渡辺亨チームが医療サポートする:乳がん骨転移編
新世代ホルモン剤とビスフォスフォネート剤で乳がん骨転移との長期共存生活へ
渡辺 亨さんのお話
*1 乳がん骨転移の治療

乳がんが再発・転移したとき、残念ながら、完治させることは非常に困難です。そこで、できるだけがんをコントロールして日常生活を長く送るようにしたり、がんがもたらす症状やその治療によって苦しむことがないようにQOL(生活の質)を改善したりといったことが第1の目標となります。
骨転移の治療は、全身薬物療法として、抗がん剤治療やホルモン療法、アレディアなどのビスフォスフォネート製剤による治療を行います。抗がん剤やホルモン療法は乳がんのがん細胞そのものを殺したり、成長を抑える役割があります。
一方、ビスフォスフォネート製剤は直接がん細胞を殺す薬ではありませんが、転移によってできた骨を溶かす「破骨細胞」を抑える働きがあります。これによって、骨を硬化させ骨転移に伴う骨痛や病的骨折などの骨に関連したトラブルを抑えるだけでなく、骨転移の進行も抑える作用もあります。
また骨転移の局所に対して痛みを和らげ、圧迫骨折を予防するために放射線照射を行います。背骨、大腿骨、骨盤など体重のかかる部分では、金属プレートで固定するような整形外科的な手術が行われることもあります。
*2 初期治療の病理組織から得られる情報

転移性乳がんの治療のためには、初期治療の手術時に採取した病理組織から得られる情報が重要な意味を持ちます。病理組織ではホルモン受容体やHER2が陽性かどうかや、がん組織の悪性度などを知ることができます。
ホルモン受容体が陽性である場合、ホルモン剤による治療が有効である可能性が高くなります。ホルモン受容体は初発時と再発時で変化することがあるので、本来は、乳がんが転移している肺・骨・肝臓などの病巣から組織をとってホルモン受容体の有無を知ることがベストです。ところが、こうした臓器から組織を取るために手術をすると負担が大きくなってしまうので、ほとんどの場合、初期治療のとき採取した細胞のホルモン受容体の有無から判断します。
HER2というたんぱく質が、がん細胞で強い陽性を示す場合、 ハーセ��チン(一般名トラスツズマブ) という治療薬の効果が期待できます。乳がんの患者さんの20~30パーセントにこのようなHER2が強く現われているとされています。
エストロゲンの産生を抑制するアロマターゼ阻害剤の効果
渡辺 亨さんのお話
*3 初期治療の情報
乳がんでは初期治療で手術をしたあと、再発予防のために抗がん剤療法またはホルモン療法が行われますが、このとき何の薬を使ったかということも再発・転移乳がんの治療のためには重要な情報です。これらの治療を終了してすぐ(例えば1年以内)に転移・再発したことが分かれば、それらの薬が「効かなかった」と判断され、違う薬を選択することになるからです。一方、1年以上たってから再発したのであれば、その薬は「再投与しても効果の可能性あり」と判断され、もう1度使うことができます。
*4 アロマシン
アロマシンは1999年末、タモキシフェンに反応しなくなった閉経後女性の進行乳がんの治療薬として米国で承認されました。日本においては、2002年7月に閉経後乳がん治療薬として承認されています。
ホルモン受容体が陽性の乳がんは、女性ホルモンのエストロゲンの影響を受けて大きくなる性質があります。アロマシンはエストロゲンができるのを阻止して、がんの勢いを止める働きがあり、アロマターゼ阻害剤という種類に分類されます。
閉経前は卵巣よりエストロゲンが分泌されますが、卵巣機能がなくなった閉経後女性は副腎由来のアンドロゲン(男性ホルモン)がアロマターゼという酵素によりエストロゲンに変換されエストロゲンを産生します。このアロマターゼを阻害して局所でのエストロゲンの産生を抑制するのがアロマターゼ阻害剤です。現在、日本で使用可能なものは、アロマシンのほか、アリミデックス(一般名アナストロゾール)があり、いずれも経口薬です。これらは術後補助療法で用いた場合、タモキシフェンより再発予防効果が高いことがわかっています。
*5 アロマシンの副作用
アロマシンの主な副作用は、ほてり、多汗、悪心などで、それほど深刻なものはありません。
*6 乳がん骨転移に対するビスフォスフォネート製剤の効果
ビスフォスフォネート製剤は骨表面に吸着し、がんによって活性化された破骨細胞の働きを邪魔して、自殺(アポトーシス)を誘導することで、破骨細胞による骨吸収を抑制すると考えられています。
X線で溶骨性骨転移のある症例に、アレディア90ミリグラムを3~4週間ごとに点滴すると、病的骨折、骨折に対する手術・放射線治療の機会、高カルシウム血症、脊椎圧迫骨折などが半分くらい減ることがわかっています。

*7 初期の治療から再発までの期間
初発の治療から再発までの期間が長いほど、進行がゆっくりで予後がよいと考えられ、進行の速さをはかる目安となります。1998年に、国立がん研究センターより転移性乳がんの予後を3グループに分ける、興味深いデータを報告しています。これはプログノスチック・インデックスという5つの因子(補助抗がん剤治療歴があるか、遠隔リンパ節転移の存在、肝臓転移、血清LDHの上昇、無病生存期間)でスコア化したものです。また、2003年にも米国のデータとして無病生存期間が長期である場合は、再発してからの予後も良好であるという報告がされています。
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