トリプルネガティブ乳がん:新薬、治療内容の開発も盛んに行われている トリプルネガティブでも抗がん薬で半数に効果あり
アンスラサイクリン系、タキサン系薬剤を推奨

乳癌診療ガイドラインでは、トリプルネガティブ乳がんの化学療法の選択について「標準的なアンスラサイクリン系抗がん薬*あるいはタキサン系抗がん薬*を含む治療が勧められる」とされています。
自治医科大学附属さいたま医療センターの基本的な治療内容は、このガイドラインに基づいたAC-T療法を基本としています(図5)。
AC-T療法とは、エンドキサン*+アンスラサイクリン系抗がん薬の後にタキサン系抗がん薬を使用した逐次投与療法です。
また、タキサン系抗がん薬を中心とした治療方法も採用しています。
術前化学療法は、術後化学療法を前倒しで行うという発想のため抗がん薬の選択は術前術後とも原則同じです。
「2008年の臨床試験で採用されたレジメン(治療計画)の効果が高かったことから、当施設ではアンスラサイクリン系抗がん薬とタキサン系抗がん薬の併用療法も使用しています」
*アンスラサイクリン系抗がん薬=アドリアシン(一般名ドキソルビシン)、ファルモルビシン(一般名エピルビシン)
*タキサン系抗がん薬=タキソール(一般名パクリタキセル)、タキソテール(一般名ドセタキセル)
*エンドキサン=一般名シクロホスファミド
フローズンキャップで髪が抜けない方も
抗がん薬治療の主な副作用は、脱毛・しびれなどです。
自治医科大学附属さいたま医療センターでは、しびれ予防としてフローズングローブ(冷却手袋)(図6)、フローズンソックス(冷却靴下)(図7)、脱毛予防としてフローズンキャップ(冷却帽子)を導入しています。
タキソールを毎週投与する治療法でフローズンキャップを装着すると髪の毛が抜けない方が10%弱くらいいるとのことです。
また、とくにタキサン系抗がん薬では手足のしびれが重要な副作用ですので、その症状を緩和する目的としてフローズングローブとソックスを使用し一定の効果を上げています
「腫瘍の大きさや状況にもよりますが、トリプルネガティブ乳がんでも既存の抗がん薬治療で、約50%の患者さんは助かります。ですから、まずは患者さんが治療をしっかりと完遂できるようなサポートをすることが必要だと考えています」


抗がん薬で効果が見られないタイプの治療が課題
トリプルネガティブの領域では、取り組むべき課題が山積しています。
課題の1つは化学療法で効果が見られなかった群の治療をどうするのか、という問題です。
トリプルネガティブ乳がんは、アンスラサイクリン系抗がん薬とタキサン系抗がん薬によい反応を示す群がいる一方で、効果が見られない群も一定の割合で存在します。
では、効果が見られなかった方や再発した方に対して、どの薬を使うのかということになりますが、これに関してはいまだ有効な治療法が確立されていません。
「効果が見られなかった群の治療戦略に対する明確な答えはありませんが、既存の抗がん薬では難しいことはわかっていますので異なる治療法を選択して治療を行っていきます」
トリプルネガティブ治療の研究は進んでいる
トリプルネガティブ乳がん治療では、2011年に日本発の新薬ハラヴェンが承認されました。
最近では、アンスラサイクリン系抗がん薬とタキサン系抗がん薬による治療後にTS-1*やゼローダ*を追加する臨床試験や、PARP阻害薬と化学療法の併用試験など、薬剤の組み合わせに関する研究が進んでいます。
このほかにも、たとえば若年発症の乳がんで、かつ近親者に乳がんや卵巣がん発症者がいる方はプラチナ系薬剤*を、転移進行乳がんにはアバスチン*やEGFR阻害剤を加えた治療方法など、がんの特徴に対応した治療も考えられてきています。
また毎年12月に米国サンアントニオで開催される「サンアントニオ乳がんシンポジウム」(乳がん領域における世界最大規模の学術集会)でも、トリプルネガティブ乳がんを対象とした研究結果が数多く発表されて、注目を集めました。(米国乳腺外科医インタビュー参照)
このようにトリプルネガティブ乳がんは近年、有効性が高いと期待される新薬、治療内容の開発が盛んですが、大半が研究の段階で、臨床応用への実現や薬剤選択の優劣については現在の臨床試験結果を待つ必要があります。
「わたしたちは現在、既存の化学療法が効く、効きにくいタイプを見つけ出し、効きにくい人には新たな治療法を見つけていく、このことをモットーとして治療法の研究に努めています」
トリプルネガティブ乳がんは、その言葉からもネガティブなイメージがつきまといます。
しかし、再発なく長期に元気に生活している方々はトリプルネガティブ乳がんにもたくさんいらっしゃいます。そして、その数は決して少ないわけではないということを、治療を受けている患者さんにぜひ知っていただきたいということです。
*TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム *ゼローダ=一般名カペシタビン
*プラチナ系薬剤=シスプラチン(一般名)、カルボプラチン(一般名)など *アバスチン=一般名ベバシズマブ
同じカテゴリーの最新記事
- 乳がん治療にも免疫チェックポイント阻害薬が登場! トリプルネガティブ乳がんで承認、さらに――
- BRCA遺伝子変異の再発乳がんに大きな選択肢が トリプルネガティブ乳がんにリムパーザに続き新たな治療薬が承認予定
- 遺伝子解析でさらに踏み込んだ治療へ トリプルネガティブ乳がんへの挑戦
- トリプルネガティブ乳がんに、PARP阻害薬、PD-1阻害薬などの新薬も登場
- サンアントニオ乳がんシンポジウム2012最新報告:新薬、ホルモン療法の最新知見も トリプルネガティブ乳がんにも標的治療実現の兆しが!!
- 術前化学療法で3~5割の患者さんのがんが消えている! 新たな選択肢も!最新トリプルネガティブ治療
- アンスラサイクリン系とタキサン系抗がん剤を上手く使った術前・術後治療がカギ 治療に希望が。トリプルネガティブ乳がん最新情報
- まだ標準治療薬こそないが、アンスラサイクリン系やタキサン系薬剤などが効果的 トリプルネガティブ乳がん患者よ! 術前化学療法で乗り切ろう