フェソロデックスの登場で閉経後進行再発乳がんのホルモン療法が変わる QOLの高い状態を長く保つ新しい乳がんのホルモン療法

監修:岩田広治 愛知県がんセンター中央病院乳腺科部部長
取材・文:柄川昭彦
発行:2012年3月
更新:2013年4月

耐性ができにくいのがフェソロデックスの特徴

[図6 がん細胞と薬剤耐性]

図6 がん細胞と薬剤耐性

複雑な迷路を作るようにがん細胞増殖の筋道を薬の効果でさえぎっても、いつか出口を見つけ出すようにがん細胞も増殖を開始する

進行再発乳がんの治療は、延命が重要なので、1つの薬剤にできるだけ長く効いていてもらいたい。その障害となるのが耐性である。がんの治療薬では、耐性が必ず起こると考えていい。

フェソロデックスでも耐性はできるが、できるまでの期間が長いことが明らかになっている。なぜ耐性ができにくいのか、明確なことはわかっていないが、エストロゲン受容体を壊し、受容体の数を減らしてしまうことが関係しているらしい。

「乳がんの薬は、たとえがんの進行を抑えることができても、それがいつまでも続かず、いずれ増殖が始まります。がんの薬は、がんの行く手を遮る迷路のようなものだと考えると、わかりやすいでしょう。がんは増殖しようという意志を持ち続け、いずれ迷路を通り抜けます。薬があっても増殖できる方法を身につけてしまうのです。これが耐性で、迷路を抜けたがんは、再び進行を始めます(図6)」

迷路を抜けて進行を始めるまでの期間、つまり耐性ができるまでの期間は、薬によってさまざまだ。フェソロデックスは、それが長いのである。

「ホルモン受容体陽性乳がんの治療は、続けられる限りホルモン療法を続けるのが原則。ところが、いずれ使うべきホルモン療法剤がなくなってしまいます。こういった例がとても多いので、治療薬の種類が増えたのは朗報ですし、耐性ができにくく、1つの薬を長く使えるというのは、大きな意味があります」

4週毎に筋肉注射で投与痛みを減らす工夫がある

[図7 フルベストラントの投与スケジュール]

図7 フルベストラントの��与スケジュール

通常、成人には初回、2週間、4週間後、その後4週間ごとに1回、左右の臀部に250㎎各1本ずつ合計フルベストラントとして500㎎を筋肉注射する

フェソロデックスの投与スケジュールは、前に紹介した臨床試験と同じである。1回の投与量は500㎎。初回投与し、その2週後と4週後に投与。その後は4週毎の投与となる(図7)。

投与方法は筋肉注射である。点滴に比べ、薬が体内に止まる時間が長くなるという。1本の注射が250㎎なので、1回に2本、左右の臀部に注射されることになる。

「筋肉注射なので痛いのですが、痛みを軽くする方法があります。この薬は冷所保存することになっていて、冷えたままだと注射液がドロッとした状態で、注射してもなかなか入らず、痛みも強い。ホットパックなどで軽く温めてから注射するように看護師さんには指導しています」

こうすることで注射液がスムーズに入り、痛みも軽くなるという。

最も問題となるのは注射した部位の痛み

[表1 フルベストラントの副作用]

※主な副作用としては、注射時の痛み程度と考えてさしつかえないが、体調に問題が起きた時には速やかに主治医に相談すること
 主な副作用 
注射部位反応:硬結(注射した箇所が硬くなること)、疼痛(とうつう)、出血、血腫、膿瘍(膿がたまること)など
血管障害:ほてりなど
 
 その他の副作用 
筋肉痛、筋力低下、発疹(ほっしん)、掻痒症(そうようしょう)、じんましん、無力症、高トリグリセリド血症(トリグリセリドと呼ばれる中性脂肪の血中濃度が異常に高いタイプの高脂血症)、高コレステロール血症、卵巣腫大、貧血、白内障、耳不快感など
 まれに起こる重大な副作用 
肝機能障害:血栓塞栓症
 

フェソロデックスによる治療で現れる主な副作用をまとめてみた(表1)。

薬なのでもちろん副作用はあるが、重篤な副作用はあっても頻度が低く、患者さんを苦しめるような副作用はあまりない。

「吐き気などの消化器症状はあまり起きないし、抗がん剤のような脱毛ももちろん起きません。アロマターゼ阻害剤のような関節の痛みもなく、長く続けていても、患者さんの生活に支障をきたすようなことはなさそうです。治験で使用した経験からも、副作用が軽い薬だという印象を受けました」

患者さんからの訴えで最も多かったのは、注射した部位の痛みだという。注射したばかりのときに硬い椅子に座ったりすると、痛むことがあるというのだ。

分子標的薬との併用も期待されている

現在、フェソロデックスは、アロマターゼ阻害剤による1次治療の後の2次治療薬として期待され、成果を上げ始めている。それはそれで貴重なのだが、今後はさらに進んだ使われ方をする可能性を秘めている。

「2次治療でこれだけ効くのだから、進行再発乳がんの1次治療で使ったらどうだろう、と考えるのは自然ですね。そこで、1次治療において、アロマターゼ阻害剤と比較する臨床試験が計画されています。その結果によっては、1次治療で使われるようになるかもしれません」(図8)

[図8 アナストロゾールとフルベストラントの無増悪生存率の比較] 図8 アナストロゾールとフルベストラントの無増悪生存率の比較

Robertson,J.SABCS2010 abs.S1-3(020-317175(抄録)

もう1つは、分子標的薬との併用療法だ。

実は、mTOR阻害剤というタイプの分子標的薬と、アロマターゼ阻害剤のアロマシンを併用する臨床試験が行われ、この併用療法はアロマシン単独より無増悪生存期間を延ばすことが明らかになっている。

そこで、アフィニトール()などのエムトール阻害剤とフェソロデックスを併用したら、と考えられているわけだ。

「2次治療として行われた比較試験ですが、アロマシン単独の無増悪生存期間中央値は1カ月余りでした。フェソロデックスは6.5カ月ですから、フェソロデックスと併用すればもっといいのでは、と考えられているわけです」

エムトール阻害剤+フェソロデックス併用療法とフェソロデックス単独療法の比較試験は、すでに始まっている。すばらしい結果がもたらされることを期待したい。

アフィニトール=エベロリムス


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