まだ標準治療薬こそないが、アンスラサイクリン系やタキサン系薬剤などが効果的 トリプルネガティブ乳がん患者よ! 術前化学療法で乗り切ろう
注目される白金製剤、分子標的薬
- ●シスプラチンによる術前療法(N=28)
- pCR(病理学的完全奏効率)=21%
pPR(病理学的部分奏効率)=14%
SD(安定)=33%
PD(進行)=32% - (Garber J et al)
- ●白金製剤療法の進行乳がんに対する有用性(後ろ向き研究)(N=24)
- ORR(客観的奏効率)=38%
DOR(奏効期間)=5.8カ月 - (Yi SY et al)
[抗HER1抗体併用の効果]
- ●セツキシマブ+カルボプラチンによる進行乳がんの治療(N=71)
- ORR(客観的奏効率)=17%
CB(有用性)=31% - (乳がんの応用研究コンソーシアム(TRCRC)001)
- ●イリノテカン/カルボプラチン+セツキシマブによる進行乳がんの治療(N=39)
- ORR(客観的奏効率)=49%
- (US Oncology)
前述したとおりトリプルネガティブ乳がんに有効な化学療法のレジメンはまだ確立されていない。そのためさまざまな薬剤がリストアップされ、現在、臨床試験も数々進行中だ。なかでも有望なのが白金製剤と分子標的薬である。
まず白金製剤では、紅林さんによると「通常の乳がんと違って、トリプルネガティブ乳がんはDNAの傷害を強くおこす抗がん剤が効くかもしれないとして、ブリプラチンやランダ(一般名シスプラチン)、やパラプラチンなど白金製剤を使うことが考えられます。シスプラチン単独ではpCR率が20パーセント程度です。単独でそれだけの効果としては良好だといえるでしょう。パラプラチンは単独で使われることはなく、ジェムザールと併用すると再発例で3~4割効くという報告があります」
また、トリプルネガティブに発現率の高いHER1をターゲットにした薬剤の臨床試験も行われている。アービタックス(一般名セツキシマブ)という分子標的薬に抗がん剤(パラプラチン、トポテシン)をプラスした場合の効果を見ているが、現在のところ成績は振るわず、未知数である。
次々に開発される治療薬
ジェムザール/ パラプラチン (n=44) | BSI-201+ ジェムザール/ パラプラチン (n=42) | P値 | |
---|---|---|---|
客観的奏効率 | 7(16) | 20(48) | 0.002 |
有用 | 9(21) | 26(62) | 0.0002 |
無進行生存率の中央値 | 3.3 | 6.9 | <.0001 |
全生存率の中央値 | 5.7 | 9.2 | 0.0005 |
DNA障害の修復にかかわる酵素をブロックするPARP-1阻害薬という薬があるが、その中の1つBSI-201という薬が、トリプルネガティブに効果が高いことが基礎研究で明らかになり、臨床試験が行われた。その結果、ジェムザールとパラプラチンの併用にBSI-201を加えた群と加えない群を比較すると、BSI-201を加えたほうが再発例でジェムザール+パラプラチンよりも生存期間が2~3倍伸びたと報告され、注目を集めている。
また、Src阻害剤という、トリプルネガティブで活性を受けている細胞のシグナル伝達の1つをブロックする薬も開発されている。その1つであるスプリセル(一般名ダサチニブ)は慢性骨髄性白血病の治療薬だが、これを乳がんに応用しようとしている。基礎研究でトリプルネガティブに対する感受性が高いことがわかり、ようやく臨床試験が始まった。紅林さんの感触では劇的に効くケースがあり、将来期待が寄せられるものの1つだという。
そのほかにはVEGF(血管内皮細胞増殖因子)をターゲットにするアバスチン(一般名ベバシズマブ)。がん細胞が栄養をとるために血管を新しく作るのを阻止し、がん細胞の増殖を防ぐ血管新生阻害薬だ。アメリカでの試験で良好な成績が報告されている。
「これらの薬が日本の臨床現場で使えるようになるのはまだ先でしょう。しかし期待される薬剤であることは確かで、これまで打つ手がなかったトリプルネガティブに希望が出てきています。トリプルネガティブに特異性が高い分子標的薬が使えるようになれば将来的には展開が変わってくるかもしれません」

あきらめないで治療をする
「トリプルネガティブとひと口に言っても、おそらく5~6種類に分類されると私は考えています。トリプルネガティブは一枚岩ではないということは認識しておく必要があります」と紅林さんは強調する。

たとえばトリプルネガティブのうち、PARP-1阻害薬が効くのは3~4割で、残りは効かないわけだが、その効かなかった6~7割の人はほかの薬に高い感受性を示すかもしれないということだ。
だから、あきらめずに有効とされる薬を次々に使っていくのがいいようだ。
「将来的にはトリプルネガティブ乳がんの個別化を進めていくことが重要でしょう。同じトリプルネガティブといえどもそれぞれの患者さんで効く薬が違うわけで、個別化が進めば効く薬を選択できる可能性が広がっていきます。その患者さんのがんの性質がより詳細にわかればそれに合わせて薬を選ぶことができる。そうなるのがベストでしょう」
昔は単に「乳がん」だったトリプルネガティブ。なにをやっても効かないとされてきた乳がんは「トリプルネガティブ乳がんでも、あきらめないことが肝心」とわかり、それに応じた治療へと向かった。が、その先に行くためにはトリプルネガティブのなかでタイプを細かく分類する必要があり、最終的には1人ひとりの患者さんのがんに合わせて治療するのが理想的だと紅林さんは言う。さらなる進歩を求めたい。
同じカテゴリーの最新記事
- 乳がん治療にも免疫チェックポイント阻害薬が登場! トリプルネガティブ乳がんで承認、さらに――
- BRCA遺伝子変異の再発乳がんに大きな選択肢が トリプルネガティブ乳がんにリムパーザに続き新たな治療薬が承認予定
- 遺伝子解析でさらに踏み込んだ治療へ トリプルネガティブ乳がんへの挑戦
- トリプルネガティブ乳がんに、PARP阻害薬、PD-1阻害薬などの新薬も登場
- トリプルネガティブ乳がん:新薬、治療内容の開発も盛んに行われている トリプルネガティブでも抗がん薬で半数に効果あり
- サンアントニオ乳がんシンポジウム2012最新報告:新薬、ホルモン療法の最新知見も トリプルネガティブ乳がんにも標的治療実現の兆しが!!
- 術前化学療法で3~5割の患者さんのがんが消えている! 新たな選択肢も!最新トリプルネガティブ治療
- アンスラサイクリン系とタキサン系抗がん剤を上手く使った術前・術後治療がカギ 治療に希望が。トリプルネガティブ乳がん最新情報