注意したい「顎骨壊死」。歯の治療は先に終わらせておこう 骨転移が起こっても、上手に乗り切るコツ

監修:村岡 篤 香川労災病院第3外科部長
取材:「がんサポート」編集部
発行:2012年3月
更新:2013年4月

注意したい「顎骨壊死」

[あごの骨が壊死した場合の症状]

  • 歯肉の痛み、腫れ、感染
  • 歯のぐらつき
  • 抜歯後の治りが遅い
  • あごのしびれやだるさ

ゾメタによる治療を受けるときには、副作用に対する注意も必要だ。まず、ゾメタは点滴で投与する薬だが、初回投与後に38℃程度の発熱が出ることがある。2回目以降はほとんどないが、初回は出ることがあるので、あわてないようにしたい。

腎障害に対する注意も必要だ。ゾメタには腎毒性があるので、まれに腎障害が起こることがある。そのため、もともと腎臓が悪い人は腎機能のレベルに応じて薬の量を減らすことが必要になる。

もう1つ、顎骨壊死という副作用も知っておく必要がある。まれにしか起こらず、乳がん患者での発生頻度は1~2%だという。

「顎の骨に、炎症や壊死が起こる副作用です。どうして起こるのか、はっきりとはわかっていません。ただ、もともと顎の骨は血流が少ないので、ゾメタによってさらに骨の代謝が低下し、血流が不足して壊死が起こるのではないか、と考えられています」

いったん顎骨壊死が起こると、ゾメタを使い続けることはできない。また、顎骨壊死が悪化してしまうと治療は困難で、患者さんを苦しめることになる。大切なのは、顎骨壊死を起こさないようにすることである。

歯の治療は赤信号

[患者さんに実践してほしい口腔ケア]

毎食後と就寝前にやわらかい歯ブラシで歯と舌のブラッシングを行います。歯ブラシには力を入れずに磨きましょう
1日1度はデンタルフロスを使用し、ていねいに歯垢を取り除きましょう(歯肉からの出血や痛みがある場合には、患部を避けなければなりませんが���ほかの歯にはデンタルフロスを使用してください)
水で頻繁に口をすすぎ、口の中を常に湿った状態に保ちます(多くの医薬品は「口腔乾燥(口の渇き)」をもたらすため、虫歯やその他の歯科疾患を引き起こす可能性があります)
アルコール配合のマウスウオッシュ(洗口液)は刺激が強いためなるべく使用を避けてください

顎骨壊死がどのような人に起こりやすいかが、次第にわかってきた。リスクファクターとして挙げられるのは、ゾメタによる治療を受けているときに、インプラント、入れ歯、抜歯などの侵襲的な歯科治療を受けることだ。顎骨壊死を起こした人の約9割が、こうしたリスクファクターを持っている人だという。

「ゾメタの治療を受けているときには、抜歯などの治療を受けないように、十分注意すべきです。最近は歯科医もそのことをよく知っていると思います。歯の治療が必要な人は、ゾメタの治療を開始する前に、歯科治療を終えておくようにしたいですね」

ゾメタによる治療中に、どうしても歯科治療を受ける必要が生じた場合には、いったんゾメタを中止する。2カ月間空ければ心配ないといわれているが、歯科医とよく相談した上で、歯の治療を受けるようにしたい。

さらに、口の中を清潔に保つ口腔ケアも、顎骨壊死の予防につながる。抗がん剤治療を受けていると、口内炎などで歯磨きするのがつらいが、うがい薬を上手に利用するといいだろう。

「異常に早く気づくことも大切です。ゾメタによる治療を受けていて、歯や顎に痛みを感じたり、歯や歯肉に関連する症状が現れたりした場合には、すぐに主治医と歯科医に伝えて下さい。早期に気づいて対処すれば、大事に至らずに済みます」

顎骨壊死はまれにしか起こらないが、決して甘く考えてはいけない。

骨転移との共存を目指す

骨転移治療の目標は、骨に住みついたがん細胞を、完全に取り除いたり、死滅させたりすることではない。残念ながら、現在の治療ではそれはできないからだ。

そこで、骨に住みついたがん細胞とうまく共存していくことが、治療の目標となってくる。がんをやっつけることは難しいので、いろいろな治療法を組み合わせることで、QOLを低下させないようにしていくのである。

「骨転移があればゾメタを使いますが、放射線治療を加える人もいるし、鎮痛薬を使う人もいます。オプションはいろいろあるので、たとえ1つの方法がうまくいかなくても、あきらめずに治療を続けてください」

骨転移と上手に共存していくことが、よい状態を長く保つ秘訣につながっているようだ。


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