1次治療後の新たな治療法が登場! ホルモン受容体陽性・HER2陰性の転移・再発乳がん治療
発疹、高血糖、下痢などが主な有害事象
トルカプとホルモン療法薬の併用療法は、ホルモン療法薬単独療法に比べ、治療成績は優れていましたが、有害事象も多く現れていました。
すべての有害事象で比較すると、トルカプ+フェソロデックス群の有害事象出現率が96.6%(355例中343例)なのに対し、プラセボ+フェソロデックス群は82.3%(350例中288例)でした。
また、グレード3以上の有害事象を比較すると、トルカプ+フェソロデックス群が42.8%(355例中152例)なのに対し、プラセボ+フェソロデックス群は15.7%(350例中55例)でした。
トルカプ+フェソロデックス群で発現した主な有害事象をあげると、問題となるのが、発疹、下痢、高血糖などです。
「下痢がかなり高頻度で見られる有害事象なのですが、乳がんの治療薬の中にも下痢を起こす薬剤は多いので、対処法が確立されていて、あまり問題にはならないかもしれません。それに比べ、発疹はなかなか大変です。現れるのは2割ほどの患者さんですが、全身に出るので、女性の患者さんにとってはつらい症状です。当院では、発疹が出たときのために、前もってステロイドホルモンの外用剤を処方するようにしています。高血糖は一定期間の休薬などで回復することもありますが、回復しなければ、糖尿病の治療薬を内服したり、インスリン注射で対処したりすることになります」
トルカプは経口剤です。1日2回服用で、4日間連続投与・3日間休薬をくり返していきます。
「飲み薬なのは、患者さんにとっては便利です。注射薬だと定期的な通院が必要になりますが、飲み薬ならその必要がありません。ただ、コンプライアンスの問題はあって、処方された薬を本当に服用したかどうか、医療者側にはわかりません。たとえば体調がよくなくて気持ちが悪いようなとき、服用したくないな、ということはあると思います」
期待される効果を得るためには、決められた通りに服用する必要があります。
3つの遺伝子変異を調べる検査に問題が
トルカプは、PIK3CA、AKT1、PTENという3つの遺伝子変異のうち、少なくとも1つ以上がある場合に適応となります。そのため、トルカプを使うためには、この3つの遺伝子変異の有無を調べるコンパニオン診断が必要になります。前述した臨床試験では、これら遺伝子変異の有無��調べるのに、がん遺伝子パネル検査の「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル(以下FoundationOne)」を使用していました。そのため、現在承認されているコンパニオン診断は、FoundationOneだけになっています。それにより、さまざまな問題が生じているのが現状です。
その1つが、この検査を受けられる病院が限られるという問題です。現在、FoundationOneによる診断が可能なのは、がんゲノム医療中核拠点病院、がんゲノム医療拠点病院、がんゲノム医療連携病院に限られます。それ以外の病院では、自施設での検査オーダーができないため、前記の病院への紹介が必要となってしまうのです(図5)。

「そもそもFoundationOneは、3つの遺伝子変異だけでなく、多くの遺伝子をいっぺんに調べることができます。そのために高価なので、トルカプのコンパニオン診断のためには、3つの遺伝子変異だけ調べる安価な検査が必要とされているわけです」
そのような検査を開発中とのことですが、いつ出来上がるかについては、まったくわかっていません。
「コンパニオン診断のための検査が開発されることも期待されていますが、FoundationOneのようながん遺伝子パネル検査は、現在の保険適応は標準治療終了後となっています。それを、1次治療の段階から保険で使えるようになってほしいという期待もあります。世界的にはそれが普通で、そのようにしてほしいと各学会から要望が出ています。それが実現すれば、トルカプのための別のコンパニオン診断は必要なくなります」
トルカプは転移・再発乳がんのかなりの割合の患者さんが対象となる薬剤ですが、使用するための遺伝子検査に問題が残されていて、それを解決しないと使いづらい状態が続いてしまいます。トルカプに期待する多くの患者さんのために、検査の問題をすっきりさせてほしいものです。
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