4つのS「睡眠、水分、食事、しゃべること」を軸に、心のセルフケアを 乳がんの再発告知をどう乗り越えるか

監修:佐伯俊成 広島大学病院総合診療科准教授
取材・文:常蔭純一
発行:2008年10月
更新:2013年4月

自責傾向が強い人ほどうつ状態に陥りやすい

もっともこうした情報伝達がうまくいっても、深いうつ状態のなかに自らを追い込んでしまう患者さんもいるという。「これまでの経験から、そうした患者さんには自責傾向の強い人が多い」と佐伯さんはいう。

「一般に乳がんが初発した場合には、手術などの治療のあと、再発予防のために、抗がん剤やホルモン剤による治療が行われます。再発告知を受けると、ほとんどの患者さんはショックとともに、そうしたこれまでの治療は何だったのかと怒りや憤りを覚えます。しかし、なかにはそうしたネガティブな感情を自分に向けてしまう人もいる。そのような人は、『どうしてあの治療法を選んでしまったのか』『治療中の自分の行動に落ち度があったのではないか』などと自らを責めてしまう。そうしてどんどん自分で自分を“うつ”に追い込んでいくのです」(佐伯さん)

とすれば、そうした患者さんには告知後、心理面のサポートが望まれる。しかし、そのようなサポートは、「なかなか実現されにくい」と佐伯さんはいう。そうした危機を内包している患者さんを見極めるということ自体が難しいからだそうだ。

佐伯さん自身は再発告知やその後のカウンセリングの場で、そうした傾向を持つ人に相対すると、じっくりと時間をかけて話し合い、患者さん自身の行動に問題がなかったことについての理解を促すようにしているという。

しかし、そうした患者さんの心理や傾向を見抜くには、緻密なカウンセリング体制や、カウンセリングの場での高度な質問力が必要だという。

とすると再発告知にともなって生じる憂うつ状態からスムーズに脱出を果たすには、患者さん自らの取り組みが重要な意味を持つことになる。

[不安・落ち込みの症状]
不安・落ち込みの症状

出典:『がんと心』(国立がん研究センター刊)より改変

何よ���大切なのは十分よく眠ること

まず、大切なことは、患者さん自身が自らの心の状態を把握することだ。

再発告知のあとには、ほとんどの患者さんが精神的に落ち込む。そこに「心の危機」に陥る前兆ともいうべきサインが隠れていないかどうか、見極めることが大切である。そのサインは、「身体的な不調として表れることが少なくない」と佐伯さんはいう。

「心身一如という言葉もあるように、心と体は深く結びついています。心が不調に陥っているときは、体にも必ず何らかの変化が現れます。その変化を察知することで、心に危機が訪れていることが判断できるのです。具体的な体の症状としては不眠、食欲の低下、味覚の異常など。また、行動面では日常生活で当たり前にやっていたことができなくなることも危機のサインと捉えたほうがいいでしょうね」(佐伯さん)

たとえば食べ物の甘い辛いがわからなくなった、料理がつくれない、子供の世話ができなくなった、話していると涙があふれ出て話し続けられない――など、こうした行動面での問題が出てきた場合には、心にも危機が訪れていると考えるべきだという。

4つのSに注目し、対処していく

では、そうした場合、自らに対して、どのように対処すればいいのだろうか。そこで佐伯さんは、「4つのS」に注目するようにアドバイスする。

「4つのSとは具体的には睡眠、水分、食事、しゃべることを指しています。そのなかでももっとも重要なのが睡眠です。人間は本来、睡眠によって、心身のストレスを解消し、スッキリとした気持ちで現実に向き合う、という能力が備わっています。当然ながら、これは脳の働きによるものです。眠らないでいると、脳がストレス情報を処理できず、ひたすらうっ憤が蓄積していきます。医師のなかには「1日、2日眠らないでも大丈夫!」と平気で患者さんに言う人もいますが、とんでもありません。1晩でも眠れない日があれば要注意、3晩眠れなければ心身両面での危機と見るべきでしょう。そうした場合には、薬剤を使ってでも睡眠をとることを心がけていただきたいと思います」(佐伯さん)

さらに一般的には、うつ状態になると、食欲が極端に低下して食事はおろか、水を飲もうとも思わなくなるという。そうした場合は食事はともかくとして、最低限の水分は補給しなければ体が持たないという。

「別に水でなくてもかまいません。お茶でもコーヒーでもいいから、1日最低1~2リットルは水分を補給しなければなりません」(佐伯さん)


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