アンスラサイクリン系とタキサン系抗がん剤を上手く使った術前・術後治療がカギ 治療に希望が。トリプルネガティブ乳がん最新情報
術前治療で予後を予測
術前化学療法 | 術後化学療法 | |
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術前でも術後でも効果に差はないが、術前治療には、抗がん剤の効果が明らかになるというメリットがある。
「トリプルネガティブ乳がんの術前治療で、アンスラサイクリン系を4サイクル、タキサン系を4サイクル行うと、3分の1くらいの患者さんが病理学的完全奏効(pCR)になります」
病理学的完全奏効とは、顕微鏡でがん細胞が見つからない状態を指す。つまり、トリプルネガティブの場合、3人に1人は、抗がん剤治療が非常によく効くわけだ。
術前治療でがんが消失した状態(pCR)になるかどうかは、治療結果と密接な関係にある。がんが消失した状態になった人ほど再発が少ない傾向にあるのだ。どのくらい密接に関係するかは、乳がんのタイプによって異なるが、トリプルネガティブではとくにその傾向が顕著だという。
「トリプルネガティブでも、術前治療でがんが消失した状態になったら、再発の危険性は非常に低いので、安心して過ごすことができます。逆にがんが消失した状態にならなければ、再発のことも考えておく必要があります。ただし、がんが消失しなかったからといって、すべての人が再発するわけではありませんから、その点は誤解しないでください」
術前治療を行えば、基本的には術後治療は行わない。ただ、がんが消失しない状態(pCRにならない場合)では、術後治療も加えたほうがいいのではないか、という意見がある。そこで、日本と韓国が共同で、大規模な臨床試験を進めている。
術前治療で病理学的完全奏効にならないトリプルネガティブ乳がんを対象に、ゼローダ(*)による術後治療を行う群と、術後治療を行わない群とを比較した試験である。結果によっては、術前治療でがんが消失しない場合、術後治療でゼローダが使われるようになるのかもしれない。
*ゼローダ=一般名カペシタビン
再発後は未使用の抗がん剤を
再発した場合の治療は、それまでの治療で、どんな抗がん剤を使用しているかで違ってくる。例えば、アンスラサイクリン系とタキサン系を使っていなければ、それを使う。術前治療で3分の1の人が、がんが消失した状態になるように、非常によく効く人がいるはずである。
「術前・術後にアンスラサイクリン系とタキサン系を使い、それでも再発した場合、その乳がんはこれらの抗がん剤に抵抗性を持っています。そこで、それ以外の抗がん剤を使うことになります」
具体的に言えば、ゼローダ、ジェムザール(*)、TS-1(*)、ハラヴェン(*)などである。これらは、いずれも再発転移乳がんの治療薬として認可されている。分子標的薬で使用できるのはアバスチン。前述したように、アバスチンはタキソールとの併用で使用が認められている。
*ジェムザール=一般名ゲムシタビン
*TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム
*ハラヴェン=一般名エリブリン
新しい分子標的薬は?
トリプルネガティブに対する新しい薬としては、現在開発中の分子標的薬「PARP1阻害薬」が注目されている。抗がん剤はDNAを傷つけることで細胞を殺すが、PARP1という酵素は、DNAの傷を修復してしまう。このPARP1の働きをブロックすることで、がん細胞を殺すのである。
「再発したトリプルネガティブ乳がんに使用した第2相試験では、生存期間が延びたことで注目されました。期待されて第3相試験が行われたのですが、残念ながら効果が証明されませんでした」
第3相試験では、ジェムザール+パラプラチン(*)群と、これにPARP1阻害薬を加えた群で、比較が行われた。差が出なかった理由としては、PARP1阻害薬がどんなタイプに効きやすいのかを突き止めないまま、臨床試験を行ったことが考えられている。トリプルネガティブはいくつかのタイプに分かれるので、どのタイプに効くかが明らかになれば、臨床試験で効果が証明される可能性は高い。
「第3相試験の結果は残念でしたが、PARP1阻害薬が、トリプルネガティブの治療における期待の薬であることは変わりません」
この薬がどんなタイプに効くのかが明らかになれば、トリプルネガティブ乳がんの治療は1歩前進することになるだろう。
*パラプラチン=一般名カルボプラチン
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