサン系やアンスラサイクリン系の抗がん剤をすでに使っている場合は、ジェムザールやナベルビン、あるいは昨年承認された新薬のハラヴェン(*)などが選択肢になります。再発時の化学療法では、抗がん剤を単独で使っていくのが基本的な考え方ですが、併用することもあります」
ハラヴェンは日本で開発された抗がん剤。アンスラサイクリン系、タキサン系の抗がん剤を使用した進行・再発乳がん患者さんを対象とした試験で、全生存期間の中央値を2.7カ月延長した(図4)。
「新しい薬なので、実際の効果などの詳しいことは分かっていませんが、武器が増えたのは有り難いことですね」
この他、期待できる新薬として、河野さんは血管新生阻害剤のアバスチン(*)をあげる。
「昨年乳がんに対しても、アバスチンがタキソールと併用で使えるようになりました」
海外の試験で、化学療法未経験の進行・再発乳がんを対象に、従来の第1選択薬であったタキソール単独と、タキソールとアバスチンを併用した群を比較した結果、アバスチン併用群のほうが無増悪生存期間を5.5カ月延長させた(図5)。ところが、米国では、FDA(米国食品医薬品局)が、「無増悪生存期間は延長するが、全生存期間の延長は認められない」として、乳がんへのアバスチン適用を取り下げたという。
河野さんはアバスチンについて、「とくに炎症性乳がんや、胸水のあるがん性胸膜炎などで症状を抑える傾向があり、私どもの臨床現場では手応えを感じています」としている。
*ゼローダ=一般名カペシタビン
*TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム
*エンドキサン=一般名シクロホスファミド
*ハラヴェン=一般名エリブリン
*アバスチン=一般名ベバシズマブ
新たな薬剤に期待高まる

今後期待できる薬剤としては、分子標的薬のアフィニトールやT-DM1と呼ばれる薬剤があげられる。
「ホルモン療法が効かなくなった進行・再発乳がんを対象に、アロマターゼ阻害剤単独群と、アフィニトール(*)併用群とを比較した結果、アフィニトール併用群のほうが無増悪生存期間を延長し、さらに骨転移も減らしたことがわかりました。非常に有力な薬剤と評価が高く、1年以内には使えるようになることが期待されています」(図6)
一方、T-DM1は、ハーセプチンに抗がん剤を合体させた新しいタイプの分子標的薬で、HER2陽性の再発乳がんの治療戦略を塗り替える可能性があるといわれている。
「抗がん剤とともに、標的とするがん細胞だけに届くので、正常細胞への影響が少なく効果が大きいとされています。このほか、同じHER2陽性乳がんの治療薬としてはペルツズマブや、骨転移に効果が期待されているカボザンチニブ(*)など、新しい治療薬も今後使えるようになる予定です。再発治療はこれからさらに進化するでしょう」
*アフィニトール=一般名エベロリムス
*カボザンチニブ=一般名
同じカテゴリーの最新記事
- 新薬の登場で選択肢が増える 乳がんの再発・転移の最新治療
- SONIA試験の結果でもCDK4/6阻害薬はやはり1次治療から ホルモン陽性HER2陰性の進行・再発乳がん
- 乳がんサバイバーの再発恐怖を軽減 スマホアプリの臨床試験で世界初の効果実証
- 術後のホルモン療法は10年ではなく7年 閉経後ホルモン受容体陽性乳がん試験結果
- より推奨の治療法が明確化した「ガイドライン」 HR陽性、HER2陰性の進行・再発乳がんの最新治療
- 原発巣切除による生存期間延長効果の比較試験が進行中 試験結果が待たれるステージIV乳がんの原発巣手術の是非
- 血管新生阻害薬アバスチンの位置づけと広がる可能性 アバスチンと免疫チェックポイント阻害薬の併用が未来を拓く
- ホルモン陽性HER2陰性の進行・再発乳がんに、イブランスに続きベージニオも承認間近
- 長期戦の覚悟と対策を持って生き抜くために ホルモン陽性HER2陰性の乳がんは、なぜ10年経っても再発するのか