術後のホルモン療法は10年ではなく7年 閉経後ホルモン受容体陽性乳がん試験結果
再発リスクによっては引き続き投薬が必要なことも
骨折や骨粗しょう症のリスクを高める薬を長期に飲まなくていいのは、患者さんにとって朗報で、この試験結果は安心感につながるのではないかと中村さんは語る。その一方、「ホルモン受容体陽性乳がんで再発リスクの高い人は、エストロゲンの影響をできるだけ長く抑制したほうがいいことも間違いないのです。アロマターゼ阻害薬は続けて飲むのは7年で十分となりましたが、その先どうするかについては、まだ疑問としてあります。アロマターゼ阻害薬は7年でいいが、その後のやり方はまた違った考え方が出てくるのではないかと思います」
昭和大学病院ではアロマターゼ阻害薬を7年服用した人の骨塩量(骨密度)を調べ、骨粗しょう症だったり、それに近い状態の患者さんには、エビスタ(一般名ラロキシフェン)を処方することが多いという。
「この薬は日本では骨粗しょう症薬として認められていますが、ノルバデックスと同系統の薬であり、抗エストロゲン作用があるので、乳がんの再発防止効果も期待できます。米国では実際に乳がん発症の予防薬としてノルバデックスと共に承認されていますが、日本では予防薬として認められないので、保険診療上はあくまで骨粗しょう症への対応という形で使っています」
さらにいうと、どのホルモン療法薬をどう使うかも含め、個々の患者さんの再発リスクに応じた治療選択がそもそも重要と中村さんは語る。
「早期のホルモン受容体陽性乳がんで、再発リスクの低い患者さんは、アロマターゼ阻害薬は7年ではなく5年でいい。また、最初から骨関連事象がある患者さんは無理してアロマターゼ阻害薬を服用するより、ノルバデックスで充分だと思う。アロマターゼ阻害薬を選択するにしても、少し休薬期間をおいて使うという方法もあります。なかには、再発リスクの高い人にはアロマターゼ阻害薬7年服用のあと、ノルバデックスを続ける医師もいます。しかし、そのエビデンス(科学的根拠)はまだないので、私は実臨床では骨塩量を調べ、エビスタを使うか判断しています。ここは個々の患者さんの副作用の出方を見て、主治医がきちんと判断すべきだと思います」
治療の最初から骨塩量をチェックすることが重要
本来、骨塩量はいちばん折れやすいところで調べることが重要とされ、両脚の大腿骨頚部や背骨で調べるのだという。しかし、昭和大学病院ではマンモグラフィを撮る部屋に、前腕で骨塩量が計れる骨密度測定装置を置き、測定できるようにしているとのこと。これ��より、簡便に骨塩量が測定できる。そして、骨粗しょう症が強く疑われる場合には、上記3カ所のレントゲンを撮るという二段構えになっているそうだ。
そのようにして、治療の最初から骨関係事象に備える必要があると中村さんは語る。
「最近、乳がんは高齢者に非常に増えています。その意味でも、治療の最初から骨塩量をきちんと調べ、そのうえでアロマターゼ阻害薬を選択する必要がありますし、治療の途中途中に骨塩量を定期的に調べることが大切です。骨に関して70歳以上はとくに注意が必要です。ただ、若いからだいじょうぶということは決してないので、きちんと骨密度を調べてから治療をスタートすることが大事です」
今、がん治療は激しく変わりつつあり、乳がんも例外ではなく、それに対応した変化が起きているという。
「今、免疫チェックポイント阻害薬やPARP阻害薬など、遺伝子変異に対応したがん治療が、乳がんの分野でもすごい勢いで増えています。その変化には現役の医師もなかなかついていけないほどです。実際、この新しい治療を軸にした新しい医療教育もまもなく始まろうとしています」
今回は「閉経後のホルモン受容体陽性乳がん患者さんにおける術後ホルモン療法に最適な年数」がテーマだったが、こうした個々のテーマにおける治療の知見が積み重なり、1人ひとりの患者さんに最適な治療が選択される可能性は、今後ますます高まってくる。
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