再発乳がんの最新治療:QOLを維持しながら治療を継続、ハラヴェンの新規データが発表に 再発しても、長く暮らせる時代に再発乳がん最新薬物療法
世界規模乳がん学会で新たな報告も

そして、今回のサンアントニオ乳がんシンポジウムでは、新たな臨床試験の結果が報告された。
新たな臨床試験の対象となったのは、アンスラサイクリン系およびタキサン系抗がん薬による治療歴をもつ、進行再発乳がんの患者さんである。さらに、これまでに受けた化学療法が3種類以内で、進行再発の治療としては2種類以内、という条件が付けられた。
この臨床試験に参加した患者さんの多くは、術前・術後治療でアンスラサイクリン系とタキサン系抗がん薬を使用し、再発後の1次治療か2次治療として臨床試験に入った人たちだった。
この臨床試験では、ハラヴェンによる治療を受けた「ハラヴェン群」と、従来からある抗がん薬のゼローダ*による治療を受けた「ゼローダ群」での比較が行われている。
「アンスラサイクリン系とタキサン系抗がん薬を使用された後の進行再発乳がんに対して、日本では、ゼローダ、TS-1*、ナベルビン*、ジェムザール*など、いろいろな選択肢があります。ところが、欧米では、通常はゼローダが使われています。つまり、欧米における従来の標準治療との比較が行われたわけです」
結果は次の通りだった(図3)。全生存期間中央値の比較では、ハラヴェン群が15.9カ月、ゼローダ群が14.5カ月だった。統計学的な差はないものの、ハラヴェン群のほうが、生存期間が長くなる傾向を示していたという結果だった。
この臨床試験の結果を、乳がんのタイプによって分類し、それぞれ集計してみると、興味深いことがわかってきた。
HER2陰性の患者さんに限ると、全生存期間中央値は、ハラヴェン群が15.9カ月、ゼローダ群が13.5カ月で、ハラヴェンを使った群の生存期間のほうが長くなっていた。また、トリプルネガティブの患者さんだけを解析すると、全生存期間中央値は、ハラヴェン群が14.4カ月、ゼローダ群が9.4カ月だった。つまり、トリプルネガティブの患者さんは、ハラヴェンによる治療を行ったほうが生存期間が長くなる、という結果が出ていたのである。
「3次治療以降の治療では、生存期間に差が出るだけでもめずらしいのに、このような結果が出ている点は興味深いですね。とくにこれまで有効な治療法がなかったトリプルネガティブタイプに対して、新たな選択肢として期待できる結果となっています」
*ゼローダ=一般名カペシタビン *TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム
*ナベルビン=一般名ビノレルビン *ジェムザール=一般名ゲムシタビン
QOLを保ちやすい治療

エリブリンの副作用として好中球減少、味覚障害、脱毛、悪心・嘔吐などはこのように現れる。とくに気をつけたいのは、他の乳がんの抗がん薬と同程度に現れる好中球減少の副作用。感染症などを引き起こしやすくなるので、うがい、手洗いなどを励行する
ハラヴェンの副作用で比較的起こりやすいのは、好中球減少(白血球減少)、脱毛、倦怠感などである(図4)。
「好中球減少などの骨髄抑制*には注意しなければなりませんが、その他の副作用が比較的軽いので、患者さんの治療意欲も低下しませんし、体力もあまり落ちません」
骨髄抑制に関しては、感染症などのリスクがあるので注意を要する。患者さんの状態に合わせて適切に薬を減量し、骨髄抑制が起こらないように管理することが大切だという。
「患者さんは、アンスラサイクリン系抗がん薬による強い吐き気や、タキサン系抗がん薬によるしびれなどの深刻な副作用を経験しています。そのため、ハラヴェンによる治療は『副作用が比較的軽い』という印象を持つようです」

さらに、治療時間が短いのもこの薬の特徴だ。点滴時間はほんの数分間で、1回の治療に要する時間は30分余り。利便性のよさも、QOL(生活の質)の低下を防ぐ重要な要素になっている(図5)。
*骨髄抑制=抗がん薬、放射線などにより、一定期間、骨髄の造血能が障害される状態
期待される臨床試験も進んでいる
サンアントニオ乳がんシンポジウムでは、ホルモン陽性の再発乳がん患者さんに、エストロゲン受容体阻害剤フェソロデックス*を高濃度で投与することでより効果が高まることが示された。さらに、がん細胞の細胞増殖を遅らせるCDK阻害剤と、ホルモン療法で用いられるアロマターゼ阻害剤を組み合わせることで、がんの進行が遅れることが報告され、注目された。前述のハラヴェンについても、HER2陰性の患者さんや、HER2陽性の患者さんを対象にした1次治療での臨床試験が報告された。
乳がんの治療は、これからも臨床試験によって、いろいろなことが明らかになっていきそうだ。
*フェソロデックス=一般名フルベストラント
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