機器も進化。いびつな形のがんにも照射可能に ガンマナイフによる脳転移治療の今 日々の暮らしを実現する強力な武器

監修:林 基弘 東京女子医科大学脳神経外科講師
取材:常陰純一
発行:2012年3月
更新:2013年4月

いびつな形状の腫瘍にも対応

1度に16カ所の腫瘍を治療できる医療機器「パーフェクション」

1度に16カ所の腫瘍を治療できる医療機器「パーフェクション」

もっとも、さいたまガンマナイフセンターで行われているガンマナイフ治療は、こうした従来のメリットをはるかに超越しているという。

「私の治療では、日本では当時まだ7台しか導入されていない最新鋭のパーフェクションという治療装置を用いています。この治療装置の最大の特長は、コリメータヘルメットと呼ばれる、頭にセットし、放射線を収束させる機器が取り払われ、放射線の絞り機能が治療機本体のセクターと呼ばれる部分に移動したこと。そのことでより細かな照射が可能になり、いびつな形状の腫瘍も治療可能になったのです。また、それまでは照射ポイントを変更するたびに患者さんに体の位置を変えてもらわなければならなかったのが、1度の照射で何カ所もの治療ができる利点もあります」

林さんはこの最新鋭治療装置の登場で、これまでは脳に限られていたガンマナイフの用途が、脳に限らず頭蓋外頭部全体のがんに広がる可能性もあると期待する。

照射前に治療の大半が終了

照射室の隣のスタッフルーム
治療中も、医師がモニターを通して常に石見さんの様子を見ていた

治療中も、医師がモニターを通して常に石見さんの様子を見ていた

 
治療直後の様子

治療直後の様子。昔は6時間かかった照射時間が、2時間に短縮された
治療後、頭部に固定されていたフレームを取り外す 治療後、頭部に固定されていたフレームを取り外す。林さんは「無事終わったよ、明日からまた頑張ろうね」と石見さんに話しかけた

���ンマナイフによる治療は大きく①フレーム装着、②MRI、CTによる術前画像診断、③画像情報を基にした治療計画の作成、④照射治療の4つのステップに区分される。

つまり患者がガンマナイフセンターの照射室に運ばれてきたときには、治療の大半が終了していることになる。照射時間は1~2時間前後。その間、患者はただ横になっていればいい。

実際、照射室の隣のスタッフルームに設置されたモニターに映し出される石見さんの表情も、眠っているかのように穏やかだ。林さんによると、今回の石見さんの治療は、最新鋭の治療機器だからこそ実施できたという。

「今回の治療で問題だったのは、脳幹部に4個のがんがあったこと。なかでも錐体路という運動神経に近い部分にあったがんは形がいびつで照射計画の作成が難しかった。従来なら、QOL()に不安が残る全脳照射しか考えられません。どんな形状の腫瘍にも対応できるパーフェクションだから治療が実現したといってもいいでしょう。また、今回1度で16カ所の脳病変を一挙に治療できました。今後、全脳照射にとって代わる治療といっても過言ではないですね」

午後4時30分──。当初の予定通りに照射が終了した。治療を終えた石見さんは、「とてもさわやかな気分です。今まで肩こりで悩んでいたのが、すっと解消しました。また明日から日々の生活を楽しみます」という。

もちろんこれからも石見さんには、がんとの闘いが待ち受ける。しかし、石見さんの表情は希望に満ちている。

「まずは肝臓をはじめとする全身のがんを抑えなくては。その間に脳転移が現れれば、またガンマナイフで叩けばいい。今仕事で高齢の妊娠の危険性について周知を図っているのですが、それを多くの女性に伝えたい。がんだからと悩んでいる暇はありません」

ガンマナイフという強力な武器を携えた石見さんの見事ながんとの闘いぶりに、拍手を送りたい──。

QOL=生活の質


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