再発しても落胆する必要はない、再発乳がん治療 最近のトピックスは、TS-1、ゼローダなど、経口剤服用の効果
閉経の前か後かで治療が異なることに注意

フェマーラ(一般名レトロゾール)
アロマシン(一般名エキセメスタン)
アリミデックス(一般名アナストロゾール)
ホルモン療法は、閉経前か閉経後かによって異なる。閉経前であれば、LH-RHアゴニスト製剤のリュープリン(一般名酢酸リュープロレリン)あるいはゾラデックス(一般名酢酸ゴセレリン)とタモキシフェン(一般名ノルバデックス)の併用療法を行う。LH-RHアゴニスト製剤は、脳下垂体に作用してLH-RHというホルモンの働きを抑えて卵巣への指令をストップし、卵巣からのエストロゲン分泌を抑える薬であり、タモキシフェンはエストロゲン受容体を塞いでエストロゲンが乳がん細胞に作用するのを妨ぐ薬だ。
閉経後は、従来はタモキシフェンが第1選択治療薬だった。しかし、最近、アロマターゼ阻害剤のアリミデックス(一般名アナストロゾール)、アロマシン(一般名エキセメスタン)、フェマーラ(一般名レトロゾール)のほうがよりがんをコントロールできるとの報告が相次ぐようになり、第1選択治療薬として用いられるようになっている。
このうちレトロゾールは外国では早くから使われていたが、日本では使用が認められず、ようやく今年6月に認可された薬。
閉経前の女性では、エストロゲンは主に卵巣で作られるため、それを抑えるLH-RHアゴニスト製剤が有効。閉経後は、卵巣機能が衰え、代わりに副腎で作られる男性ホルモンであるアンドロゲンが、脂肪などにあるアロマターゼという酵素によってエストロゲンに変換され、これががん細胞内のエストロゲン受容体と結合してがん細胞が���殖する。そこで、アロマターゼの働きを阻害してエストロゲンに変換できないようにするのがアロマターゼ阻害剤だ。
副作用としては、閉経前の治療に用いる薬では、ほてり、発汗などがある。また、人工的に更年期障害を引き起こす形になるので、人によっては気持ちが沈んだり、オリモノが増えたりするが、ひどくなることはまれだという。
タモキシフェンの副作用としては、オリモノのほか、子宮体がんになる可能性が高くなる(もともと女性のうち800人に1人くらいが子宮体がんになるが、それが800人に2~3人に増える)とのデータがある。ただし、なったとしてもほとんどが早期がんのため、子宮体がんによる死亡率が増えることはないといわれている。
アロマターゼ阻害剤は、子宮体がん発症のリスクはほとんどないが、関節痛や筋肉痛、それに、長期に飲み続けていると骨がもろくなるという副作用があげられている。
副作用の軽い経口抗がん剤が注目!
ホルモン感受性がない人や、ホルモン療法が効かなくなった人に対しては、抗がん剤による治療が行われる。
化学療法で最初に使う薬剤として標準治療とされているのは、アントラサイクリン系薬剤とタキサン系薬剤のいずれかを投与する方法だ。いずれも乳がんに対してもっとも効果があるといわれている薬である。
「それらが効かなくなれば、ほかにも何種類かの抗がん剤がありますが、経口抗がん剤ではTS-1(一般名テガフールギメラシルオテラシルカリウム)とゼローダ(一般名カペシタビン)、点滴ではナベルビン(一般名ビノレルビン)があります。いずれも比較的新しい薬で、ここ5年ほどの間に出てきたものです。日本ではカンプト(またはトポテシン、一般名イリノテカン)も認可されています」
これら抗がん剤は単独で使うことが多いが、ほかの薬剤と併用することもある。ただ、このような抗がん剤の使い方は慣習的に行われていることであって、再発・転移した患者に対しては併用して使ったほうがいいとか、単独のほうがいい、というデータは少なく、専門家の間でも意見が分かれている、と向井さんは指摘する。
「最初にアントラサイクリン系薬剤ないしはタキサン系薬剤を使い、それでダメなら他の薬剤を使うという使用順序も、現在、世界的に行われているやり方ではありますが、本当にそれでいいかどうかは、実はまだわかっていません。むしろ、最初に使う薬剤は、点滴ではなく、経口剤を先にしてもいいのではないか、という意見が多くの医師から出されています。というのも、経口剤のほうが髪の毛が抜けたりせず、ほかの副作用のマネジメントも比較的容易だからです」
この点を調べようと、向井さんが研究の代表者になって全国約80の病院が参加する臨床試験が始まったところだ。結果が出れば、標準とされている現在の治療の流れが変わる可能性がある。ホルモン剤に続く抗がん剤治療で、経口剤という副作用の強くない薬から始まれば、患者にとって福音となるに違いない。
注目を集めるハーセプチンに次ぐ分子標的薬

再発・転移のある乳がん患者に用いられる薬として、ホルモン剤でも抗がん剤でもない新しい分子標的治療薬、ハーセプチン(一般名トラスツズマブ)の存在も朗報といえるだろう。
乳がん患者の20~25パーセントの人では、がん細胞の表面に「HER2」というタンパク質が過剰に認められる(HER2陽性)。HER2陽性の乳がんは、進行が早く、転移しやすく、ホルモン剤が効きにくいことがわかっている。このようなタチの悪い乳がんに対して効果を示すのがハーセプチンだ。ハーセプチンは抗体の一種で、HER2タンパクの働きをブロックしてがん細胞の増殖を抑える働きをする。
がん細胞を調べてHER2陽性であれば、ハーセプチン治療(単剤または抗がん剤との併用)を行うという選択肢が検討されることになる。副作用が軽いので、生活の質を重視した再発・転移の乳がんの治療にふさわしい薬といえる。
他にも、欧米では使えるが日本ではまだ認められておらず、現在、治験中というものでは、ジェムザール(一般名ゲムシタビン)という抗がん剤がある。日本では膵臓がんや胆道がん、肺がんでの使用が認められていて、乳がんにも効果があるのではないかといわれている。

最近のトピックスがラパチニブ。もしかしたらハーセプチンを超えるのではないかと期待されている分子標的治療薬だ。
この薬はHER1とHER2からの増殖信号をブロックする薬剤だが、ハーセプチンの効かない患者にもよく効くことがわかっていて、HER2が過剰発現している人にはとくに有効という。この薬についての研究報告は今年のASCO(米国臨床腫瘍学会)でも大きな注目を集めた。
最後に、向井さんはこう語っている。
「他にも有効な薬としてアバスチン(一般名ベバシヅマブ)という血管新生阻害剤があり、外国ではよいデータが出ています。日本ではまだ治験も行われていない段階ですが、今後、期待が持てる薬剤です。いずれにしろ、さまざまな薬剤が出てきて、これまでだったらもう使う薬はないという状況だったのが、いろんな選択肢が提示できるようになってきました。医学はこのように日進月歩ですので、今の治療で少しでも時間が稼げれば、また新たな効果のある薬が出てくるでしょう。再発がんになったとしても決して落胆することなく、前向きな気持ちで治療を受けてほしいと思います」
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