サンアントニオ乳がんシンポジウム2012最新報告:新薬、ホルモン療法の最新知見も トリプルネガティブ乳がんにも標的治療実現の兆しが!!

取材・文●中西美荷 医学ライター
発行:2013年3月
更新:2019年12月

フェマーラと新薬の併用で無増悪生存期間が延長

■図7 レトロゾールと新薬併用の効果0123がんサポ特集7図7ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がんに対して、レトロゾールと新薬PD0332991を併用することで無増悪生存期間が延長された

(TRIO-18試験)

閉経後で、ホルモン受容体陽性、HER2陰性の局所進行・転移乳がんに対する1次治療として、フェマーラに、PD0332991と呼ばれる新たな経口薬を併用することで、無増悪生存期間が延長することが、明らかになった。PD0332991は、細胞のDNA複製を止めることによって、がん細胞の増殖を阻害する。

この第Ⅱ相試験は2部に分かれており、1部66例での成績はすでに報告されていたが、今回は、前臨床での研究でPD0332991の効果が高いことが示されているサイクリンD1というタンパク質の増幅、がん抑制遺伝子p16の欠失という条件を持つ99例を対象とした2部を加えて、2012年7月までのデータを解析した結果が報告された。

無増悪生存期間は、フェマーラ単剤群で7.5カ月だったのに対してPD0332991併用群では26.1カ月と、有意に長かった(図7)。

結果を発表したカリフォルニア大学ロサンゼルス校のリチャード・フィンさんは、「重要なことは、この薬の副作用が、患者さんにとって耐えやすく、治療を続けやすいものだということ」と指摘。副作用として多かった好中球減少や白血球減少はコントロールが可能で、発熱性好中球減少は認められなかったことを強調した。

なお今回の報告では、PD0332991の効果が高い患者さんを特定するためのバイオマーカーは明らかにならなかった。フィンさんによれば、「エストロゲン受容体陽性でさえあれば効果が得られた」という。2013年には、第Ⅲ相臨床試験が開始される予定である。

アバスチン併用はホルモン療法の効果増強せず

■図8 ホルモン療法とベバシズマブ併用の効果ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がんで、ホルモン療法にベバシズマブを併用しても無増悪生存期間の有意な改善は認められなかった

(LEA試験)

スペインのグレゴリオマラニョン病院のミゲル・マーチンさんは、ホルモン受容体陽性でHER2陰性の局所・転移乳がんに対する1次治療として、ホルモン療法にアバスチンを加えることの効果を検討した試験の結果を報告した。体内のVEGFの数値が上���している場合に、ホルモン療法に対する感受性が低いことを示すデータや、適応によってVEGFの受容体の数が減少している場合に、ホルモン療法耐性が克服されるというデータがあることから、「アバスチン併用によってホルモン療法耐性の発現を遅らせることができる」という仮説のもとに行われたもので、380名の患者さんをホルモン療法(フェマーラまたはフェソロデックス)のみ(189例)またはホルモン療法+アバスチン(191例)に振り分けて比較した。

その結果、無増悪生存存期間はホルモン療法単独群で13.8カ月、アバスチン併用群で18.4カ月と、アバスチン併用によって延長したものの、有意差は認められなかった(図8)。全生存期間も延長されなかった。

マーチンさんは、「有意差はなかったが、アバスチンの効果を無視することはできない。現在行われているバイオマーカーの解析によって、有益性を得られる患者さんを特定できる可能性がある」と述べた。

フェソロデックス=一般名フルベストラント

HER2陰性でも抗HER2療法が有効な人も

乳がんにおけるもう1つの標的治療である抗HER2療法では、有益性を得られる可能性のある新たな患者集団の存在が明らかになった。

サイトマンがんセンターのロン・ボーズさんらは、1,500例近い患者さんについて解析した8つの乳がんゲノムシークエンシング(すべての遺伝子の全塩基配列を解読すること)の研究結果を吟味し、HER2検査陰性だが、HER2遺伝子に変異のある患者さん25人を発見した。ボーズさんによれば、HER2遺伝子変異の大部分は、がんの発生や増殖にかかわる過程を活性化する。つまり、HER2遺伝子の変異が、これらの患者さんの乳がんを引き起こしている可能性が高く、抗HER2療法が有効であると考えられる。

しかし現在、抗HER2療法を行うかどうかは、HER2増幅の有無を調べる検査によって決定されているため、HER2遺伝子に変異のある患者さんに対して抗HER2療法が行われることはない。こうした患者さんを見つけるためには、HER2遺伝子の異常の有無を調べる遺伝子検査が必要である。

ボーズさんらはさらに、HER2遺伝子変異の乳がん細胞の中には、抗HER2治療薬であるタイケルブに抵抗性のものがある一方で、ネラチニブ(一般名)は、すべてのHER2遺伝子変異の患者さんに対して効果的だったことも報告した。この結果をもとに、現在、HER2陰性でHER2遺伝子の変異がある患者さんに対してネラチニブを投与する第Ⅱ相臨床試験の登録が行われている。

遺伝子解析技術の進歩を背景に、個別化治療の実現に向けて、乳がんの原因となる標的を明らかにする研究や、それを止めるための治療法の研究は、着実に進められている。

実験室の成果が臨床でも検証され、より多くの患者さんに、より安全で有効な治療が届けられることが期待される。

タイケルブ=一般名ラパチニブ

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