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HER2陽性・進行再発乳がんの薬物療法に大きな変化

監修●田村研治 国立がん研究センター中央病院乳腺・腫瘍内科長
取材・文●柄川昭彦
発行:2015年11月
更新:2016年1月


2次治療の標準治療は カドサイラ単独療法

もう1つの新しい薬であるカドサイラは、ちょっと変わった薬剤である。従来から使われてきたハーセプチンに、抗がん薬を配合させた薬(合剤)なのだ。

「カドサイラの一般名はT-DM1ですが、Tはハーセプチンの一般名であるトラスツズマブ、DM1はトキシンという抗がん薬の一般名です。抗体と抗がん薬をセットにした薬で、現在、このようなタイプの薬の開発がどんどん進められています」

カドサイラはHER2受容体を持つがん細胞を探し出し、そこに結合して、ハーセプチンとしての効果を発揮する。さらに、抗体ががん細胞内に取り込まれることで、抗がん薬も効果を発揮し始めるのである(図2)。

図2 カドサイラの作用

「DM1は非常に副作用が強く、抗がん薬としては開発されませんでした。ところが、抗体に付け、がん細胞に選択的に送り届けることで、副作用が抑えられ、治療に使えるようになったのです」

カドサイラに関しては、EMILIA試験という2次治療での比較試験が行われた。1次治療でハーセプチン+タキサン系併用療法を受けている患者さんを対象に、カドサイラ単独群とタイケルブ+ゼローダ併用群を比較した試験である。

結果は、無増悪生存期間も全生存期間も、カドサイラ群のほうが有意に長くなった。全生存期間の中央値は、タイケルブ+ゼローダ併用群が25.1カ月だったのに対し、カドサイラ群は30.9カ月であった(図3)。

図3-1 EMILIA試験
図3-2 HER2陽性進行乳がんに対するカドサイラの効果(全生存期間)

「この結果により、カドサイラ単独療法が2次治療の標準治療となりました。これもすでにガイドライン(日本乳癌学会編)に入っています」

カドサイラ未使用なら 3次治療以降でも用いる

3次治療以降に関しては、いろいろな選択肢があるが、カドサイラを使っていない患者さんに対しては、カドサイラを選択するのがよいことがわかっている。

「HER2陽性の進行再発乳がんで、すでにハーセプチン、タイケルブ、タキサン系抗がん薬は使っているが、カドサイラは使っ��いない患者さんを対象に、カドサイラ単独療法と、主治医が選択したそれ以外の治療法の比較試験が行われました。その結果、無増悪生存期間も全生存期間も、カドサイラ群のほうがよかったのです」

この結果から、3次治療以降でカドサイラが未使用の場合には、カドサイラを使ったほうがよい、という結論になったのである。

副作用が軽いのが カドサイラの優れた特徴

新しい標準治療の副作用はどうなのだろうか。

「パージェタを含む3剤併用療法の副作用は、安全性は十分に確保されていますが、従来の2剤併用に比べると、若干副作用が強くなっています」

パージェタが加わることで、その分の副作用が出てくるのは仕方がないだろう。

「カドサイラは、ハーセプチンと抗がん薬の合剤ですが、その副作用は、従来のハーセプチンと抗がん薬の併用療法に比べると、はるかに軽くなっています。抗体を使って抗がん薬をがん細胞に運ぶため、正常細胞が影響を受けにくいからだと考えられます」

このように副作用が軽いのが、カドサイラの大きな特徴といえそうである。そのため、新たな使用法も模索されている。

「高齢者や体力が低下している人では、1次治療で3剤併用療法が受けられないことがあります。そのような場合に、カドサイラを使えないだろうか、と考えられているのです。今後、臨床試験を行って検討していくことになります」

パージェタやカドサイラを、術前・術後の補助療法に使用できないか、という検討も進められている。

「すでに多くに臨床試験が組まれ、進行中です。現在の段階では、パージェタもカドサイラも進行再発乳がんにしか使えませんが、臨床試験の結果によっては、手術できる患者さんにも使えるようになる可能性があります」

また、新しい治療薬の開発も進められている。HER2陽性乳がんの治療薬としては、カドサイラのように、ハーセプチンにDM1以外の抗がん薬を配合させた薬の研究が進んでいるという。

「乳がんの治療薬に限らず、抗体と抗がん薬をくっつけた抗体薬物複合体製剤の開発が、盛んに行われているようです」

将来的には、このようなタイプの薬剤が中心となる時代がくるのかもしれない。

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