渡辺亨チームが医療サポートする:再発乳がん編
がんをコントロールすれば十分に長生きできる
渡辺 亨さんのお話
*1 ハーセプチンとタキソールの併用
2001年にアメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校ジョンソン総合がんセンターが、HER2陽性の転移性乳がんの患者を対象とするハーセプチンの臨床試験の結果を「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」誌に発表しました。これによると、従来の抗がん剤単独では奏効率16パーセントに対し、ハーセプチンと抗がん剤を併用すると40パーセントと、より効果が高くなることがわかっています。また、別のグループが行った試験ではハーセプチン単独の奏効率は25~26パーセントとされました。
生存期間についても、ハーセプチンと抗がん剤の併用は、抗がん剤単独より、中央値が20.3カ月から25.4カ月とほぼ5カ月延長しています。生存期間の延長はハーセプチン単独の場合も変わっていません。ですから生存期間だけを考えれば、ハーセプチン単独でもいいということになるでしょう。
そこで、副作用は大きいかもしれないけれどQOLの改善もより期待できる抗がん剤との併用と、ハーセプチン単独は、本当にどちらがいいかということを調べる臨床試験が現在も進められています。


*2 ハーセプチンの副作用
ハーセプチンには一般的な抗がん剤治療でしばしばみられる脱毛をはじめ、吐き気や嘔吐、白血球減少もほとんどありません。主な副作用は、初回の点滴で4割程度の患者さんに悪寒と発熱が認められることです。このような副作用も最初に使用したときのみ認められることが多く、2回目以降の投与ではほとんど熱は認められません。場合によっては、初回にこうした症状が出たからといって、あわてて治療を止めてしまうケースがあるようですが、続けなければいけません。
しかし、ハーセプチンの最も重い副作用として心不全があります。ハーセプチン単独で5パーセント、タキソールと併用したとき12パーセントの発生率ですが、命に関わるほど重篤な事態はごくまれです。
単独療法 (n=352例) | パクリタキセル との併用療法 (n=91例) | ||
---|---|---|---|
一般的全身 | 疼痛 無力症 発熱 悪寒 頭痛 腹痛 ���部痛 感染症 | 47 42 36 32 26 22 22 20 | 61 62 49 41 36 34 34 47 |
消化管系 | 眠気 下痢 嘔吐 食欲不振 | 33 25 23 14 | 51 45 37 24 |
血液・リンパ系 | 白血球減少症 | 3 | 24 |
神経系 | 不眠症 浮動性めまい | 14 13 | 25 22 |
呼吸器系 | 咳嗽増加 呼吸困難 | 26 22 | 41 27 |
皮膚系 | 発疹 | 18 | 38 |
*3 超音波検査とCT

超音波検査機器は非常に多様化し、多くの診察室に備えられていて簡単に使えるようになりました。検査室では、さらに高性能で記録ができる機械も備えられていることが多いようです。肝臓の検査には、患者さんの負担も少ないし、有効な道具となっています。ただし、欠点はプローブの当て方によって腫瘍の大きさを正しくとらえられないことがあるという点です。画像の再現性を得るためには、使い手の熟練を要します。その点肝臓のCTは客観性があるので、同じ条件で2カ月、3カ月と経過を見ていくといった利用法では、CTが必要とされます。
*4 肝転移への治療
結腸がんや胃がんなどが肝臓に転移した場合、どちらも腹腔内で隣り合った臓器なので、まだ全身に転移していない可能性があるため、肝臓に転移したがんを切除する場合があります。しかし、乳がんの肝転移に関しては、これを切除することはまったく意味がありません。すでにがんはタンポポの種のように、全身に舞い降りたものの1つがたまたま肝臓に漂着しているにすぎないのです。一方、肝臓がんの治療法として、肝臓に直接抗がん剤を注入する「動注」という方法がありますが、これも乳がん原発で肝臓に転移したがんに行っても意味がありません。かえって、感染症のもとになる危険性もあり、お勧めできません。転移したがんへの治療は、あくまでも抗がん剤による全身治療が大前提です。
*5 タキソールの毎週投与
転移性乳がんへのタキソールの点滴は、日本の標準治療では3週間ごとに175~210ミリグラム/立方メートル投与することになっていますが、量を減らして80~100ミリグラム/立方メートルを1週間ごとに投与(3週続けて1週休み)するほうが奏効率(がんが半分以下に縮小し、4週間以上継続)が倍近くアップすることが報告されています。タキソールの副作用として脱毛はほとんど必発ですが、このほか骨髄抑制、末梢神経障害、麻痺、心筋梗塞、心不全、脳卒中、肺水腫、間接性肺炎、肝性脳症、膵炎、腎不全、発疹、発赤、低血圧、不整脈、悪心、嘔吐、下痢、食欲不振、肝障害、腎障害、脱毛、皮膚疾患、めまい、不眠、味覚障害、味覚異常、無力症、腹痛、頭痛、筋肉痛、関節痛、発熱、出血などがあります。これらの副作用も、毎週投与なら3週ごと投与より低く抑えることができます。また、1回の点滴時間も3週間ごと投与では3時間かかりますが、1週間ごと投与では1時間で終るので、点滴のために動けないという苦痛も緩和できます。
*6 ガンマナイフ
手術できない例や3センチ以下の脳腫瘍に対して、ガンマ波と呼ばれる放射線を照射する治療法です。転位性の脳腫瘍は終末期と考えられますが、その中でガンマナイフでたたくことによって生存期間を延長できるばかりでなく、QOLの改善も期待できる症例もあります。
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