術前化学療法で3~5割の患者さんのがんが消えている! 新たな選択肢も!最新トリプルネガティブ治療
期待が集まる!今後の新規薬剤
近年注目を集めているものに、PARP阻害剤というDNA傷害の修復にかかわる酵素の働きをブロックする分子標的薬がある。
イニパリブというPARP阻害剤の臨床試験では、ジェムザールとパラプラチン(*)併用群と、これにイニパリブを加えた群とが比較された。再発した患者さんへ投与された第2相試験で生存期間が延び、有望視されたが、その後行われた第3相試験では有効性が示されなかった。
この結果について杉江さんは「PARP阻害剤が有効なのはトリプルネガティブでも、ある特定のタイプに限られているから」と解説する。
「PARP阻害剤は、BRCA1遺伝子変異によって相同組み換えの機能を欠いたがん細胞に効果を発揮するとされているので、そのタイプかどうかを見分けて投与できるようになれば、効果が証明される可能性があると考えられます」
PARP阻害剤の研究は進められており、イニパリブ以外にオラパリブという薬があり、期待が寄せられている。
*パラプラチン=一般名カルボプラチン
若年患者さんに効く!シスプラチンの効果

化学療法でがんが完全に消えた状態に導くことが治療成功の鍵となるトリプルネガティブでは、効果が見込まれる薬が1つでも多いほうがいい。トリプルネガティブの治療選択肢に加わる可能性が高いものの1つに、白金製剤(シスプラチン(*)、パラプラチンなど)がある。
日本では、白金製剤の適応症に乳がんが含まれていないため、京都大学病院では臨床研究としてシスプラチン+タキソテールを導入している。
シスプラチンとタキソテールの併用にFEC療法を追加した術前化学療法を実施したところ、病理学的完全奏効を含め腫瘍縮小効果が高いことがわかった(図7)。
杉江さん自身も著効例を経験し、「とくに50歳未満の患者さんに有効例が見られる傾向があるようです」と話す。
「シスプラチンを含めたレジメンの奏効率は全体で22%程度ですが、年齢別でみると、50歳台で40%、30~40歳台で50%くらいまで達します」
現在は支持療法が充実し、副作用の強いシスプラチンの治療が行いやすくなったなか、前述のような興味深い傾向を検証しようと、現在、50歳未満の患者さんにFEC療法にタキソテールとシスプラチンの併用療法を上乗せする臨床試験も検討されている。
*シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ
トリプルネガティブにも個別化治療への道
トリプルネガティブに有効な治療が確立されてない理由の1つが、病型の多彩さだと杉江さんは指摘する。PARP阻害剤やシスプラチンでも、その治療が有効だろうと思われる患者さんを見つけていくことが今後の課題だという。
「タイプによってそれぞれに有効な治療法があると考えられ、それを探る試みが次々と行われています。将来的には、どのタイプにどの薬が効くのかが明らかになり、また、患者さんのがんのタイプが詳細にわかるようになれば、患者さん1人ひとりに最も効果的な治療法が提供されることになるでしょう。決してあきらめることはありません」
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