副作用が軽く長時間使用できる抗がん剤に期待 転移・再発乳がんの化学療法に新たな選択肢

監修:鈴木育宏 東海大学医学部付属病院乳腺内分泌外科講師
取材・文:柄川昭彦
発行:2010年3月
更新:2013年4月

新しい選択肢としてジェムザールに期待

転移・再発乳がんの新しい治療薬として期待されているのがジェムザール(一般名ゲムシタビン)である。

すでに非小細胞肺がん、膵がん、胆道がん、尿路上皮がんの治療薬として使われてきた抗がん剤で、欧米では乳がんの治療にも使用されてきた。

国内で乳がんに対する臨床試験が行われ、良好な結果が出ている。対象となったのは、アンスラサイクリン系抗がん剤やタキサン系抗がん剤による治療経験がある転移・再発乳がんの患者さん。ジェムザール単独投与の有効性を証明した試験と、ジェムザールとタキソールの併用療法の有効性を証明した試験が行われている。

[ジェムザール単剤投与(1250ミリグラム)の有効性(生存期間)]
図:ジェムザール単剤投与(1250ミリグラム)の有効性(生存期間)

こうした臨床試験の結果を踏まえ、08年に転移・再発乳がんへの適応拡大の申請がなされ、現在は承認待ちの段階だ。

「ジェムザールという選択肢が増えることは、転移・再発乳がんの治療を進めて行く上で、大きな意味があります。私は、この抗がん剤の特徴はバランスのよさにあると思います。効果も十分ですし、脱毛、むくみなど、患者さんを苦しめる副作用が比較的軽いので、長く続けていくのに無理がありません。効果が高くても、強い副作用があれば続けられませんし、副作用がなくても、効果が期待できなければ意味がありません。ジェムザールはちょうどバランスのいい抗がん剤だと思います」

鈴木さんは臨床試験でジェムザールを転移・再発乳がんの患者さんに使ってきたが、副作用の点では大いに喜ばれたという。

「患者さんが女性ということもありますが、副作用として脱毛が起きるかどうかは大きな問題です。手術後の再発予防であれば、抗がん剤治療の期間は6カ月と限られているので、まだ我慢できます。ところが、転移・再発乳がんの場合、治療はずっと続くことになるので、脱毛が与える心理的なダメージはとても大きいのです。私が担当した患者さんでは、脱毛はまったく起こりませんでした」

患者さんによっては脱毛が起こることもあるようだが、他の多くの抗がん剤に比べ、ジェムザールは副作用としての脱毛が起こりにくい。また、吐き気が起こりにくいのも特筆すべき特徴で、この点でも患者さんたちの評価は高い。

臨床試験で使い始め3年以上が経過

臨床試験が行われたことは前述したが、そこでジェムザールの治療を開始し、長期にわたって病状が抑えられた症例がある。鈴木さんが担当した2人の患者さんは、どちらもジェムザール単独投与で良好な結果が得られている。


症例1

[症例1(患者さんの生の声)]

  • 先生には申し訳ないけど、脱毛がなくていいわ
  • 吐き気がなくて食事もおいしい
  • 仕事をしながら続けられる
  • 今までの抗がん剤って何だったんだろう
  • 投与して2~3日は、なんとなくだるい
  • 少しずつ、点滴が入りづらくなった→ポート挿入で対処
  • 治験参加中だったので毎週の通院が大変だった

40歳代のAさんは、両側の乳がんで手術を受けた。術後、片方の胸の皮膚に再発。まず、タキソールによる治療が行われた。効果はあったものの、副作用としてむくみとしびれが現れ、そのために治療を続けるのが困難になりつつあった。もちろん、脱毛も起きていた。

そんなとき、ちょうどジェムザールの臨床試験が始まっていたため、これに参加することにし、ジェムザール単剤の治療に変更した。

がんは十分に抑え込まれたままで、副作用は軽減。吐き気もなく、抜けていた頭髪も回復した。日常生活に支障をきたすような副作用はなく、すでに3年以上ジェムザールによる治療を継続している。

「この3年の間に、新しい薬がいろいろ登場してきました。臨床試験なので、毎回採血しなければならないのですが、ジェムザールが承認されれば、それも必要なくなります」

[症例1 病変の推移(左乳房)]

2005/11/17
(投与前)
2005/11/17(投与前)
2008/04/23
(36サイクル後)
2008/04/23(36サイクル後)
2009/05/20
(50サイクル後)
2009/05/20(50サイクル後)


効果判定:長期安定

最新の治療を受ける機会は臨床試験への参加


症例2

[症例1(患者さんの生の声)]

  • 脱毛がなくて助かっている
  • 吐き気がしなくてとてもいい
  • むくみがなくていいわ
  • 少しずつ、点滴が入りづらくなった→ポート挿入で対処
  • 意識消失発作が出たので治験を中断
    • 先生、メーカーさんには迷惑かけないから、続けて欲しい
    • どんなデータを取ってもいいから続けて欲しい
    • お金は払うから続けて欲しい
    • 病院長に投書(治験薬を早期承認して欲しい)

50歳代のBさんは、乳がんの手術を受けた後、肺と骨に転移が見つかった。再発後はタキソールによる治療を続けていたが、副作用によるしびれがひどかった。

よく効いてはいたのだが、しびれのために日常生活に支障をきたすようになっていたのだ。

そこで、臨床試験に参加し、ジェムザールによる治療を開始。転移巣は消えなかったが、少しずつ小さくなっていったため、治療を続けていた。やはり脱毛はなく、患者さんもこの治療を喜んでいた。

2年ほど経過した夏の暑い日に、Bさんは外出中に倒れるというトラブルを起こしてしまった。原因は水分の摂取不足と考えられたが、薬との因果関係を完全には否定できないため、残念なことに、臨床試験はそこで中断となってしまった。

「この患者さんは、トラブルさえなければ、もっと長くジェムザールの治療を続けられたでしょう。その後、ゼローダに変更し、それも効いているのでほっとしています」

[症例2 病変の推移(右肺中葉)]

2006/01/18
(投与前)
2006/01/18(投与前)
2007/10/10
(25サイクル後)
2007/10/10(25サイクル後)
2008/08/04
(35サイクル後)
2008/08/04(35サイクル後)


効果判定:部分寛解

以上の2つは、ジェムザールがとくによく効いた症例である。臨床試験に参加することで、まだ認可されていない最新の治療を受けることができた。

「患者さんに臨床試験のお話をすると、実験台にはなりたくないとか、認可されていない薬を使うのは怖い、といった反応が返ってくることがよくあります。しかし、臨床試験に参加するのは、最良の治療に出合うためのいい方法でもあるのです。いたずらに恐れず、チャンスがあったら積極的に参加するといいでしょう」

前述したAさんとBさんは、臨床試験でジェムザールと出合うことで、良好な治療結果を得ることができた。これは、当人にとって幸運だったことはもちろん、ジェムザールの承認を推進することで、将来の乳がんの患者さんにも恩恵をもたらすことになる。

治療の選択肢を増やす意味でも、臨床試験への参加を考えてみるといいだろう。


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