乳がん再発・転移時には HER2発現の陰転化に配慮を
ホルモン受容体陰性/陽性も一定数に変化が
術前化学療法後の陰転化は、ホルモン受容体についても起こる。
「ホルモン受容体陽性の乳がんは、術前化学療法後に、2割ぐらいの確率で陰転化は起こっています。その場合でも、診断時の発現に基づく治療方針のエビデンスに準じてホルモン療法は5~10年続けます。ただ、ホルモン受容体陽性のタイプは、他のサブタイプと比べ、抗がん薬によるがんの縮小度や生命予後への寄与が少ない症例もあるため、術前化学療法は減少傾向にあります」
原発がんのホルモン受容体陽性/陰性が、再発・転移時に変化するという現象も、約30%程度で起こることが明らかになっている。再発・転移時の治療法は、それぞれ再検査で明らかになったホルモン受容体の陰性/陽性に従ったものを行う。
いずれにせよ、HER2発現についてもホルモン受容体についても陰転化した場合に特化した新しい治療法というのは、今のところ確立されていない。将来的には期待できるかもしれないが、現状ではサブタイプに従った治療が行われている。
「循環がん細胞」という新たな可能性

HER2発現の場合、陰転化が起こらず陽性としての治療を行っていても、薬剤への耐性により薬の効果が得られなくなってしまい、セカンドライン(2次)、サードライン(3次)と治療が進む場合がある。それら耐性の機序については、P95HER2、リン酸化HER2など、耐性にかかわる要因に対する研究も様々進められている。
そして、昨今、HER2の分野で、注目されているのが、血中にある循環がん細胞の存在だという(図5)。
循環がん細胞とは末梢血液中に認められる、原発がんから遊離したがん細胞のことだ。2004年、海外の論文で、転移性乳がん患者において、治療効果予測因子であり予後因子であることが報告された。
その後、治療開始後も循環がん細胞が多い患者さんは、現行の治療が効かなくなるため、早期に治療を変更するべきであるということが、日本の臨床試験でも示された。
「循環がん細胞」の HER2発現に着目した治療へ

(Hayashi N, Nakamura S, et al, Int J Clin Oncol. 2012)
さらに、循環がん細胞に発現しているマーカーを測定して、その性質を解明することで、転移の有無や治療抵抗性、予後の予測、そしてこれを標的とした治療法の開発について研究が進んだ。
「私たちの患者さんを対象にした研究では、HER2陽性の循環がん細胞を持つ転移性乳がん患者さんは予後不良であるという可能性を示しました。さらに、そういう人たちの中には、原発巣ではHER2陰性だったものが、24.2%という高率で陽性に転じているという陽転化があることがわかりました(表6)」
このことにより、予後の悪いと予測される患者さんでも、HER2が陽性に転じていれば、ハーセプチンによる治療の可能性が見えてきた。通常、陽転化はわずか2%ほどだというが、循環がん細胞のように、もし高い確率で陽転化が起こっているケースが、他にも突き止められれば、治療のカードは増えるだろう。
「QOL(生活の質)を低下させずに、生命予後を少しでも延ばすことが、転移に対する治療の基本的な考え方ですから、複数のカードが使えれば、治療の順番を考えることにより、生命予後を少しずつでも延ばしていくことができると考えています」
乳がんの研究は、このように様々な広がりを見せている。研究が進めば、乳がんの治療はさらに個別化へ進んでいくと期待できるだろう。
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