個別化治療にさらなる1歩。がんの特徴に合わせた治療で高い効果が 進行・転移性乳がんでポスト標準治療の成果~サンアントニオ乳がんシンポジウム2011レポート

取材・文:中西美荷 医学ライター
発行:2012年3月
更新:2013年4月

がんを経験した患者支援者からのメッセージ
最新の薬剤を使えなくても劣った治療ではない

ミューザ・メイヤーさん

ミューザ・メイヤーさん
患者支援者であり、自身も20年以上の乳がん生存者。FDAの抗腫瘍薬諮問委員会の委員を務めた経験もあるなど、医薬品開発にも詳しい。「Advanced Breast Cancer: A Guide to Living with Metastatic Disease(進行乳がん:転移性乳がんとともに生きるための手引き)」の著者


新たな治療法が日本で利用できるまでに、長い時間を要する場合がある。いわゆるドラッグ・ラグである。最新の薬剤に手が届かないとき、「私が受けているのは、最良の治療ではないのでは?」と思ってしまうこともある。でも、「あまり、くよくよしないで」と、患者支援者であり、自身もがんを経験しているミューザ・メイヤーさんは言う。

適した治療が後にわかる場合も

誰しも、新しい治療法のほうがいいと考え、新薬開発に大きな期待を寄せています。とくに、重大な疾患を持つ患者さんにとって、期待は大きいものです。しかし本当に必要なのは、新しいというだけでなく、証明された治療、これまでの治療よりも明らかに効果がある治療です。また人はしばしば、より多くの薬剤を使えば、より延命されると考えがちですが、そうでないことも明らかになっています。

新薬は一般に、病気が悪化するまでの時間を延長させますが、生存期間を延長できないものがあるのも事実です。そして承認されたばかりの薬剤には、限られたデータしかありません。とくに欧米の患者さんのみを対象に試験が行われた場合、アジアの患者さんにおける効果や副作用は明らかではありません。

開発当初よりもむしろ、臨床試験終了後、何年も経過してから、最適な使い方が明らかになることもあります。たとえば今回、大きな効果が報告されたペルツズマブですが、実は初期の臨床試験では、期待したほどの効果が示されませんでした。しかしとうとう���ハーセプチンとの併用という、効果を最大にする治療法が見つかりました。まだ中間報告ですが、安全面でも大きな問題はなく、近い将来、承認されるでしょう。ただし、このように大きな利益が得られる新薬はそれほど多くはないのです。そして、分子標的治療薬はとくに、異なる患者さんに対して異なる働き方をする。効果が高いのは、その薬の標的となる特徴を持っている患者さんだということです。

決して「劣った治療」ではない

新聞で、ニュースで、新たな薬剤が開発されたことを知り、それをまだ利用できないとしても、くよくよしすぎないで! あなたに届くころにはきっと、より多くのデータが集まって、さらに適切な使い方ができるようになっているでしょう。進行乳がんに対して、現在も、いくつもの効果が証明された治療選択肢があります。そしてそれらは決して「劣った治療」ではありません。もちろん、あなたの地域であなたの病期を対象とした臨床試験が行われていれば、それに参加するのも、新薬を利用する賢い選択の1 つです。

大切なことは、あなた自身が正しい知識を持つのと同時に、常に担当医や医療担当者と話し合うことです。何が自分にとって最適な治療なのか、あなたの医療チームとともに見つけて、闘っていってください。


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