乳がん長期生存の秘密 長期生存を可能にする治療法とサポート法を探る
乳がんに支配されない生き方を

国際医療福祉大学付属
三田病院乳腺センターの
岡崎みさとさん
再発乳がんの治療は、今でもなかなか困難だが、希望の持てる治療法も垣間見られるようになった。もっとも、長期生存を果たしている再発乳がん患者さんには、こうした治療とは別に、病気との向き合い方や付き合い方などを含めて、共通した傾向が見られるという。
「再発後10年以上生存している方も、少なからず実在します。それらの患者さんには、いくつかの傾向が見られます。1つは再発までの期間が5、6年以上とゆったりとしたペースで病気が進行していること。第2は再発後の治療が早期に奏効していること。そしてもう1つは、おおらかに病気に向かい合っている、ということです」
こう指摘するのは、国際医療福祉大学付属三田病院乳腺センター医師の岡崎みさとさんだ。
初発の場合と違って、乳がんが再発した場合は予後が厳しいケースが多いのは事実だ。そのために日々の暮らしに強い不安やストレスがつきまとうことも少なくない。それがQOL(生活の質)の低下につながる危険もあると岡fさんはいう。
「再発患者さんの中には病気を意識するあまり、生活を自己規制する傾向もうかがえます。体にさわるからと外出を控え、それまで続けていた趣味やスポーツもやめてしまうなど、身体のみならず生活までもががんに縛られてしまう人も少なくはないのです。そうして生活そのものが病気に支配された状態で、たとえ長生きできたとしても『人生を謳歌した』といえるでしょうか」
そうした危険を回避するためにも、岡fさんは、再発患者さんには「ほどほどにおおらかな生活」を提案しているという。
「もちろん『適度』というのがポイントですが、月に1度や2度はお酒を飲むなどしてハメを外してもかまわない。積極的に外に出て、人と会って話すことが症状を抑えるうえでも役立ちます。病気に振り回されるのでなく、人生を主体的に生きてこそ、主治医を信頼し、前向きに治療に向き合えるのではないでしょうか」
家族とともに生活を楽しむ

くにとみ内科外科クリニック院長の
國富道人さん
これまでに約350人の再発乳がん患者さんの治療を手がけてきた、くにとみ内科外科クリニック院長の國富道人さんも異口同音に「生活を楽しむこと」の大切さを強調する。
「患者さんの中には、病気のことばかり考えて、いたずらに不安を募らせる人もいます。そうして心のバランスが乱れると、体にも反応が現われて、QОLが低下します。それが結果的に、体の抵抗力の低下、症状進行につながっていくことも決して少なくはないのです」
また再発患者に限らないが、がん患者の中には、インターネットなどで病気そのものや治療についての情報収集にエネルギーを費やす傾向も多く見られる。
「インターネットなどの情報には患者さんにとって、嬉しい内容ばかりであるとは限りません。当たり前のことですが、がん患者さんの内面には漠然とした不安が潜んでいます。不安を抱えた状態で、生存率などのデータを見てしまうと、落ち込みが激しくなることもあります。人生を満足できるようにするために、必要以上にがんの勉強に時間やエネルギーを費やすより、自分が本来やりたいことに向かうことをお勧めしています」
もちろん自らが患っている病気やその治療に無知であっていいというわけではない。しかし、病気や治療についてはだいたいのことを知る程度にして、それよりも日々の生活を楽しむことに重点を置くべきだというのが國富さんのアドバイスだ。
「がん患者さんはそれぞれ、それまでの人生でスポーツや音楽、ゲームなど、いくつもの楽しみの引き出しをご自身で持っています。元気に活動する人はよく眠っています。睡眠が十分にとれれば、体を守る抵抗力もつきます。再発後であっても、自分がやりたいことを積極的に行い、また家族とともに楽しむことも大切です」
条件しだいでは、局所治療も選択肢
吉本賢隆 国際医療福祉大学付属三田病院乳腺センター長

国際医療福祉大学付属
三田病院乳腺センター長の
吉本賢隆さん
一般的に再発乳がんは全身病であると考えられており、そのために抗がん剤をはじめとする薬物療法が標準的な治療として行われています。しかし、私は再発が限られた場所にあるなど、一定の条件を満たしている場合には、薬物療法に加えて外科手術による局所治療も治療の選択肢に加えています。
私は、20年間にわたって、がんの専門病院である癌研病院(現癌研有明病院)で多くの再発乳がん患者さんの治療を担当してきました。
そのときに、肺に転移があり、手術が適用できると判断した患者さん90人に対して、外科手術を実施していますが、対象になった患者さんの10年生存率は40パーセント、治癒した人は26パーセントにも達しています。症状の程度の違いなどがありますので、一概にはいえませんが、これは同じ肺転移に対する抗がん剤治療の奏効率を上回る数値です。
残念ながら、一般には再発乳がんに対する外科的な局所治療には否定的な見方が多く、エビデンス(科学的根拠)を確立するに足るデータが積み上げられていないのも事実ですが、再発乳がんと闘っている患者さんには希望を捨てないで頑張ってほしいと考えています。
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